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神? と呼ばれる男

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「お二人共落ち着いて下さい。一体何があったのですか?」
「も、申し訳ありません。つい興奮してしまって」

 門番と言えば粛々と街に怪しい奴が入らないか、または犯罪者が街の外に出ないか見張るのが仕事だ。
 その2人がここまで興奮気味に話すということはよっぽどすごい人物が街に来たんだな。

「とんでもない方とは一体どなたが来られたのですか?」
「剣の道を志す者にとっては1度は憧れる存在」
「グランドダイン帝国のエグゼルド皇帝陛下です!」

 誰かと思ったら皇帝陛下かよ!
 確かに帝国に戻るためにズーリエの街を通っておかしくはないけど。

「そしてなんと! ズーリエに来て下さった方はもう1人いらっしゃいます」

 ん? 何でいきなり敬語になったんだ? 皇帝陛下の時は使っていなかったのに。

「その美しい御御足おみあしに踏まれたいランキングNo.1! 天才剣士エミリア様もこの地に降臨して下さったのです!」

 エミリアはちまたではそんな風に思われているのか? それにしてもこの2人は滅茶苦茶テンション高いな。この熱狂ぶりからしてもし俺が以前エミリアに脚の裏を舐めろと言われたなんて口にしたら殺されるかもしれない。

「そ、それは良かったですね」

 ルナさんなんか2人のエミリアに対する盲信ぶりを見て顔がひきつっているぞ。

「はい! 2人は俺達に取って崇拝すべき神のような存在です」

 門番の2人は皇帝陛下とエミリアの信者になっているな。まあ2人とも見た目はカリスマ性っぽいものを持っているからわからないでもない。だけど中身はただの戦闘狂とドSだけどな。

「側で見ているだけで光栄でした」

 2人は恍惚な表情を浮かべている。皇帝陛下とエミリアの人気は他国にも浸透しているんだな。これはもし帝国と戦うことになったらジルク商業国の士気は滅茶苦茶悪そうだ。

「でも何か気になることを言っていたよな」
「お偉いさんが皇帝陛下にどうしてジルク商業国に来たのか聞いているのを見ていたけどある男に負けたからだって」

 げっ! まさか皇帝陛下は余計なことを言っていないよな。
 例え2対1でも皇帝陛下に勝ったなんて話が広がったら俺のスローライフ生活が崩れてしまう。まあ既にスローライフとはかけはなれてしまっているが⋯⋯。

「皇帝陛下に勝つってことはもう神以上の存在だよな」
「ぜひその人に、いや神に会って弟子にしてもらいたい」

 ほら、この2人にもし俺が皇帝陛下に勝ったなんて知られたらめんどくさいことになるのは確実だ。絶対に黙っていよう。

「ふふ⋯⋯神以上の存在ですって、リックさん」

 ルナさんが悪戯っ子のような表情で笑みを浮かべながら意味深な視線を向けてくる。

 頼むからそんな目で俺を見ないでくれ。

 前のルナさんなら俺をからかってくることなどしてこなかったはずだ。やはりはるなとの記憶の融合で少し人格が変わっているのかもしれないな。

「あん? お前ら何言ってんだ? グランドダイン帝国の皇帝を倒したのはここにいる⋯⋯ぐふっ!」

 テッドが空気を読まないでべらべらと俺のことを話そうとしたので右の拳を腹にぶちこむ。
 するとテッドはうめき声を上げ身体をくの字にしてその場に崩れるのであった。

 ちょっと力が入りすぎたのかもしれない。だがけしてさっきリリナディアの件で笑われたからじゃないぞ。

「テッドさんどうされました!」

 そして俺は心配している振りをして地面に倒れているテッドの様子を伺う。

「長旅で疲れてしまったのかな? 仕方ない。俺が運んであげよう」

 俺は慌てることはなく気絶しているテッドを肩に乗せる。

「えっ? 今リックがやったんじゃ⋯⋯」
「俺にもそう見えたけど⋯⋯」
「それじゃあお仕事お疲れ様です」

 門番の人達は一瞬のことでポカンとしていたが俺は何事もなくこの場を立ち去るのてあった。


 そして後ろから追いかけてきたルナさん、リリナディアと合流して自宅へと向かう。

「リックてめえぇ⋯⋯」

 自宅の前まできた時にテッドが意識を取り戻したので、俺は肩に担いでいたテッドを地面に下ろす。

「何しやがる! マジで死ぬかと思ったぞ」

 テッドは俺の拳を食らったことに腹を立てているようだ。

「テッドさん、リックさんの行動は褒められたものではありませんけどエグゼルド皇帝陛下のことを言ってはダメですよ。ラフィーネ様からも言われてますよね?」

 俺は皇帝陛下との決闘で勝ったことについては黙っててもらうようにラフィーネさんにお願いしていた。だからテッドはラフィーネさんからそのことは聞いているはずだ。

「そ、それは⋯⋯まあ⋯⋯そんなことを言っていたような⋯⋯」
「とても影響力がある事案ですから口にしてはダメですよ」
「うっ⋯⋯悪かったな」
「リックさんもです」
「すみませんでした」

 俺とテッドはルナさんの裁量によりお互い謝罪することになる。

「それではリックさんのお家に参りましょう」
「ちょっと待ってくれ! リリナディアの側にリックがいる時は俺は別行動してもいいか?」
「何か用があるんですか?」
「ちょっとな」

 ハッキリ言わないけどおそらくラフィーネさんのためにケインさんのことを調べるんじゃないかな。けどそのことを知られるのが恥ずかしいから口に出さないのであろう。

「わかりました。ただ朝と夜には会って直接話をするでいいんですか?」
「いいぜ。じゃあ夜になったらまたここに来るわ」

 そう言ってテッドは街の南区へと消えていき、そして俺達はカレン商店の中へと向かう。すると⋯⋯。

「リックちゃんおかえりなさ~い」

 店に入ると母さんがこちらに走ってきて俺を抱きしめてきた。

「く、苦しい⋯⋯」

 母さんの豊満な胸が俺の息を止めようとしてくるが、男としてはこの柔らかい至福の空間が永遠に続いて欲しいと願ってしまう。だがその時はすぐに終わりを遂げる。

「ルナさん無事で良かったわ。心配したのよ」
「ご心配おかけして申し訳ありません」

 母さんは今度はルナさんを抱きしめる。
 ちっ! 俺は至福の時間が終わってしまったことに思わず心の中で舌打ちをしてしまう。

「あら? 後ろの子は?」

 母さんはルナさんの背後にいるリリナディアに気づくが、リリナディアは知らない人が来たことで顔を背けてしまう。

「リリナディアって言うんだ。詳しいことは後で話すけどしばらくルナさんと一緒にうちに泊めてもいいかな?」
「あら? あらあらまあまあ」

 母さんは突然俺の言葉を聞いて笑顔で喜び始める。

「こんなに可愛らしい方がリックちゃんのおよ⋯⋯んんっ!」

 母さんは何かを言いかけたがリリナディアがうちに泊まるのは歓迎のようだ。

「さあさあ中に入って! 疲れたでしょ」

 こうして俺は母さんに腕を引かれたルナさんとリリナディアの後に続いて
 久々の自宅へと戻ってきたのであった。
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