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「さあ、お嬢様。お気に召すまま、何でもお申し付けください」
店主の男は、揉み手をしながらカウンターの奥へと消え、すぐにいくつかの木箱を抱えて戻ってきた。
その顔には「カモがネギと鍋とガスコンロを背負ってやってきた」という下卑た笑みが張り付いている。
リリィ様(設定:ゴールデンバーグ家の令嬢)は、テーブルに並べられた箱を見て、「わぁ~!」と無邪気な声を上げた。
「キラキラしてます! すごーい!」
「へへへ、お目が高い。こちらは『人魚の涙』と呼ばれる伝説の真珠でしてな。深海の魔力を秘めており、持つ者に永遠の若さを与えると言われております。お値段、金貨500枚」
店主が大粒の真珠を恭しく差し出す。
リリィ様が「欲しい!」と叫びそうになるのを、私が扇子で制した。
「……ふむ」
私はその真珠を手に取り、ポケットからルーペを取り出して覗き込んだ。
そして、コンコンと爪で叩く。
「店主。貴方、海を見たことがないのかしら?」
「あ?」
「これは真珠ではありません。ただの樹脂加工されたガラス玉です。しかも、中の気泡が歪んでいる。大量生産品の安物ですね。原価は銅貨10枚といったところかしら?」
「なっ……!」
店主の顔が引きつる。
「ば、馬鹿な! これは正真正銘の……」
「言い訳は結構です。表面のコーティングが一部剥げていますよ? ほら、ここ」
私は剥げた部分を指差した。
リリィ様が「あ、プラスチックだ!」と元も子もないことを言う。
「次。この『呪いのルビー』ですが……ただの着色された石英ですね。赤色が不自然に均一すぎます。加熱処理の失敗作でしょう」
「そ、それは……」
「そしてこの『聖女の遺髪』。……馬の尻尾の毛ですね。しかも、かなり高齢の馬の。獣臭がします」
私は次々と「お宝」を鑑定し、その価値を暴落させていった。
店主の額に脂汗が滲む。
背後に控えているアーク様(護衛役)が、サングラスの奥で肩を震わせて笑っているのが気配でわかった。
「……チッ。なかなか目利きの鋭い付き人がいるようだな」
店主は舌打ちをし、態度を一変させた。
愛想笑いを消し、凄みのある低い声で唸る。
「いいだろう。遊びは終わりだ。……本物が見たいんだろ?」
彼はカウンターの下にある隠し金庫を開け、一つの壺を取り出した。
鮮やかな青色の磁器に、天を駆ける竜が描かれた美しい壺。
間違いなく、ジュリアン殿下が横流しした国宝『蒼竜の壺』だ。
「これだ。王家の至宝、『蒼竜の壺』。……訳あって市場に流れてきた逸品だ」
「わぁ! 綺麗な壺! これでメダカを飼いたいです!」
リリィ様の発言に、店主がズッコケそうになる。
国宝でメダカを飼うな。
「こいつは値が張るぜ? 金貨1万枚だ」
「1万……っ!?」
私は思わず吹き出しそうになった。
ジュリアン殿下から金貨50枚で買い叩いたものを、200倍の値段で売ろうというのか。
暴利にも程がある。
まさに悪徳商人の鑑だ。
「……高いわね」
「当たり前だ。国宝だぞ? 本来なら金貨5万枚はする。それをこの値段で譲ってやるんだ、感謝しな」
「ふうん……。でも、おかしいわね」
私は壺に近づき、底の部分を確認した。
そこには、王家の紋章が刻印されている。
「この壺、最近『盗難届』が出されている品と特徴が一致するのだけれど」
「……あ?」
店内の空気が凍りついた。
店主の目が、スッと細められる。
「おい、姉ちゃん。言葉には気をつけたほうがいいぜ? この業界で『出所』を詮索するのはマナー違反だ」
「マナー? 法律の話をしているのですけれど」
私は扇子をパチンと閉じた。
「盗品等関与罪。および王室財産横領の共犯。……貴方がこの壺を誰から買い取ったか、私は知っています。金髪の、頭の悪そうな青年でしょう?」
「……テメェ、何者だ」
店主がカウンターの下に手を伸ばした。
おそらく、武器か、仲間を呼ぶベルがあるのだろう。
「ただの通りすがりの『計算高い女』です。……さて、取引といきましょうか」
私はニヤリと笑った。
「その壺、金貨50枚で買い戻します。それが貴方の仕入れ値でしょう?」
「はぁ!? ふざけんな! 誰がそんな端金で……」
「いいえ、これは慈悲です。もし貴方がこれを拒否すれば、今すぐここに近衛騎士団が突入してきます。そうなれば、壺は没収、貴方は地下牢行き、店は取り潰し。……損害額は計り知れませんね?」
「……ッ!」
「ですが、今ここで私に50枚で売れば、貴方は『プラマイゼロ』でこの件から手を引ける。犯罪者になるリスクを回避できるのです。……さあ、どちらがお得かしら?」
私は電卓を叩き、店主に見せつけた。
完璧な論理だ。
彼に逃げ道はない。
「……ハッ。ハハハッ!」
店主が突然、乾いた笑い声を上げた。
そして、カウンターの下から取り出したのは、契約書ではなく、大型のナイフだった。
「面白い計算だ。だがな、姉ちゃん。一つ計算違いがあるぜ」
彼が指を鳴らすと、店の奥の扉が開き、屈強な男たちが5、6人なだれ込んできた。
全員、棍棒やナイフを持っている。
「ここでテメェらを埋めちまえば、証拠も何も残らねぇってことだ!」
「……野蛮ですね」
私はため息をついた。
やはり、言葉が通じない相手には、物理的な「精算」が必要らしい。
「リリィ様、下がっていてください。……アーク様」
「ああ。……まったく、追加料金を請求したいところだな」
背後のアーク様が一歩前に出た。
サングラスを外し、その鋭い氷のような瞳を露にする。
腰の剣を抜き放つ動作は、洗練されていて美しい。
「やっちまえ!」
店主の号令で、男たちが襲いかかってくる。
「させません!」
しかし、アーク様が動くより早く、ピンク色の影が飛び出した。
リリィ様だ。
「リリィ様!?」
「お姉様をいじめるなーっ!」
彼女は近くにあった重厚な大理石のテーブル(推定100キロ)を、なんと素手で持ち上げた。
「えっ」
男たちが足を止める。
私もアーク様も目を丸くした。
「えいっ!」
ブンッ!
リリィ様がテーブルをフリスビーのように投げ飛ばした。
大理石の塊が、男たちの群れに水平に突っ込む。
ドガガガガッ!!
「ぐわぁぁぁっ!?」
男たちがボウリングのピンのように吹き飛ばされ、壁に激突して崩れ落ちた。
一撃。
たった一撃で、悪漢たちが壊滅した。
「……」
店内が静まり返る。
店主がナイフを持ったまま、ガタガタと震えている。
「ば、化け物……」
「誰が化け物ですか! か弱い乙女に向かって失礼な!」
リリィ様はプンプンと怒っているが、その足元には瓦礫の山が築かれていた。
アーク様がそっと剣を鞘に収めた。
「……私の出番はなかったようだな」
「ええ。護衛料、値引きさせていただきますね」
私は呆然としている店主に歩み寄った。
彼はもう、抵抗する気力も失っているようだった。
「さて、商談再開です。……金貨50枚、でしたよね?」
「……は、はい。もう、タダでいいです……持って行ってください……」
「あら、そうですか? ではお言葉に甘えて」
私は壺を回収し、さらに店主の胸元に一枚の紙を押し付けた。
「これは?」
「この店の『修繕費』と、私たちの『精神的苦痛』の相殺請求書です。……今後、二度と王家の品に手を出さないと誓うなら、今回はこれで手打ちにしましょう」
「ち、誓います! 二度としません!」
店主は涙目で土下座をした。
リリィ様の物理攻撃と、私の精神攻撃(金銭的圧力)。
どちらが怖かったのかは定かではないが、完全勝利だ。
「行きましょう、リリィ様、アーク様」
「はーい! あ、このキラキラした石、もらっていいですか?」
「それはガラス玉です。置いていきなさい」
私たちは意気揚々と店を出た。
外の空気は澄んでいて、勝利の味がした。
「……しかし、驚いたな」
帰り道、アーク様が壺を抱えながら呟いた。
「リリィ嬢のあの怪力……。彼女、本当に男爵令嬢か? どこかの未開部族の戦士ではなく?」
「実家の牧場で鍛えられたそうです。牛と相撲をとっていたとか」
「……なるほど。王子の護衛には最適かもしれないな」
「ええ。ただし、食費がかさみますが」
隣で「お腹すいたー!」と騒いでいるリリィ様を見て、私たちは顔を見合わせて苦笑した。
国宝は戻った。
悪徳商人も懲らしめた。
あとは……この壺を城に戻し、事件を闇に葬るだけだ。
だが、私たちが城に戻った時、そこにはさらなる混沌が待ち受けていた。
説教部屋から解放されたジュリアン殿下が、なぜか「僕も商売を始める!」と言い出し、城の庭でフリーマーケットを開催しようとしていたのである。
店主の男は、揉み手をしながらカウンターの奥へと消え、すぐにいくつかの木箱を抱えて戻ってきた。
その顔には「カモがネギと鍋とガスコンロを背負ってやってきた」という下卑た笑みが張り付いている。
リリィ様(設定:ゴールデンバーグ家の令嬢)は、テーブルに並べられた箱を見て、「わぁ~!」と無邪気な声を上げた。
「キラキラしてます! すごーい!」
「へへへ、お目が高い。こちらは『人魚の涙』と呼ばれる伝説の真珠でしてな。深海の魔力を秘めており、持つ者に永遠の若さを与えると言われております。お値段、金貨500枚」
店主が大粒の真珠を恭しく差し出す。
リリィ様が「欲しい!」と叫びそうになるのを、私が扇子で制した。
「……ふむ」
私はその真珠を手に取り、ポケットからルーペを取り出して覗き込んだ。
そして、コンコンと爪で叩く。
「店主。貴方、海を見たことがないのかしら?」
「あ?」
「これは真珠ではありません。ただの樹脂加工されたガラス玉です。しかも、中の気泡が歪んでいる。大量生産品の安物ですね。原価は銅貨10枚といったところかしら?」
「なっ……!」
店主の顔が引きつる。
「ば、馬鹿な! これは正真正銘の……」
「言い訳は結構です。表面のコーティングが一部剥げていますよ? ほら、ここ」
私は剥げた部分を指差した。
リリィ様が「あ、プラスチックだ!」と元も子もないことを言う。
「次。この『呪いのルビー』ですが……ただの着色された石英ですね。赤色が不自然に均一すぎます。加熱処理の失敗作でしょう」
「そ、それは……」
「そしてこの『聖女の遺髪』。……馬の尻尾の毛ですね。しかも、かなり高齢の馬の。獣臭がします」
私は次々と「お宝」を鑑定し、その価値を暴落させていった。
店主の額に脂汗が滲む。
背後に控えているアーク様(護衛役)が、サングラスの奥で肩を震わせて笑っているのが気配でわかった。
「……チッ。なかなか目利きの鋭い付き人がいるようだな」
店主は舌打ちをし、態度を一変させた。
愛想笑いを消し、凄みのある低い声で唸る。
「いいだろう。遊びは終わりだ。……本物が見たいんだろ?」
彼はカウンターの下にある隠し金庫を開け、一つの壺を取り出した。
鮮やかな青色の磁器に、天を駆ける竜が描かれた美しい壺。
間違いなく、ジュリアン殿下が横流しした国宝『蒼竜の壺』だ。
「これだ。王家の至宝、『蒼竜の壺』。……訳あって市場に流れてきた逸品だ」
「わぁ! 綺麗な壺! これでメダカを飼いたいです!」
リリィ様の発言に、店主がズッコケそうになる。
国宝でメダカを飼うな。
「こいつは値が張るぜ? 金貨1万枚だ」
「1万……っ!?」
私は思わず吹き出しそうになった。
ジュリアン殿下から金貨50枚で買い叩いたものを、200倍の値段で売ろうというのか。
暴利にも程がある。
まさに悪徳商人の鑑だ。
「……高いわね」
「当たり前だ。国宝だぞ? 本来なら金貨5万枚はする。それをこの値段で譲ってやるんだ、感謝しな」
「ふうん……。でも、おかしいわね」
私は壺に近づき、底の部分を確認した。
そこには、王家の紋章が刻印されている。
「この壺、最近『盗難届』が出されている品と特徴が一致するのだけれど」
「……あ?」
店内の空気が凍りついた。
店主の目が、スッと細められる。
「おい、姉ちゃん。言葉には気をつけたほうがいいぜ? この業界で『出所』を詮索するのはマナー違反だ」
「マナー? 法律の話をしているのですけれど」
私は扇子をパチンと閉じた。
「盗品等関与罪。および王室財産横領の共犯。……貴方がこの壺を誰から買い取ったか、私は知っています。金髪の、頭の悪そうな青年でしょう?」
「……テメェ、何者だ」
店主がカウンターの下に手を伸ばした。
おそらく、武器か、仲間を呼ぶベルがあるのだろう。
「ただの通りすがりの『計算高い女』です。……さて、取引といきましょうか」
私はニヤリと笑った。
「その壺、金貨50枚で買い戻します。それが貴方の仕入れ値でしょう?」
「はぁ!? ふざけんな! 誰がそんな端金で……」
「いいえ、これは慈悲です。もし貴方がこれを拒否すれば、今すぐここに近衛騎士団が突入してきます。そうなれば、壺は没収、貴方は地下牢行き、店は取り潰し。……損害額は計り知れませんね?」
「……ッ!」
「ですが、今ここで私に50枚で売れば、貴方は『プラマイゼロ』でこの件から手を引ける。犯罪者になるリスクを回避できるのです。……さあ、どちらがお得かしら?」
私は電卓を叩き、店主に見せつけた。
完璧な論理だ。
彼に逃げ道はない。
「……ハッ。ハハハッ!」
店主が突然、乾いた笑い声を上げた。
そして、カウンターの下から取り出したのは、契約書ではなく、大型のナイフだった。
「面白い計算だ。だがな、姉ちゃん。一つ計算違いがあるぜ」
彼が指を鳴らすと、店の奥の扉が開き、屈強な男たちが5、6人なだれ込んできた。
全員、棍棒やナイフを持っている。
「ここでテメェらを埋めちまえば、証拠も何も残らねぇってことだ!」
「……野蛮ですね」
私はため息をついた。
やはり、言葉が通じない相手には、物理的な「精算」が必要らしい。
「リリィ様、下がっていてください。……アーク様」
「ああ。……まったく、追加料金を請求したいところだな」
背後のアーク様が一歩前に出た。
サングラスを外し、その鋭い氷のような瞳を露にする。
腰の剣を抜き放つ動作は、洗練されていて美しい。
「やっちまえ!」
店主の号令で、男たちが襲いかかってくる。
「させません!」
しかし、アーク様が動くより早く、ピンク色の影が飛び出した。
リリィ様だ。
「リリィ様!?」
「お姉様をいじめるなーっ!」
彼女は近くにあった重厚な大理石のテーブル(推定100キロ)を、なんと素手で持ち上げた。
「えっ」
男たちが足を止める。
私もアーク様も目を丸くした。
「えいっ!」
ブンッ!
リリィ様がテーブルをフリスビーのように投げ飛ばした。
大理石の塊が、男たちの群れに水平に突っ込む。
ドガガガガッ!!
「ぐわぁぁぁっ!?」
男たちがボウリングのピンのように吹き飛ばされ、壁に激突して崩れ落ちた。
一撃。
たった一撃で、悪漢たちが壊滅した。
「……」
店内が静まり返る。
店主がナイフを持ったまま、ガタガタと震えている。
「ば、化け物……」
「誰が化け物ですか! か弱い乙女に向かって失礼な!」
リリィ様はプンプンと怒っているが、その足元には瓦礫の山が築かれていた。
アーク様がそっと剣を鞘に収めた。
「……私の出番はなかったようだな」
「ええ。護衛料、値引きさせていただきますね」
私は呆然としている店主に歩み寄った。
彼はもう、抵抗する気力も失っているようだった。
「さて、商談再開です。……金貨50枚、でしたよね?」
「……は、はい。もう、タダでいいです……持って行ってください……」
「あら、そうですか? ではお言葉に甘えて」
私は壺を回収し、さらに店主の胸元に一枚の紙を押し付けた。
「これは?」
「この店の『修繕費』と、私たちの『精神的苦痛』の相殺請求書です。……今後、二度と王家の品に手を出さないと誓うなら、今回はこれで手打ちにしましょう」
「ち、誓います! 二度としません!」
店主は涙目で土下座をした。
リリィ様の物理攻撃と、私の精神攻撃(金銭的圧力)。
どちらが怖かったのかは定かではないが、完全勝利だ。
「行きましょう、リリィ様、アーク様」
「はーい! あ、このキラキラした石、もらっていいですか?」
「それはガラス玉です。置いていきなさい」
私たちは意気揚々と店を出た。
外の空気は澄んでいて、勝利の味がした。
「……しかし、驚いたな」
帰り道、アーク様が壺を抱えながら呟いた。
「リリィ嬢のあの怪力……。彼女、本当に男爵令嬢か? どこかの未開部族の戦士ではなく?」
「実家の牧場で鍛えられたそうです。牛と相撲をとっていたとか」
「……なるほど。王子の護衛には最適かもしれないな」
「ええ。ただし、食費がかさみますが」
隣で「お腹すいたー!」と騒いでいるリリィ様を見て、私たちは顔を見合わせて苦笑した。
国宝は戻った。
悪徳商人も懲らしめた。
あとは……この壺を城に戻し、事件を闇に葬るだけだ。
だが、私たちが城に戻った時、そこにはさらなる混沌が待ち受けていた。
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