婚約破棄、感謝いたしますわ!節約狂いの悪役令嬢、浮いた婚約維持費で領地を救う

小梅りこ

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「……セバス。今、何て仰いました?」

私は、領地経営の月次報告書を精査していた手を止め、眼鏡をずらして執事を見上げた。
セバスの手には、不必要に分厚く、見るからにコストのかかっていそうな金縁の封筒が握られている。

「はい、お嬢様。王宮からの親展至急便でございます。内容は……一ヶ月後に執り行われる、クロード殿下とルルナ様の成婚式に向けた『特別奉納金』の要請、および招待状とのことです」

「……特別奉納金? 要するに、あのおバカなカップルの派手な結婚式費用を、私が一部負担しろと言っているのですか?」

私は、セバスから引ったくるように手紙を奪い取った。
そこには、鼻につくほど美化された二人の肖像画の透かしが入った便箋に、こう記されていた。

『愛の門出を祝し、かつての友として、グロスタ家には三千万ゴールドの寄付を期待する。なお、寄付がない場合は、王家に対する忠誠心を疑わざるを得ない――』

「……。ふふ、ふふふふ……。あはははは!」

私は思わず、椅子から転げ落ちんばかりに笑い声を上げた。
あまりの厚顔無恥さに、怒りを通り越して、もはや新種のコメディを見ている気分だ。

「三千万ゴールド? それを『期待する』ですって? あの方、私が以前の断罪パーティで回収した慰謝料の額、忘れてしまったのかしら」

「お嬢様、顔が……。目が『完済(デッドライン)』を越えた時の冷徹さになっておりますよ」

「セバス、この封筒を見て。この金縁、本物の金粉を使っていますわ。この一通を送るためだけに、どれほどの人件費と郵送費を無駄にしたのかしら。……ああ、視界に入るだけで一秒ごとに私の精神的資産が摩耗していくわ!」

ちょうどそこへ、軍事演習から戻ってきたカシアン様が顔を出した。

「……ウリエル。えらく上機嫌だな。またどこかで埋蔵金でも見つけたか?」

「カシアン様、聞いてください。埋蔵金どころか、王都から『集金』という名の果たし状が届きましたわ」

私は彼に手紙を突きつけた。
カシアン様は内容を一読するなり、紙をクシャクシャに握りつぶそうとした。

「……あの無能王子め。私の領地を再建している貴様に、寄付を募るだと? ……。よし、私が騎士団を率いて王都へ行き、その『奉納金』を奴の口にねじ込んでこよう」

「お待ちになって、カシアン様! 暴力は非効率ですわ。輸送費と兵糧代の無駄です」

私はカシアン様の腕を掴んで制止し、不敵な笑みを浮かべた。

「こういう時は、『経済的』に処理するのが一番ですの。セバス、返信用の便箋を用意して。あ、一番安い、再生紙のやつでいいわ」

私はペンを走らせた。
そこには、お祝いの言葉など一文字も書かず、ただ箇条書きで数字を並べた。

『一、本招待状の開封および確認に伴うコンサルタント費用:一〇万ゴールド
 一、不当な寄付要請による精神的苦痛への慰謝料:五〇〇万ゴールド
 一、上記合計額に、領地開発への投資機会損失利息(年利一八%)を加算

 差し引き、王家よりグロスタ家へ五一〇万ゴールドの支払い義務が発生しております。
 結婚式当日の正午までに振り込みがない場合、法的措置および、王宮の杜撰な会計報告を全ギルドへ公開いたします。 敬具』

「……。ウリエル。これ、お祝いの返信ではなく、ただの『請求書』だな」

カシアン様が、呆れたように、けれどどこか嬉しそうに呟いた。

「当然ですわ。私の時間を奪ったのですから、相応の対価(チャージ)を支払っていただかないと。……セバス、この手紙に『受取拒否』のスタンプを特大サイズで押して、着払いで送り返してちょうだい」

「かしこまりました。……。殿下の顔が青くなるのが目に浮かびますな」

私は窓の外に広がる、黄金色に輝き始めた領地の畑を眺めた。

「あの方たちがシャンパンの泡に消えていくお金を数えている間に、私はこの地で本物の富を積み上げます。……。さあ、カシアン様! 寄付金の計算なんて無駄な時間は終わりです。次は、新しい灌漑設備の入札準備をしましょう!」

「……。ああ。貴様のその『一銭も負けない』という姿勢、嫌いじゃないぞ」

カシアン様は、私の肩を力強く叩いた。
王都からの不愉快な手紙は、私のやる気に火をつけるだけの、最高に効率的な「焚き付け」にしかならなかったのである。
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