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「……ナギ! 待ってくれ、ナギ!」
狩猟祭から数日後。私が街で「最高に切れる包丁」を品定めしていた帰り道、聞き慣れた、そして聞きたくない声が路地裏に響いた。
振り返ると、そこには金ピカの正装が心なしかヨレヨレになったカイル王子が、息を切らして立っていた。
背後にリリアの姿はない。どうやらこっそり抜け出してきたらしい。
「……あら、カイル元殿下。今日はウサギ狩りはお休みですの?」
私は買ったばかりの包丁の刃こぼれをチェックしながら、冷ややかに応じた。
正直、今の私にとって彼は、賞味期限の切れたひき肉以下の存在だ。
「……あ、あの時のことは謝ろう。私が悪かった。……お前があれほどの力を隠していたとは知らなかったのだ」
カイルが一歩歩み寄る。その瞳には、あろうことか「期待」の色が浮かんでいた。
「……ナギ。リリアは、その……確かに可愛らしいが、少々金がかかりすぎる。それに、あの日の君の雄姿を見て、私は気づいたのだ。……私にふさわしいのは、やはり君のような、国を背負って立つほどの『強さ』を持つ女なのだと!」
私は、思わず持っていた包丁を落としそうになった。
……この男、何を言っているのかしら?
「……寄りを戻してやってもいいぞ、ナギ。……お前も、本当は私を待っていたのだろう? あの野蛮な姿も、私の気を引くためのパフォーマンスだったのなら、私は全てを許そうではないか!」
沈黙が流れた。
通りすがりの猫が「ニャー(馬鹿だこいつ)」と鳴いて去っていく。
「……ぷっ、……くくくっ、あーはっはっはっ!!」
私は腹を抱えて爆笑した。
あまりに面白すぎて、腹筋が心地よく振動する。
「……何がおかしい! 私は至極真面目に、慈悲の心で提案しているのだぞ!」
「……おめでたいですわね、殿下。……慈悲? 許す? 笑わせないでください。……私が今の生活を捨てて、またあなたのお天気自慢の聞き役に戻るとでも?」
私は笑い飛ばし、鋭い眼光でカイルを射抜いた。
「……お断りしますわ。今の私は、あなたより強い獲物を探すのに忙しいのです。……それに、あなたのその『金の弓』程度の腕力では、私と並んで歩くことすら不可能ですわよ?」
「……な、……なんだと!? 王子であるこの私を侮辱するか!」
カイルが顔を真っ赤にして叫んだ、その時。
「……私の婚約者(予定)に、何か用かな? カイル殿下」
背後の影から、凍てつくような冷気とともにアイン・クロムウェルが現れた。
彼は一歩も歩かずに滑るように現れると、私の肩にその逞しい腕を回した。
「……ク、クロムウェル辺境伯! なぜ君がここに!」
「……ナギから『美味しい包丁を買いに行く』と聞いていたので、護衛に参った。……殿下、聞こえませんでしたか? 彼女は、あなたに興味がないと言っている。……これ以上彼女を不快にさせるなら、私の領地のキングベアの餌箱を掃除してもらうことになりますが?」
アインの瞳から、物理的な殺気……いえ、威圧感が放たれる。
カイルは蛇に睨まれたカエルのように硬直し、ガタガタと膝を震わせた。
「……ひっ、……あ、……あぁ……」
「……さあ、ナギ。肉の鮮度が落ちる前に帰ろう。……今日は君のために、最高級の岩塩を取り寄せたんだ」
「……岩塩! 素敵だわ、アイン! 殿下のことなんて、もう微塵も思い出せませんわ!」
私はアインの腕に寄り添い、カイルには目もくれずに歩き出した。
カイルは路地裏で呆然と立ち尽くし、去っていく私たちの背中を見つめることしかできなかった。
「……ナギ様。……今の、少しだけ可哀想でしたね。……まぁ、自業自得ですが」
どこからともなく現れたエラが、カイルの足元に「不法侵入・ストーカー行為禁止」のビラをそっと置いていった。
「いいのよ、エラ。……あんな冷めたスープみたいな男に構っている暇はないわ。……アイン、今日の晩御飯は何?」
「……君の好きな、金剛猪の炭火焼きだ。……顎が疲れるまで、好きなだけ食べるがいい」
「……最高よ! 愛しているわ、お肉!」
私は、夕陽に輝く王都の空に向かって、清々しい笑顔で笑い声を上げた。
未練など、一口のステーキがあれば綺麗さっぱり消えてなくなる。
私の「素」の人生は、誰にも邪魔させない。
狩猟祭から数日後。私が街で「最高に切れる包丁」を品定めしていた帰り道、聞き慣れた、そして聞きたくない声が路地裏に響いた。
振り返ると、そこには金ピカの正装が心なしかヨレヨレになったカイル王子が、息を切らして立っていた。
背後にリリアの姿はない。どうやらこっそり抜け出してきたらしい。
「……あら、カイル元殿下。今日はウサギ狩りはお休みですの?」
私は買ったばかりの包丁の刃こぼれをチェックしながら、冷ややかに応じた。
正直、今の私にとって彼は、賞味期限の切れたひき肉以下の存在だ。
「……あ、あの時のことは謝ろう。私が悪かった。……お前があれほどの力を隠していたとは知らなかったのだ」
カイルが一歩歩み寄る。その瞳には、あろうことか「期待」の色が浮かんでいた。
「……ナギ。リリアは、その……確かに可愛らしいが、少々金がかかりすぎる。それに、あの日の君の雄姿を見て、私は気づいたのだ。……私にふさわしいのは、やはり君のような、国を背負って立つほどの『強さ』を持つ女なのだと!」
私は、思わず持っていた包丁を落としそうになった。
……この男、何を言っているのかしら?
「……寄りを戻してやってもいいぞ、ナギ。……お前も、本当は私を待っていたのだろう? あの野蛮な姿も、私の気を引くためのパフォーマンスだったのなら、私は全てを許そうではないか!」
沈黙が流れた。
通りすがりの猫が「ニャー(馬鹿だこいつ)」と鳴いて去っていく。
「……ぷっ、……くくくっ、あーはっはっはっ!!」
私は腹を抱えて爆笑した。
あまりに面白すぎて、腹筋が心地よく振動する。
「……何がおかしい! 私は至極真面目に、慈悲の心で提案しているのだぞ!」
「……おめでたいですわね、殿下。……慈悲? 許す? 笑わせないでください。……私が今の生活を捨てて、またあなたのお天気自慢の聞き役に戻るとでも?」
私は笑い飛ばし、鋭い眼光でカイルを射抜いた。
「……お断りしますわ。今の私は、あなたより強い獲物を探すのに忙しいのです。……それに、あなたのその『金の弓』程度の腕力では、私と並んで歩くことすら不可能ですわよ?」
「……な、……なんだと!? 王子であるこの私を侮辱するか!」
カイルが顔を真っ赤にして叫んだ、その時。
「……私の婚約者(予定)に、何か用かな? カイル殿下」
背後の影から、凍てつくような冷気とともにアイン・クロムウェルが現れた。
彼は一歩も歩かずに滑るように現れると、私の肩にその逞しい腕を回した。
「……ク、クロムウェル辺境伯! なぜ君がここに!」
「……ナギから『美味しい包丁を買いに行く』と聞いていたので、護衛に参った。……殿下、聞こえませんでしたか? 彼女は、あなたに興味がないと言っている。……これ以上彼女を不快にさせるなら、私の領地のキングベアの餌箱を掃除してもらうことになりますが?」
アインの瞳から、物理的な殺気……いえ、威圧感が放たれる。
カイルは蛇に睨まれたカエルのように硬直し、ガタガタと膝を震わせた。
「……ひっ、……あ、……あぁ……」
「……さあ、ナギ。肉の鮮度が落ちる前に帰ろう。……今日は君のために、最高級の岩塩を取り寄せたんだ」
「……岩塩! 素敵だわ、アイン! 殿下のことなんて、もう微塵も思い出せませんわ!」
私はアインの腕に寄り添い、カイルには目もくれずに歩き出した。
カイルは路地裏で呆然と立ち尽くし、去っていく私たちの背中を見つめることしかできなかった。
「……ナギ様。……今の、少しだけ可哀想でしたね。……まぁ、自業自得ですが」
どこからともなく現れたエラが、カイルの足元に「不法侵入・ストーカー行為禁止」のビラをそっと置いていった。
「いいのよ、エラ。……あんな冷めたスープみたいな男に構っている暇はないわ。……アイン、今日の晩御飯は何?」
「……君の好きな、金剛猪の炭火焼きだ。……顎が疲れるまで、好きなだけ食べるがいい」
「……最高よ! 愛しているわ、お肉!」
私は、夕陽に輝く王都の空に向かって、清々しい笑顔で笑い声を上げた。
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私の「素」の人生は、誰にも邪魔させない。
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