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8話 忘れられない その2

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 あのパーティーでの出会いから、私とウォルト様は少しずつ距離を縮めていくことが出来た。あの時も積もる話をたくさんしている間に、距離が縮まっていることを実感していたけれど、さらに縮まっているように感じる。


 なぜなら……。


「アテナ嬢、少し宜しいでしょうか?」

「は、はい。如何なさいましたか? ウォルト様?」

「ええ、実は私には婚約者が居ませんでして……」


 そのような話題を私に打ち明けたからだ。あのパーティーからは、1か月ほどが経過している。距離を縮めた実感を持ってもおかしくないくらいには、ウォルト様と交流してきたが、それでも婚約者の話を出すのは意外だった。通常の貴族の会話ではまず、あり得ないだろう。

 ウォルト様は私がイービス様に振られたことも知っているからだ。猶更、そんな話を出した意味が分からなかった。

「婚約者がいらっしゃらないとは意外でした。確かに、この1カ月の間では見ていませんでしたが」

「そうですね。ただ、アテナ嬢が会っていないだけ、というわけではなくて最初から居なかったわけです」

「なるほど。しかし、それは私も一緒でございますわ」

「はい、伺っております。イービス・ラウドネス侯爵閣下……アテナ様と婚約をされていた、と」

「ええ……そうですね」


 イービス様とのことは、この1カ月の間に彼に直接話したけれど、最初からウォルト様は耳にしていた様子だった。その時は、私からの話が初耳だという態度を取ってくれていたけれど。貴族間の噂話というのはそんなものだ。


「イービス様の婚約破棄の理由なども伺いましたが……おつらかったでしょう」

「あ、ありがとうございます……ウォルト様。つらくはありましたが、イービス様はその後、誠意を見せてくれました。私にとっては……諦めざるを得ませんでしたわ」

「左様でございますか、しかし……心中お察しいたします……」


 実際の慰謝料支払いはまだだけれど、提示された金額が相当に高額だった為だ。さらに、その金額の提示の際、イービス様は私達の前で土下座までしたのだった。その態度には、流石の妹も戸惑っている様子を見せていたっけ。


「ウォルト様……なぜ、このような話題をされたのでしょうか? なにかイービス様と関係が?」

「いえ、直接彼がイービス様が関係しているというわけではありません。私が申し上げたかったことは……」


「アテナっ!」

「えっ……? この声は……?」

「……?」


 一瞬は空耳かと思った……しかし、確かに聞こえてきた。この貴族街にある噴水庭園の周辺で。この声は……。


「アテナ、私だイービス・ラウドネスだ!」


「い、イービス様……? どうしてここに……!?」


 あまりにも意外な人が私の名前を呼び、そのまま近づいて来る……私はこの時、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。
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