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エミリアVSサーシャ

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「いきなり部屋に侵入してきて何様のつもりなの!」

 ウィスキー侯爵が執務室を去り、口を開いたのは憤慨したエミリアだった。

「リック様、このお話を受けてはいけません」
「わかってる。自作自演というやつだろ」
「ええ。おそらくウィスキー侯爵はゴルド子爵が追放された時期を見計らって、ドルドランド領の治安を悪化させ、再建したことを口実に領地を占拠するつもりです」

 もしかしたらこの現状を見て、俺が逃げ出すよう仕向けているか? それともさっきも口にしていたが、若造と小娘がいても何も出来ないと考えているのかもな。

「ウィスキー侯爵が画策している証拠はあるのか?」
「いえ、残念ですが今の所は⋯⋯」
「そんなものとっちめてはかせればいいのよ」
「その時は問題を起こした責任を取って、あなただけで公爵領に帰って下さいね。私は関係ありませんから」
「もちろんその時はあなたも道連れにしてあげるわ」

 この二人は年も同じなのに何故こんなに仲が悪いのか。間に挟まれる身にもなって欲しい。
 それにしてもまさかドルドランドが帝国の貴族に狙われているなんて、思ってもみなかったぞ。
 ゴルドも厄介な土産を残して去ってくれたよ。

「話が逸れてしまいましたが、ウィスキー侯爵のドルドランドへの策略は他にもあります」
「それは?」
「アールコル州の名産であるエールを安く提供していることです」

 酒か⋯⋯子供には関係ないが、大人には絶大な効果を発揮するものだな。

「この荒れたドルドランドへと運ばれたエールはまさにオアシス。街の住民の方々は、ウィスキー侯爵への感謝の言葉を口にしています」

 すでに侵食されつつあるということか。
 街の人達もこれだけ旨いエールが飲めるなら、ウィスキー侯爵の統治でも良いと言う人が出てくるかもしれない。
 俺が領主を断れば、ドルドランド領を統治する者がいなくなる。その場合誰か他の者が皇帝陛下よりドルドランド領主を任命されるから、ウィスキー侯爵はその椅子を狙っているのか?

「でも権力がある貴族だからと言って、そんなに簡単に領地を取ることはできるのか?」
「もしリック様がドルドランド領主をお引き受けしなかった場合、可能性はあります」
「基本領地は世襲で引き継がれるか、何か功績を立てた者に与えられるわ。もしあの男がこのドルドランドの窮地を救えば、皇帝陛下から領地をたまわることがあるかもしれないわね」

 それなら俺が領地を引き継げば、ウィスキー侯爵の企みは潰えるということか
 正直な話、領主になるつもりはなかった。だがサーシャとエミリアの話が本当なら、このウィスキーのような悪党にドルドランド領を任せる訳にはいかない。

「それと初めに聞いておきたいんだけど、リックは領主をやるつもりはあるの?」
「まだ決めてない。だけど領主になるにせよならないにせよ、このままドルドランドを放置することはできないな」
「それに関しては同感ね。あのウィスキーとかいうやつの思い通りにはさせたくないわ」
「ドルドランドの治安はわざと悪くするような方は、許しておけません」

 少なくともドルドランドの治安の回復、ウィスキーのやり方は看過できないということで、俺達三人の意見は一致したようだ。

「まずは街の現状がどうなっているのか確認したいな」

 俺がそう口にすると二人は怪訝な顔を見せる。
 えっ? 今俺、至極真っ当なことを言ったよな? 二人は何が気に入らないんだ。

「また夜の街を渡り歩くつもりね」
「リック様⋯⋯ハレンチです」 

 どうやら昨日の誤解は解けていないようだ。
 くそっ、テッドのせいで二人の信頼度が地に落ちたじゃないか。後で目が覚めたら、しっかりと誤解を解いてもらいたい。

「外に行くなら私がついて行くわ」
「何を仰ってるか意味がわかりません。リック様のお供は私が致します」

 二人は俺について来るつもりなのか?
 出来れば勘弁して欲しいな。

 エミリアは見ての通りドSなので、人に頭を下げて情報を聞くことなど出来ないだろう。そしてサーシャはコミュニケーション力は抜群なのだが、持って生まれたオーラというか、話し方も気品があり、相手側が臆してしまう可能性がある。
 それに何より二人の容姿が優れていることで、この治安が悪いドルドランドを歩いていると、確実によからぬ輩が話しかけてくることが見えていた。

「いや、ここは俺一人で行ってくるよ。領主代行の二人が領主館を離れるのも良くないだろ?」
「それならサーシャ⋯⋯あんたが残りなさい」
「あなたが外に出ても問題を起こすだけです。大人しくここにいたらどうですか」

 二人が再び言い争いを始めてしまった。何故この二人は仲良く出来ないのだろうか。だが今がチャンスでもある。

 俺は気配を消してこっそり部屋から出るため、ドアの方へと移動する。

「リック!」
「リック様!」

 しかし回り込まれてしまった。

「それならどちらがリックについて行くか、公平にじゃんけんで決めましょう」
「お断りします。幼き頃からどうしてエミリアとじゃんけんして勝てないか、やっと気づいたのです。私のじゃんけんのクセを見抜いていますね?」
「なんのことかしら」
「その無駄に優れている動体視力で、判断しているのでしょ?」

 普通ならそのようなことは出来ないが、一流の剣士の目を持つエミリアならやりかねないな。

「ポンコツの癖に気づくなんて⋯⋯少しは成長したようね」
「いつまでも昔の私だとは思わないで下さい」
「それならコインで決めるのはどう? 裏表どっちにする?」
「いいでしょう。私は表にします」

 エミリアは金貨一枚をコイントスして、落ちてきたのを掌で受け止める。
 そして掌をゆっくりと開くと⋯⋯金貨は裏になっていた。
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