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2話 ラーデュイ・ケネス公爵

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「ら、ラーデュイ様……? い、いえ、失礼しました。ケネス様……」

「気を遣うことはない、ラーデュイと呼んでくれて結構だ」

「か、畏まりました、ラーデュイ様……」


 私は突然現れた位の高いラーデュイ様に面食らってしまった。どういうことかしら? わざわざラーデュイ様が、乗っていた馬車から降りて来るなんて……。


「立てるか?」

「あ、ありがとうございます……で、ですが、なぜ、ラーデュイ様が……」

「馬車の中から座り込んでいる貴公が見えた。止まらない理由などないだろう? 貴公は確か……」


「は、はい。セリナ・ウィンドルと申します」

「確か伯爵令嬢だったな」

「はい、左様でございます」


 そこまでの会話を終えると、ラーデュイ様はどこか納得したように頷いていた。私としては、公爵様に声を掛けられて緊張以外の感情がない状態だけれど。私とそこまで変わらない年齢のラーデュイ様……それだけに、余計な緊張も生まれていた。


 確か、ラーデュイ様のお父上様が早くに引退したので、彼が早くして当主になっていたはず……。


「こうして、直接話すのは初めてだったか?」

「さ、左様ですね……直接、お話しさせていただいた機会は、今まではなかったかと存じます」


 緊張のあまり、私は言葉遣いを間違えていないか不安になっていた。ウィンドル家もアストラル王国内ではそれなりの地位に属しているけれど、公爵家系であるケネス家との差は大きい。一説では王族に対しても強い影響力を持っているらしいし。


「セリナ嬢、泣きながら座り込んでいるようだったが、何かあったのか?」

「あ、あの、それは……」


 せっかくのラーデュイ様からのお気遣いだったけれど、私は咄嗟に口を閉ざしてしまった。知られたくないという思いが強かったからだと思う。


「……言いづらいか。見たところ、アルトファ・セネガリー侯爵と一緒に居たようだが?」


 う……そこまで見られていたなんて……。これは隠してもあまり意味をなさないように感じられた。


「確か貴殿とは婚約関係にあるのではなかったかな? まあ、ここまで聞いてしまうのは、礼儀に反してしまうのだが」

「いえ、とんでもないことでございます、ラーデュイ様……。はい、確かに私はアルトファ様と一緒に居ました、しかし……」


 アルトファ様と婚約関係にあることも知ってくださっている。そんなラーデュイ様に対して、何も言わないのは逆に失礼だと判断した。私はアルトファ様に婚約破棄をされたことを彼に告げる。


「なんと……婚約破棄!?」


 ラーデュイ様はとても驚いている様子だった。アルトファ様ほどのお方がそんなことをしたことに、驚いているのかもしれない。


「はい……さらに、私の妹と婚約することを考えているようでして……」

「なんだと……?」

 私はアルトファ様に言われたことの全てを、ラーデュイ様に伝える。その時のラーデュイ様の表情は、とても形容できないものになっていた……。
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