婚約破棄されたけど、妹と幼馴染が優しすぎる件

6話 四面楚歌 (セドル視点)

　その日、俺は食堂で昼食を食べていた。ルーマティーの豊潤な香りを楽しみながら……。非常に優雅な気分だ。

　俺の名前は、セドル・ブロークン　20歳。伯爵令息であり、次期伯爵になる男だ。この間まで、子爵令嬢のウェルナと婚約関係にあったが、もっと良い人物と近づけたので、そちらに乗り換えた。


　乗り換えた相手は、伯爵令嬢のシャズナ・ドール　18歳。ウェルナも美人ではあったが、より位の高い方を選んだのだ。強力なパイプラインを築けるからな。


「まあ、俺くらいの立場で、子爵令嬢のウェルナと結婚では勿体ないからな。はっはっはっ」


　俺の話を隣で聞いていた、執事のジョズが心配そうな表情を見せている。一体、なんだっていうんだ？　俺はとりあえず気になったので、ジョズに声を掛けた。


「おい、ジョズ。一体、どうしたんだ？」

「は、はい……セドル様。4日前の婚約破棄についてたのですが……本当に、大丈夫だったのかと思いまして……」


　優雅な気分の俺とは裏腹に、執事のジョズは心配そうな表情をしていた。全く、人がせっかく楽しんでいるというのに、気の利かない執事だ。

「子爵令嬢のウェルナに何が出来るというんだ？　あいつの父親にしても同じだ。強力なパイプラインがあると聞いたこともないしな」


　そこが子爵家の限界というわけだ。伯爵家に在籍している俺との決定的な違い……まあ、伯爵と子爵ではそのくらいの差があるということだな。俺はルーマティーを飲みながら、優雅に考えを巡らせていた。


「い、いえ、それが……今度、開かれる舞踏会にて、何やら重大発表があるとのことです。その……セドル様が婚約破棄をされた、ウェルナ・バーク……正確には、その妹らしいのですが……」


　ウェルナの妹だと……？　確か、ラーナとかいうガキが居た気がするが。重大発表？　婚約者でも発表するつもりか？　

「たかが、子爵令嬢がわざわざ舞踏会で婚約者発表……だったら、笑えるな。よし、その舞踏会に参加して事実を見ておいてやろう」

「参加されるおつもりなのですか？」

「当然だろう？　面白そうじゃないか」

「か、畏まりました。それから……ウェルナ嬢も新しく婚約者が出来たとも聞いております。詳細は不明なのですが……」

　これは傑作だ。俺と別れてから、すぐに婚約者を見つけるとはな……。こういった場合、父親が急遽決めた可能性が高い……となると相手は男爵か？　それとも平民の出の富豪かもな。


　俺は笑いを堪えながら、ルーマティーを全部飲み干した。今度の舞踏会にはウェルナもおそらく来るだろう。そのバカな表情をこの目に焼き付けてやる。楽しみが一つ増えたな。