婚約破棄、感謝いたしますわ!節約狂いの悪役令嬢、浮いた婚約維持費で領地を救う

小梅りこ

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ノックス領の青空の下、教会の鐘が鳴り響く。
今日は私、ウリエル・フォン・グロスタと、カシアン・ノックス辺境伯の結婚式当日である。

教会の前には、着飾った貴族たち……ではなく、作業着を着た領民や、エプロン姿の商人たちが長蛇の列を作っていた。

「さあさあ皆様! 本日の参列は『自由意志による寄付制』となっておりますわ! 一口一ペニーから、領地発展基金への投資を受け付けております!」

私は、純白のドレス――もとい、将来のリメイクを前提とした「多機能型ウェディングウェア」に身を包み、受付で叫んだ。

「……ウリエル。花嫁が自ら集金箱の前に立つのは、やはり前代未聞だと思うのだが」

タキシード姿のカシアン様が、額の汗を拭いながら苦笑いしている。

「何を仰いますの。私の晴れ姿を見るという『無形サービス』に対し、正当な対価(ベネフィット)を求めるのは当然の権利ですわ。……ほら、カシアン様も笑って! 笑顔一つで寄付金が五%アップする計算なんですのよ!」

「……。分かった、努力しよう。……。しかし、このドレス。近くで見ると、やはり素晴らしい技術だな」

「ええ。領地の職人たちが、端切れ一つ無駄にせずに作り上げた傑作ですわ。……。見てください、このレース。実はこれ、去年の余った漁網を特殊加工して再利用(アップサイクル)したものなんですのよ?」

「……。言われなければ、王都の最高級品に見える。……。君の経済観念には、美しさすら節約できる魔法があるらしいな」

式が始まると、参列した領民たちから割れんばかりの拍手が沸き起こった。
豪華な装飾はない。代わりに、会場を埋め尽くしているのは、領地で採れた色とりどりの野菜や果物の山だ。

「皆様! 誓いのキスの後は、こちらの特産品即売会へとご案内いたしますわ! 本日限定、新婚割引(ディスカウント)を適用いたします!」

私が宣言すると、領民たちは「おめでとう!」「最高だ、ウリエル様!」と、涙を流しながら笑い、歓声を上げた。
彼らにとって、この結婚式は単なる儀式ではなく、自分たちが豊かになったことへの収穫祭(フェスティバル)なのだ。

そこへ、セバスが不自然に重たい小さな箱を運んできた。

「お嬢様、カシアン閣下。……。炭鉱のクロード氏より、お祝いの品が届いております」

「あら。あの方、まだ生きていらしたのね。……。まさか、着払いで送りつけてきたのではなくて?」

「いえ、送料は彼の給与から天引き済みでございます。……。中身は……こちらです」

セバスが箱を開けると、そこには真っ黒な、けれど驚くほど丁寧に磨き上げられた「特級の石炭」が一粒入っていた。
添えられた手紙には、武骨な字でこう書かれていた。

『ウリエル、おめでとう。……。初めて自分の手で掘り、自分の手で磨いた、一ペニーの価値がある石炭だ。……。私の人生で、初めて「黒字」を出した記念に、君たちに贈る』

私はその石炭を手に取り、少しだけ目を細めた。

「……ふん。相変わらず、美的センスがありませんわね。……。でも、セバス。これ、熱効率が良さそうですわね。今夜の初夜の暖炉で、一〇〇パーセント燃焼させて差し上げましょう」

「……。クロードなりの、精一杯の更生(コストカット)というわけか。……。ウリエル、彼も少しは『価値』を知ったようだな」

カシアン様が、私の手の中の石炭を優しく眺めた。

祭壇の前で、私たちは向き合う。
神父様が「病める時も、貧しき時も……」と誓いの言葉を述べるが、私は心の中でそれを書き換えていた。

(病める時は早期発見で医療費を抑え、貧しき時は徹底した構造改革で黒字に転換し、共に資産を築くことを誓いますわ!)

「カシアン・ノックス。……。君を、私の唯一の共同経営者(パートナー)として迎えたい。……。愛している、ウリエル。私の全財産と、この命を君に預ける」

「……。お受けいたしますわ、カシアン様。……。貴方の人生という膨大な負債も、私がすべて愛(プラス)に変えて差し上げます」

誓いのキスを交わした瞬間、教会の外では領民たちが「万歳!」と叫び、即売会の開始を告げる銅鑼の音が響き渡った。

「さあ、カシアン様! 余韻に浸っている暇はありませんわ! これから披露宴(即売会)の売上集計が待っていますのよ!」

「……。ああ。……。世界一幸せで、世界一ケチな、私たちの生活の始まりだな」

カシアン様は、私の手を強く握り、賑やかな人混みの中へと踏み出した。
愛と算盤。
その両方を手に入れた私たちの物語は、今、最高の実益(ハッピー)を伴って完結へと向かう。
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