華甲二年の再会

有嶺哲史

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第二章  華甲二年の再会(後半)

刺客

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 十二月に入ったばかりの初冬、花も無い淋しい冬枯れの庭にきびしく寒い木枯しが吹き抜ける。
女医篤子の仕事は終わり、周りは静かだった。
選挙も勝利に終わり、比良野の家で少人数のささやかな就任前祝をすることになっていた。
着替えを終えて帰りの廊下は薄暗く人の気配が無かった。
それでも心の底から湧いてくるワクワク感は抑えられず

「宴会が終わる。みなすぐ帰る。あとには彼と私だけが残る。ふふふ」

足取りは軽く、笑みはこぼれっぱなしで周囲に全く注意していなかった。
そのときいきなり目にスプレーを吹きかけられ、痛くて目が開けられなくなった。
激しい息遣いに女の気配があった。
瞬間右の背中に焼けるような熱が走った。
必死で声を上げたが、背中の熱が強烈な痛みと認識したとき目の前に黒い幕が下りるように気が遠くなっていった。

 幸い気づいた人がすぐ駆け寄って命に別状はないが軽傷ではなかった。
院内に犯人がいると思われ、すぐに警察は目撃証言から看護師長を容疑者として事情聴取を始めた。
だが目撃証言には矛盾するものがあり、物証は出ず看護師長は殺意どころか傷害容疑さえ頑として認めなかった。



 篤子の胸を狙った一撃は急所を外れていたが一時意識を失った。
緊急手術して事なきを得た。
気が付いた時、この日のために初めて穿いたTバックの下着がT字帯に変えられていた。
ナース達に見られたことは間違いない。
噂が拡がった。

「えーっ、うそやん! Tバックゆうたらフンドシやんか。あの先生が? そんなもん穿いて何しようとしたんやろ」

「選挙に負けたことが悔しゅうて赤鼻ナースがフンドシ先生を恨んだんちゃうか」

うっかり大声でしゃべるナースたちの噂を聞いたフリーター女医は、これがただの怨恨ではないとしたら、と考えた。
そうならば、布沢副院長室で盗み聞きした陰謀と関連があるに違いない。
おそらく次の陰謀のためだろう。
陰謀を仕掛けた連中が催すという記者会見が近々あるともれ聞いた彼女は撹乱の種を撒いてイタズラしてやろうと思った。
選挙後の一般的な取材に来ていた若い一人の冴えない男性記者を呼び止めた。

「珍しいカメラね。おや、ひょっとしてフィルムカメラ?」

「いえ、まさか」

「病院のカメラ、どんなカメラか知っている?」

若い記者は女医らしくない異常なあでやかさにボーッとしている。

「〝術場カメラ〟っていうのはね、手術室の全体を撮っているの。でも今はすごく画質が悪くて顔もよく分からないくらい。……私の顔で実験してみる? 来ない?」

別の意味で誘われていると誤解したように若い男性記者はふらふらついていった。
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