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皇帝陛下の策

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「本気でぶん殴ってたなあ。まあ俺もあいつのことは気に食わなかったしスッキリしたぜ」

 以前俺とザインはゴミ扱いされたからな。俺としてはリリシアの未来を変えたルドルフのことが許せなかっただけだが。

「まるで積年の恨みを込めたような一撃に見えたぞ」
「そうかな?」

 す、鋭い。ザインはたまに本質を見抜いたような発言をするんだよな。これが野生の勘というやつなのか?
 だがさすがに俺が未来から来たことはわかるまい。

「ともかくこれでリリシア王女の無罪は証明されたと考えていいですか?」

 俺は皇帝陛下に向かって問いかける。

「もちろんだ。それどころか余は命を⋯⋯」
「陛下。そのお話はまた後でしましょう」
「うむ、そうだな。このことは気軽に話していい内容ではないな」

 皇帝陛下が回復魔法について口にしようとしていたので止めた。さすがにまだ他の人達に知られたくない。
 知られていないからこそ、今回のように相手を嵌めることが出来る。
 今後もなるべくなら回復魔法については隠し通すつもりだ。

 俺に殴られたルドルフは意識が戻らないまま、兵士達に連れられて玉座の間を出ていく。
 そして皇帝陛下はルドルフを見送るが、どこかその瞳には寂しさを感じた。
 それも当然か⋯⋯いくら愚息とはいえ自分の子供だ。何か思うことがあるのは当然のことだろう。
 だがそれも一瞬のことだった。ルドルフが連れ去られた後、皇帝陛下は上級貴族の方へと向き合う。

「さて⋯⋯アルドリックから聞いた話では、ここで次の皇帝の選定が行われていたとか⋯⋯」

 皇帝陛下はギロリと上級貴族を睨み付ける。
 すると後ろめたいことがある者はうつむき、目を合わせることが出来ない。

「帝国のことを思えばルドルフを皇帝にするなど愚の骨頂! 正気の沙汰とは思えん。金銭をもらったか、もしくはルドルフが皇帝になった際に地位を約束されたか⋯⋯どちらにせよそのような者は我が帝国には不要だ」

 皇帝陛下が回復魔法で意識を取り戻した後、俺はそのままルドルフを糾弾するつもりだった。
 だが皇帝陛下から、帝国に巣くう闇を処分したいと相談されたため、俺達はあえて兵士達に捕まり、監禁されたのだ。
 そしてルドルフの味方をする上級貴族の判別が終わった時点で、皇帝陛下は俺達が監禁されていた部屋に来て、共に玉座の間へと向かったのだ。
 自分は殺されかけたのに、一瞬でルドルフ派を一掃する策を思いつくとは。皇帝陛下の行動には恐れ入る。

「し、しかしルドルフ皇子に味方をしたかどうかなど、どのようにして確認をするつもりですか?」

 上級貴族の一人が恐れながら意見を述べる。

「その点については問題ない。次の皇帝を決める時、誰がルドルフを推したのかアルドリックが覚えているからな」

 アルドリックは自信満々な顔でサムズアップをする。
 まあ有能なアルドリックなら、それくらい記憶するのは余裕だろう。

「そ、そんなあ⋯⋯」

 ルドルフの味方をした者達はその場に崩れ落ちる。

「余が沙汰を出すまで謹慎しておれ。自分の欲を優先して帝国の未来を省みない者は絶対に許さんぞ。重い処分を覚悟するのだな」

 皇帝陛下の宣言により、上級貴族達は玉座の間から退出していく。
 そしてこの場には俺とリリシア、ザイン、皇帝陛下、アルドリック、デュケルだけとなる。

「こ、皇帝陛下! 本当に皇帝陛下で間違いありませんか!?」
「⋯⋯デュケルよ。心配かけたな」
「いえ、皇帝陛下がご無事なら私はそれだけで⋯⋯ですがどのようにして助かったのですか?」
「幸い急所を外れていたからな。今も痛みを堪えてこの場に来たのだ」

 皇帝陛下やアルドリック、そしてルドルフに殺されかけた護衛二人には、例え誰であろうと回復魔法のことは伝えないでほしいとお願いしていた。
 そのため、皇帝陛下の側近である宰相にも黙っていてくれるようだ。

「そ、それは大変です。早くお部屋でお休み下さい」
「そうさせてもらう。だがその前に⋯⋯リリシア王女、ユート、ザイン⋯⋯そなたらには迷惑をかけた。改めてお礼をしたいので、後で部屋に来てくれ」
「承知しました」

 リリシアが代表して答えると、皇帝陛下は玉座の間を後にするのであった。
 そして俺達も一度部屋に戻ると、直ぐ様アルドリックが呼びに来たため、急ぎ皇帝陛下の部屋へと向かった。
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