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ズーリエの危機

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 俺はテッドの言葉を聞き驚愕する。

「魔物の大群!? 数は!」
「わからねえ、だが相当数いると憲兵達が口にしてたぞ!」

 魔王が死んでから魔物の大群が街に攻めてくるなど聞いたことがない。このタイミングでこのような異常事態が起きるということは魔王の卵であるリリが関係しているのか? 
 ザガト王国の仕業だとしたら何故魔物を操ることができるのか疑問が残る。だがとにかく今は現場に向かうのが先決だな。

「テッドさん! 急ぎ南門に行きましょう」
「おう!」

 俺は着替えを済ませ部屋の外へと向かう。

「お兄ちゃん、ノノも行っていい?」

 ノノちゃんは睡眠不足が解消されてから俺とレベル上げをしていたため、今じゃそこらの冒険者より強くなっている。戦力になるのは間違いないが危険に晒したくないという気持ちもあるが⋯⋯。

「わかった! だけど俺の指示には絶対に従うこと」
「うん!」

 魔物がどの程度いるのかわからないためノノちゃんを連れていくことした。
 そして俺達はリビングへ向かうとリリがいたので俺はリリの手を取り外へと連れ出す。

「えっ? ど、どうしたの」
「走りながら話すから一緒に来てくれ」
「う、うん」

 今は立ち止まって説明する時間も惜しいので走りながら状況を話すことにする。
 もし狙いがリリの場合、南側の魔物が陽動で他の場所から街に進入されたら護ることが出来なくなるため、多少危険かもしれないけど俺の側に置いておきたい。

「実は今――」

 俺は先程テッドから聞いたことをリリに伝える。
 そして数分程走ると南門が見えてきたので、俺達は見晴らしのいい門の上へと続く階段を駆け上がる。

「ちょ、ちょっと待て! 何でそのガキが俺達と同じスピードで走れるんだ」
「ガキじゃないよ。ノノだよ」
「そんなことどっちでもいい」

 ノノちゃんが速く走れることも今はどっちでもいいと思うが。

「しゅぎょうしたからだよ」

 ノノちゃんのレベルが上がった時のステータスの上昇率はMP、魔力、素早さが高かった。

「マジかよ」

 テッドは小さな女の子が自分と同じくらいのスピードで走られたことにショックを受けているようだ。だけど今は落ち込んでいる暇はないぞ。
 そして俺は南の方に視線を移すがまだ自分の目では魔物の姿を確認することが出来ない。

「リックさん!」

 そして突然階段の方から俺を呼ぶ声が聞こえたので後ろを振り向くとそこには息を切らしたルナさんの姿が見える。

「魔物は?」
「まだ来てないみたい」
「憲兵の方のお話ですと魔物の数は数千匹以上はいると仰ってました」

 ルナさんの言葉を聞いて俺達だけではなく回りにいる冒険者や憲兵達がざわつき始める。

「す、数千⋯⋯だと⋯⋯」
「無理だ。逃げた方がいい」
「どこに逃げるんだ。逃げる場所なんてないよ」
「今日がズーリエにとって最後の日になろうとは⋯⋯」

 周囲から絶望的な声しか聞こえないが今は嘆いている時間がおしい。

「リックさん、私も戦います」
「いやいや大将はあんただろ? 大将が前線で戦ってどうする」
「ですが大将が安全な所にいると士気が低下してしまうのでは?」

 ルナさんの言うとおり大将自らが安全な場所に逃げて「じゃ、後よろしく」なんてことをしたら戦っている者達は劣勢になればさっさと逃亡するだろうな。

「それでもルナさんをここにいさせる訳にはいかない」
「何故ですか? 私も皆さんと街を護るために戦いたいです」
「いや、ルナさんにはやってもらいたいことが他にあります」
「やってもらいたいことですか?」
「ええ、役所に行って憲兵達を。そして冒険者ギルドに行って冒険者達を全員連れてきて下さい。ルナさんが声をかけてくれればたくさんの人が集まると思います」

 魔物の数が未知数なため戦える者は少しでも多い方がいいだろう。ズーリエの街で影響力のあるルナさんが声をかければ多くの者が集まってくれるはずだ。

「わかりました。すぐに向かいます。ですが人を連れてきたら皆さんと戦わせてもらいますからね」

 そしてルナさんは階段を降りて冒険者ギルドの方へと向かう。

「あの嬢ちゃん、大将なのに先頭に立って戦う所とかまるでラフィーネ様みたいだな」
「ラフィーネさんは憧れの存在みたいです」
「少々無鉄砲な所がありそうだが嫌いじゃないぜ」
「俺もです」

 魔物の大群との決戦前だというのに俺とテッドはニヤリと笑う。

「だけど勝てんのかよ」
「勝てますよ。負ける気で戦えば勝てるものも勝てません」
「もちろん俺も勝つ気で戦うけどよ」

 珍しくテッドが弱気になっている。
 無理もない。数千の魔物の前で恐れを見せないのは皇帝陛下くらいだろう。

「でしたら逃げますか?」

 テッドくらいの強さがあれば今からズーリエの街を離れれば助かる確率は高いはずだ。

「バカヤロー! 街の奴らがいるのに逃げるなんて死んでもごめんだね」
「俺もですよ」

 日頃態度が悪かったりと問題ある行動をする所もあるけどこの窮地で他人のことを考えられるんだな。さすがラフィーネさんの護衛を任されているだけのことはある。

「リックさん⋯⋯これってもしかして私の⋯⋯」
「わからない。とにかく今はここを切り抜けることを考えよう」

 リリが魔物が攻めてきたのは自分のせいだと口にしようとしていたので俺は言葉を遮る。

 この場には憲兵達もいるから迂闊なことを言わない方がいい。もし魔物から街を護ることができたとしても死人が出てしまったら後々その恨みがリリに行ってしまう。しかも魔王だということが知られてしまったら尚更だ。

「リック! 来るぞ!」

 テッドが声を上げるとズーリエの南側から何かがこちらに向かってくるのが見えた。
 その数はとてもじゃないが数えられるものではなく、この場にいるほとんどの者は死を覚悟するのであった。
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