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弟離れが出来ない姉
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テレポートを設置した後。
俺はブレイヴ学園の試験に合格するため、机に向かって勉強をしていた。
ブレイヴ学園の試験は大きく分けて二つ。筆記試験と実技試験だ。
「ユートくんは同年代の子と比べて優れていると思います。ですが試験では何が起きるかわかりません。試験という魔物に捕らわれて、普段通りの実力が出せない可能性もなきにしもあらずです。体調が悪くなることだってあります。そのような中頼れるのは、自分は試験のためにやるべきことはやったという自信です」
俺の背後では木剣を持って熱血指導する、セリカさんの姿があった。
正直うるさくて気が散るけど、今のセリカさんに逆らったら、何を言われるかわからない雰囲気があるので堪える。
「勉強の後は実技です! 敵は己の中にあると思って下さい!」
これはセリカさんにもし子供がいたら大変だな。
熱血ママで、子供が潰れてしまわないか心配になってくる。
「今日は私から一本取るまでは寝かせませんよ!」
無茶言わないでほしい。今までセリカさんから一本取ったことは数回しかない。試験がある俺に徹夜しろとでも言いたいのだろうか。
この時の俺は、早く試験の日が来ないかと切に願っていた。
そして試験勉強をして六日の時が経った。
「ユートくんハンカチは持った? 筆記用具は? トイレは行った? 試験の時は深呼吸して落ち着くんだよ」
「セリカ、あなたが落ち着きなさい。試験は今日ではなく明日ですよ。それとユート様の準備は私が確認しましたから安心して下さい」
屋敷の側にある開けた場所で、俺はセリカさんとソルトさんに見送られていた。
「それと一日一回は戻って来ないと私泣いちゃいますよ」
何だか弟離れが出来ない姉を持った心境だ。
そんなセリカさんの様子を見て、ソルトさんはため息をつく。
「セリカ、わがまま言うのもやめなさい。ユート様は遊びに行くわけではないのですよ」
「それはわかってるけど⋯⋯でも寂しいものは寂しいんです」
「ユート様を気持ちよく見送るのも従者の務めですよ」
「⋯⋯わかりました。このネックレスをユートくんだと思って我慢する」
「⋯⋯そうして下さい」
ようやくセリカさんが納得してくれたようだ。
「もういいのか? 離れると言っても二年くらいじゃろ。そのくらい我慢できんのか」
既に竜モードになっているルビーさんは、やれやれと言った感じで呆れていた。
竜に取っては二年は短くても、人に取っては十分長いぞ。
「そんなの絶対に嫌です! ユート様、必ず飛び級で卒業して下さいね!」
「そんな無茶な」
「お主も過保護な家族を持って大変じゃのう」
ブレイヴ学園に飛び級などという制度はあるのだろうか?
まああるなら頑張るけど、なかったら諦めてほしい。
「それでは行くぞ」
「うん」
俺はルビーさんの背中に乗せてもらう。
既に乗っているルリシアさんは、空の旅が怖かったのか放心状態だ。
「なるべく戻ってくるから」
「絶対ですよ。嘘をついたら許しませんよ」
「ユート様、お気をつけて」
俺はセリカさんとソルトさんに手を振ると、ルビーさんが高く舞い上がった。すると二人はあっという間に見えなくなるのであった。
そして空の旅の最中、ルリシアさんは恐ろしい程無言だった。
いつも通り俺に抱きついてはいるけど、悲鳴を上げたり怖がったりしていない。
「ルリシアさん?」
俺は少し心配になって話しかけるけど、やはり返事はない。
「ルリシアさんどうしたの?」
俺はもう一度問いかけてみる。
「ユートくん今は話しかけないで。目を閉じて無心になればきっと怖くないから」
「わかった」
なるほど。確かにルビーさんのお陰で風や重力を感じないから、目を閉じていれば大丈夫な気がするな。
でも美少女が目を閉じていると、何故か邪な気持ちが沸いてくるのは気のせいか?
いやいや、十歳の男の子が邪な気持ちなど持っているはずがない。俺こそ無心になった方がいいな。
俺も目を閉じて心を落ち着かせる。そして十分程経った頃。
「二人とも降りんのか?」
「あ、うん。降りるよ」
いつの間に目的地に到着していたようだ。
俺はルビーさんの背中から飛び降りる。
そしてルリシアさんも軽快な動きで、ジャンプして見事に着地していた。
どうやら今回は恐怖で足が震えていないようだ。
目を閉じて、心を落ち着かせたことが功を奏したということか。
「ここから西に三十分程歩けばブレイヴの街に着くぞ。本当は街まで送ってやりたいが、余計な騒ぎが起きてしまうのは不本意じゃろ?」
「そうね。ここはヴィンセント帝国じゃないから、騒ぎを起こしたくないわね」
「我が出来るのはここまでじゃ。二人とも試験とやらを頑張るんじゃぞ」
「ルビーさんここまで連れてきてくれてありがとうございます」
「ルビーありがとう。助かったわ」
俺達が感謝の言葉を述べると、ルビーさんは羽ばたいて帝国へと戻っていった。
「それじゃあユートくん、行きましょう」
「うん」
そして俺達は森を抜けて、ブレイヴの街に向かうのであった。
俺はブレイヴ学園の試験に合格するため、机に向かって勉強をしていた。
ブレイヴ学園の試験は大きく分けて二つ。筆記試験と実技試験だ。
「ユートくんは同年代の子と比べて優れていると思います。ですが試験では何が起きるかわかりません。試験という魔物に捕らわれて、普段通りの実力が出せない可能性もなきにしもあらずです。体調が悪くなることだってあります。そのような中頼れるのは、自分は試験のためにやるべきことはやったという自信です」
俺の背後では木剣を持って熱血指導する、セリカさんの姿があった。
正直うるさくて気が散るけど、今のセリカさんに逆らったら、何を言われるかわからない雰囲気があるので堪える。
「勉強の後は実技です! 敵は己の中にあると思って下さい!」
これはセリカさんにもし子供がいたら大変だな。
熱血ママで、子供が潰れてしまわないか心配になってくる。
「今日は私から一本取るまでは寝かせませんよ!」
無茶言わないでほしい。今までセリカさんから一本取ったことは数回しかない。試験がある俺に徹夜しろとでも言いたいのだろうか。
この時の俺は、早く試験の日が来ないかと切に願っていた。
そして試験勉強をして六日の時が経った。
「ユートくんハンカチは持った? 筆記用具は? トイレは行った? 試験の時は深呼吸して落ち着くんだよ」
「セリカ、あなたが落ち着きなさい。試験は今日ではなく明日ですよ。それとユート様の準備は私が確認しましたから安心して下さい」
屋敷の側にある開けた場所で、俺はセリカさんとソルトさんに見送られていた。
「それと一日一回は戻って来ないと私泣いちゃいますよ」
何だか弟離れが出来ない姉を持った心境だ。
そんなセリカさんの様子を見て、ソルトさんはため息をつく。
「セリカ、わがまま言うのもやめなさい。ユート様は遊びに行くわけではないのですよ」
「それはわかってるけど⋯⋯でも寂しいものは寂しいんです」
「ユート様を気持ちよく見送るのも従者の務めですよ」
「⋯⋯わかりました。このネックレスをユートくんだと思って我慢する」
「⋯⋯そうして下さい」
ようやくセリカさんが納得してくれたようだ。
「もういいのか? 離れると言っても二年くらいじゃろ。そのくらい我慢できんのか」
既に竜モードになっているルビーさんは、やれやれと言った感じで呆れていた。
竜に取っては二年は短くても、人に取っては十分長いぞ。
「そんなの絶対に嫌です! ユート様、必ず飛び級で卒業して下さいね!」
「そんな無茶な」
「お主も過保護な家族を持って大変じゃのう」
ブレイヴ学園に飛び級などという制度はあるのだろうか?
まああるなら頑張るけど、なかったら諦めてほしい。
「それでは行くぞ」
「うん」
俺はルビーさんの背中に乗せてもらう。
既に乗っているルリシアさんは、空の旅が怖かったのか放心状態だ。
「なるべく戻ってくるから」
「絶対ですよ。嘘をついたら許しませんよ」
「ユート様、お気をつけて」
俺はセリカさんとソルトさんに手を振ると、ルビーさんが高く舞い上がった。すると二人はあっという間に見えなくなるのであった。
そして空の旅の最中、ルリシアさんは恐ろしい程無言だった。
いつも通り俺に抱きついてはいるけど、悲鳴を上げたり怖がったりしていない。
「ルリシアさん?」
俺は少し心配になって話しかけるけど、やはり返事はない。
「ルリシアさんどうしたの?」
俺はもう一度問いかけてみる。
「ユートくん今は話しかけないで。目を閉じて無心になればきっと怖くないから」
「わかった」
なるほど。確かにルビーさんのお陰で風や重力を感じないから、目を閉じていれば大丈夫な気がするな。
でも美少女が目を閉じていると、何故か邪な気持ちが沸いてくるのは気のせいか?
いやいや、十歳の男の子が邪な気持ちなど持っているはずがない。俺こそ無心になった方がいいな。
俺も目を閉じて心を落ち着かせる。そして十分程経った頃。
「二人とも降りんのか?」
「あ、うん。降りるよ」
いつの間に目的地に到着していたようだ。
俺はルビーさんの背中から飛び降りる。
そしてルリシアさんも軽快な動きで、ジャンプして見事に着地していた。
どうやら今回は恐怖で足が震えていないようだ。
目を閉じて、心を落ち着かせたことが功を奏したということか。
「ここから西に三十分程歩けばブレイヴの街に着くぞ。本当は街まで送ってやりたいが、余計な騒ぎが起きてしまうのは不本意じゃろ?」
「そうね。ここはヴィンセント帝国じゃないから、騒ぎを起こしたくないわね」
「我が出来るのはここまでじゃ。二人とも試験とやらを頑張るんじゃぞ」
「ルビーさんここまで連れてきてくれてありがとうございます」
「ルビーありがとう。助かったわ」
俺達が感謝の言葉を述べると、ルビーさんは羽ばたいて帝国へと戻っていった。
「それじゃあユートくん、行きましょう」
「うん」
そして俺達は森を抜けて、ブレイヴの街に向かうのであった。
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