妹に婚約者を奪われましたが、公爵令息から求婚されました!

安奈

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16話 シンディとディエスの婚約 その1

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「は……? ディエス様……今なんと……?」


 話のな流れを理解できなかったのか、ジニーは素っ頓狂な表情を見せながら、ディエス様に聞き返していた。ディエス様は再びジニーに向かって話し出す。


「上手く聞こえなかったかな? 私はシンディ殿と婚約をする、というものだよ」

「そ、そんなこと……!?」

「なにか不思議なことでもあるか?」


「……!!」


 周囲の貴族達はガヤガヤと騒ぎ立てているけれど、ジニーとフリント様の慌てようはそれらの比じゃない。なんていうか、自分たちの晴れの舞台を邪魔されたようなカップルの心境なんじゃないかしら。まあ、私もディエス様も二人がまともなカップルだなんて微塵も思ってはいないけどね。


「ね、姉さま……私とフリント様の婚約の場でよくそんなこと出来ますね……」

「どの口が言っているのよ……」


 ジニーの呆れた物言いに、怒る気力すら失われていく。逆切れとかそういうレベルですらないかも……。


「シンディ……お前はやはり、尻軽だったようだな……!」


 貴族の方々はざわついているから聞き取れていないと思うけど、フリント様はまたまた問題発言をしている。しかも、正当性皆無な……。


「私の婚約者、シンディ殿への侮辱は不敬罪に該当する可能性もあるぞ? フリント殿。言葉は慎んだ方がいい」

「くっ……なぜ、ディエス様はこの女に肩入れしているのです? あり得ない……」


「お前の見る目がないだけだろう? シンディ殿の血を分けた妹のことを悪く言いたくはないが……お前は、彼女の性格を矯正する義務が生じるだろうな。でなければ、今後、自らの首を絞める結果が待っているだろう」

「……」


 なるほど、もっともな発言ね。フリント様と婚約をすれば、当然、それ相応の地位と見られるわけだし。今までのように、エトワール家の次女だけの肩書きではいられない。

 いずれはジニーの歪んだ性格が災いを招きそうね……。


---------------------------------------



 これが、先ほど耳打ちされたディエス様の作戦……でも、こんなことを公の場で言ってしまうと後に響いてしまうんじゃ……。私は最初は断ったんだけれど、ディエス様が、

『私は、シンディ殿に興味があるんだ。でなければ、流石にこのような作戦は考えないさ』

『でぃ、ディエス様……それって……!』

『もしも、作戦に応じてくれるなら、頷いてもらえないか?』


 ディエス様からの熱い視線に私は目を逸らすことさえも忘れていた。私はとても恥ずかしかったのだけれど、それ以上に嬉しさが心の中を巡っていたんだと思う。

 妹からは蔑まれ、お父様やお母様にも邪見にされていた日々……。屋敷内で心を許せる人はライラなど数人の使用人だけだった。どうしてそんな環境になってしまったのかは、いずれ思い出して行く必要があるかもしれないけれど……そんな中、婚約者のフリント様も妹に取られてしまい、本当にキツかった。

 大袈裟かもしれないけれど、救済してくれたディエスは私の白馬の王子様、運命のお相手なのかもしれないわね。

 だから……私は無言で頷いてみせたの……周囲の貴族達にも知らしめる特大のインパクト発表。インパクトはより強大なインパクトで潰せる……それがディエス様の考えでもあったから。



--------------------------------



「とても強大なインパクト……ディエス様、上手くいきましたでしょうか?」

「概ね、成功のようだが……まだまだ、これからさ」

「……これから……?」

「現在の雰囲気は私とシンディ殿の物になっている。この状態でならば、フリント・アラベスクの裏切り行為はより鮮明に伝わるだろう」


 性格の不一致……ディエス様はあの場にいらっしゃった唯一の証人。その瞳には決してうやむやにはしないという確かな意志が見て取れた。……これって、私の為にしてくださっているのよね……? 公爵家のお方が伯爵家の者と繋がっても政治的なメリットはそこまで上がらないはずだし……。

 私の瞳に映るディエス様の姿は、どんどん格好良くなっていく気がする。いえ、元々、格好良い方ではあるんだけれど……。先の読めない展開になって来たけれど、私はとても楽しんでいた。
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