え、いいんですか?婚約破棄、最高じゃないですか!

小梅りこ

文字の大きさ
16 / 28

16

しおりを挟む
「アーク・フォン・クロウリー! 貴様に決闘を申し込む!!」


翌朝。

宰相執務室に、本日何度目かわからない怒号が響き渡った。

もはや定例行事となりつつあるジュリアン殿下の襲来だ。

だが、今日の彼は少し違っていた。

いつもの白いタキシードではなく、金ピカの甲冑(装飾過多で動きにくそう)に身を包み、腰には不釣り合いなほど巨大な剣を佩いている。

そして、その背後には「決闘状」と書かれたプラカードを持つセバスチャンの姿が(死んだような目で)あった。


「……朝から騒々しいですね」


私は優雅に紅茶を啜りながら、冷めた視線を送った。

アーク様もまた、書類から顔を上げずに「帰れ」のオーラを出している。


「無視するな! 決闘だと言っているのだ! 男と男の、命を懸けた真剣勝負だ!」


殿下がガシャンガシャンと甲冑を鳴らして机に詰め寄る。

うるさい。

金属音が耳障りだ。


「……殿下。公務中に何を遊んでおられるのですか? その甲冑、レンタル料だけで金貨5枚はしますよね? どこから予算を?」


「予算の話はするな! これは僕の『男のプライド』の問題だ!」


殿下は剣の柄に手をかけた。


「アーク! 貴様、ロゼリアを金で買ったそうだな! 昨夜のパーティーで聞いたぞ! 『契約婚約』だと!」


「……ふん」


アーク様がペンを置き、ゆっくりと顔を上げた。


「耳ざといな。……で、それがどうした? 互いの合意に基づく契約だ。何の問題がある?」


「問題大ありだ! ロゼリアは僕の……僕の運命の相手だったんだぞ!(※先週までリリィと言っていた)」


殿下は支離滅裂なことを叫んでいる。


「僕が勝ったら、ロゼリアとの婚約を破棄しろ! そして彼女を僕に返せ!」


「……ほう?」


アーク様の目がスッと細められた。

面白くない、という色が浮かぶ。


「私が負ける前提か? ……いいだろう。だが、私が勝ったらどうする?」


「はっ! 僕が負けるわけがない! 今の僕は無敵だ! ……だが、万が一僕が負けたら、何でも言うことを聞いてやる!」


「言質を取ったぞ」


アーク様が立ち上がった。

その瞬間、室内の空気が張り詰める。


「いいだろう、殿下。その挑戦、受けて立つ。……場所は王立闘技場。日時は3日後だ」


「望むところだ! 首を洗って待っていろ!」


殿下は高笑いを残し、ガチャコンガチャコンとロボットのような動きで去っていった。


「……アーク様。受けてしまってよろしいのですか?」


私は溜息交じりに尋ねた。

殿下の腕前などたかが知れているが、万が一の事故ということもある。

それに、アーク様は文官だ。剣の腕は……。


「心配か? ロゼリア」


アーク様がニヤリと笑う。


「ご安心を。私の計算では、殿下の勝率は0.001%です。心配しているのは、殿下が負けた後、治療費を誰が払うかという点だけです」


「……君らしいな。だが、今回は少し『エンターテイメント』にしようかと思ってな」


「エンタメ?」


「ああ。闘技場を開放し、観客を入れる。……入場料を取れば、国庫が潤うだろう?」


「!!」


私の目がカッ開かれた。

その手があったか。

「王子vs宰相」の決闘。

これ以上のドル箱イベントはない。

チケットは即完売、賭けの胴元になれば手数料もガッポリだ。


「アーク様……貴方、天才ですか?」


「君に鍛えられたからな」


私たちは顔を見合わせ、邪悪な笑みを浮かべた。

直ちに「決闘興行」の準備に取り掛かる。

ポスター作成、チケット販売、屋台の出店権利のオークション。

私の脳内はすでに、決闘の勝敗よりも売上予測で埋め尽くされていた。


***


しかし、その日の午後。

思わぬ爆弾が投下されることになる。


いつものように「おやつタイム」に現れたリリィ様が、もぐもぐとパンを頬張りながら、衝撃の一言を放ったのだ。


「ん~っ! このクリームパン、最高ですぅ!」


「それはよかったですね。城下で一番人気のパン屋『麦の穂』の新作です」


私は書類整理の手を休めずに答えた。

リリィ様はパンくずをこぼしながら、うっとりとした顔で呟く。


「やっぱり、ハンス君は天才だなぁ……」


「……ハンス君?」


聞き慣れない名前に、私の手が止まった。


「誰です、それ」


「えっ? 『麦の穂』の息子さんです! 毎朝、焼きたてのパンを裏口からこっそりくれるんです!」


リリィ様は頬を赤らめて、身をよじった。


「背が高くて、ちょっと粉まみれで……でも、腕の筋肉がすごくて! 『リリィちゃんはよく食べるね』って笑ってくれるんですぅ!」


「…………」


私はペンを置いた。

アーク様も書類から顔を上げ、リリィ様を凝視している。

この反応。

この乙女な表情。

そして、「筋肉」という具体的すぎる萌えポイント。


「……リリィ様。もしかして、そのハンス君のことが?」


「はいっ! 私、王子様よりパン屋さんがいいかもって思い始めました!」


ドカァァァン!!(心理的爆発音)


私とアーク様は口を開けたまま固まった。

ヒロインが、推し変した。

それも、王国の王子から、パン屋の息子へ。

身分差、地位、名誉、すべてを飛び越えて「食欲」と「筋肉」が勝利した瞬間だった。


「……待ってください、リリィ様。貴女はジュリアン殿下の婚約者候補……いや、殿下は貴女のために国宝を横流しし、決闘まで挑んでいるのですよ?」


「えー? でもぉ、ジュリアン様、最近『金がない』ってケチ臭いし。それに、話がつまんないんです」


リリィ様はバッサリと切り捨てた。


「『僕の美しさ』とか『愛の詩』とか、お腹いっぱいにならないことばっかり! それに比べてハンス君は、『今日はクロワッサンがうまく焼けたよ』って、実益のある話をしてくれます!」


「……実益」


確かに、彼女にとっては「愛の詩」より「クロワッサン」の方が価値が高いのだろう。

あまりにも合理的すぎて、反論の余地がない。


「それに、私……気づいちゃったんです」


リリィ様は真剣な顔で言った。


「お城の生活って、堅苦しいドレス着て、じっとしてなきゃいけないじゃないですか? でも、パン屋さんなら、毎日重い粉袋を運んで筋トレできるし、パン食べ放題だし……私の天職かもって!」


「……王妃の座よりも、パン屋の女将を選んだか」


アーク様が天を仰いだ。


「前代未聞だ。……だが、妙に説得力があるのが悔しい」


「どうしましょう、アーク様。3日後の決闘、殿下は『愛のため』に戦うつもりですが、そのヒロインはすでにパン屋に心変わりしています」


「……殿下に伝えるか?」


「今伝えたら、ショックで決闘が中止になりかねません。チケットの払い戻しが発生します。それは経済的損失です」


私は即座に計算した。

決闘は決行しなければならない。

殿下の失恋は、興行が終わった後のアフターサービス(有料カウンセリング)でケアすればいい。


「黙っていましょう。……リリィ様、貴女も決闘当日は会場に来てくださいね」


「はーい! ポップコーン食べながら応援します!」


「……誰を?」


「どっちでもいいです! 面白そうな方を!」


無邪気な残酷さである。


***


そして迎えた、決闘当日。

王立闘技場は、超満員の観客で埋め尽くされていた。

チケットは完売。

屋台からは香ばしい匂いが漂い、賭け屋の前には長蛇の列ができている。

オッズは「アーク様勝利」が1.1倍、「殿下勝利」が50倍。

誰も殿下の勝利を信じていない。


「さあ、世紀の一戦だ! 勝つのは氷の宰相か、それとも愛の戦士(笑)ジュリアン殿下か!」


実況の声が響く中、両者が闘技場の中央に進み出た。

アーク様は軽装の騎士服。

対するジュリアン殿下は、例の金ピカ甲冑だ。

太陽の光を反射して眩しいことこの上ない。


「ふははは! アーク! 今日こそ貴様に土をつけてやる!」


殿下は剣を抜き放ち、高らかに宣言した。


「この『聖剣エクスカリ……バーン(通販で購入)』の錆にしてくれるわ!」


「……通販か」


アーク様は呆れつつ、自身の細身のサーベルを抜いた。


「殿下。怪我をしたくなければ、早めに降参することをお勧めしますよ」


「黙れ! 僕には勝利の女神がついているんだ!」


殿下は観客席の最前列にいるリリィ様に向かって、投げキッスを送った。


「見ていてくれ、リリィ! この愛の力!」


リリィ様は……ポップコーンを口いっぱいに詰め込みながら、無表情で手を振り返した。

その視線の先には、隣に座っている青年――おそらくパン屋のハンス君――がいるのだが、殿下には見えていないらしい。


「……哀れだな」


アーク様がボソリと呟く。


「始め!!」


審判の合図と共に、銅鑼が鳴り響いた。


「うおおおおーーっ!!」


殿下が雄叫びを上げて突進してくる。

重い甲冑のせいで、動きはスローモーションのようだ。

アーク様はあくびが出そうな顔で、半歩横に避ける。


ズサーッ!


殿下は勢い余って、誰もいない空間を切り裂き、そのままつんのめった。


「……おっと」


「くっ、やるな! 残像か!?」


「いいえ、ただ避けただけです」


会場から失笑が漏れる。

これは勝負にならない。

私も貴賓席で電卓を叩きながら、「試合時間が短すぎると『金返せ』コールが起きるかしら……少し引き伸ばしてもらおう」と考えていた。


その時だった。


「へへへ……。やっぱり普通には勝てないか」


転んだ殿下が、不気味な笑みを浮かべて立ち上がった。


「なら、これを使うしかあるまい! ベネディクトから譲り受けた、起死回生の秘密兵器を!」


殿下は懐から、ドス黒いオーラを放つ『黒い石』を取り出した。

昨日の監査では見つからなかった、ガルド商会の隠し球か。


「なんだ、その石は?」


アーク様が警戒して間合いを取る。


「これぞ『バーサーカー・ストーン』! 魔力を暴走させ、身体能力を100倍にする禁断の秘宝だ!」


「……は?」


「これを飲み込めば、僕は無敵になる! 副作用で理性を失うらしいが、愛の力で制御してみせる!」


殿下は迷うことなく、その石を口に放り込んだ。


「殿下! やめろ!」


アーク様が止めようとするが、遅かった。

ゴクリ。


ドクンッ!!


殿下の体が大きく跳ねた。

金色の髪が逆立ち、白目が充血し、全身から黒い蒸気が噴き出す。

甲冑の内側から筋肉が膨張し、ミシミシと嫌な音を立てている。


「ガァァァァァッ!!」


殿下の喉から、人間とは思えない咆哮がほとばしった。


「……嘘でしょう?」


私は計算機を取り落とした。

ただのコメディ要員だった殿下が、ラスボスみたいな変身を遂げている。

理性?

どこにもなさそうだ。

完全な暴走状態である。


「ア、アーク……コロ……ス……!」


巨大化した殿下が、恐ろしい速度で剣を振り上げた。

その一撃は、闘技場の地面を割り、衝撃波を生んだ。


「くっ……!」


アーク様が剣で受け止めるが、その圧力に押されて後退する。

これはまずい。

計算外だ。

あのベネディクト、こんな危険物を王族に売りつけていたとは。


「……リリィ様!」


私は叫んだ。


「出番です! 殿下を止めて!」


「えっ? 私ですか!?」


リリィ様がポップコーンを喉に詰まらせながら振り返る。


「あんな怪獣、私にも無理ですよぉ!」


「いいえ、貴女ならできます! ……あそこにある剣(殿下の剣)は、パン切り包丁だと思いなさい! そして殿下は……巨大なフランスパンだと思いなさい!」


「フランスパン……?」


リリィ様の目が変わった。

食欲という名の野性が覚醒する。


「おいしそう……!」


リリィ様が観客席から飛び降りた。

その手には、なぜかパン屋のハンス君から借りた、巨大な麺棒が握られている。


「いっくよー! フランスパン、カット!」


ズドンッ!!


リリィ様が着地と同時に、暴走する殿下の後頭部に麺棒をフルスイングした。


「ガッ……!?」


殿下の動きが止まる。

黒いオーラが一瞬霧散し、白目が元に戻る。


「……リ、リリィ……? なんで麺棒……?」


「あ、戻った」


しかし、黒い石の力はまだ消えていない。

再び暴れ出そうとする殿下。

アーク様がその隙を見逃すはずがなかった。


「ロゼリアの計算通り……とはいかないが、隙だらけだ!」


アーク様が懐に飛び込み、強烈な顎への一撃(剣の柄で)を見舞った。


カァァァン!!


綺麗な音が響き、殿下は白目を剥いて、今度こそ完全に沈黙した。

ズシーン……と巨大な音を立てて倒れる金色の甲冑。


「……勝者、アーク・フォン・クロウリー!!」


審判の声と共に、会場は爆発的な歓声に包まれた。

私はほっと胸を撫で下ろし、床に落ちた電卓を拾い上げた。


「……修理費と治療費、そして慰謝料。請求額を再計算しなきゃ」


決闘は終わった。

しかし、倒れた殿下の口からポロリとこぼれ落ちた黒い石が、不気味に砕け散るのを、私は見逃さなかった。

ガルド商会との因縁は、まだ終わっていないのかもしれない。

そして何より……。


「ハンスく~ん! 勝ったよ~!」


パン屋の彼に抱きつくリリィ様を見て、目覚めた時の殿下がどうなるか。

その精神的ケアの費用も、見積もりに加えておかなければならないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...