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変わらないエミリア

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 俺とエミリアはサーシャの視線を背中に感じて、領主館を出る。
 自分が領主館に残ることになって⋯⋯いやエミリアに負けたことで、相当悔しがっているように見えたな。
 だけど今のコイントスは⋯⋯。

「ふふ⋯⋯正義は必ず勝つってやつだわ」
「いや、悪魔だろ」
「なんですって!」
「コイントスをする前に裏か表か決めさせてたじゃないか」
「べ、別に悪いことじゃないでしょ?」

 確かにコイントスをする人によってはな。

「狙って裏が出るように調整したんじゃないか」
「な、なんのことかしら」

 エミリアは明らかに動揺している。やはり俺の予想は正しかったようだ。

「コインが裏になったことを見極めて掴んだんだろ?」
「よくわかったわね。でもイカサマはバレなきゃイカサマじゃないのよ」

 エミリアは俺に指摘されたことで、どや顔で罪を認めた。
 サーシャはエミリアがコインをトスする前に答えてしまった。結果、狙って裏を出したエミリアの勝利となったのだ。

「あの子は真面目過ぎるから、こういう勝負は私の方に分があるわ。じゃんけんも必ずグー、チョキ、パーの順番に出すから」

 クセ以前の問題だった!?

「けど真面目なところがサーシャの長所でもあるけどな」
「とにかく今回は私の勝ちよ。リックはこれからどこへ行くのか決めてるの?」
「いや、特に決めてない」

 夜なら昨日と同じ様に酒を提供する場所へ行きたかったけど、昼間なら商店街や冒険者ギルドに行こうかと考えていただけだ。

「それなら私について来なさい」

 どうやらエミリアには考えがあるようだ。俺より先にドルドランドに来ていたし、何か気になる所があるのかもしれない。

 そしてエミリアの案内の元、たどり着いたのは東区画にある武器屋だった。

「ここで何か新しい情報が得られるのか?」
「情報? 何を言ってるの? 新しい剣が欲しかったからここに来ただけよ」
「えっ?」

 さ、さすがエミリアだな。
 さっきの話の流れで、まさか自分の行きたい所へ行くとは思わなかった。
 そういえば婚約者だった時も、こうやって色々連れ回されたな。
 まだそんなに時間は経っていないのに、何だか懐かしい記憶だ。
 正直な話、あの頃は何で公爵令嬢が俺の婚約者になったんだと心に余裕がなかった。
 しかし今の俺には前世の記憶があるせいか、エミリアが実はツンデレであることがわかってきたので、少し可愛く思えるようになったが⋯⋯

「いらっしゃい」

 そして俺達は武器屋に入ると、黒い髭を生やした中年の男性が声をかけてきた。

「この武器屋で一番良い剣を出しなさい」
「か、かしこまりました」

 武器屋の店員は上から目線のエミリアに圧倒されながら、店の奥へと消えた。

「あまり剣に拘りはなかったけど、最近すぐに折れたり傷ついたりするのよ」

 エミリアは腰に差した細身の剣を抜く。

「もう三ヶ月で五本目よ」

 パッと見た感じだと綺麗な鋼の剣に見える。だがよく見ると確かに剣身の部分に傷があるのがわかる。
 これはもしかして⋯⋯

「剣が合ってないんじゃないか?」
「セバスにも同じ事を言われたわ」

 エミリアはスピードを重視しているため、軽い細身の剣を使用している。だがその細さ故、耐久性が落ちてしまい折れてしまうのだろう。
 しかしひどい使い方をしてなければ、三ヶ月で五本も変えることにはならない。俺は頭の中で二つの予測が立った。だけど一つは絶対に認めないだろうな。

「鋼の剣だとエミリアの力量には耐えられないから、もう1つ上の素材の物にしたらどうかな」
「わかってるじゃない。この店に美少女天才剣士の私に合うものがあればいいけど⋯⋯例えばリックの後ろにある剣とか」

 俺は背後に視線を向けると、そこには透明な剣が目に入った。

「これは確かに綺麗だけど」

 俺の目には耐久性が低いように見える。
 ちょっと鑑定を使って確認してみるか。
 俺がスキルを使用すると、目の前にある剣の情報が入ってきた。

【ライトニングソード】

 ラ、ライトニングソード!? 何だかカッコいい名前が出てきたぞ! これはもしかしてすごく強い武器なのでは?

 ライトニングソード⋯⋯ガラスで出来た魔道具。品質B、金貨500枚の価値がある。魔力を込めると雷光のように輝く。しかし耐久性はないため、装飾品としてしか価値はない。

「やめておいた方がいい。エミリアが使ったら一瞬で壊れるぞ」
「そう⋯⋯残念ね」

 エミリアはガッカリしているな。どうやら本当にライトニングソードを使ってみたかったようだ。
 確かに輝く剣を持つエミリアは様になるけど、こればかりは仕方ないな。
 そして俺達は他の武器を見ながら、店主が戻ってくるのを待っていると入口から二人の客が入ってきた。

「おっ! 美人な嬢ちゃんがいるじゃねえか」
「もしかして新人の冒険者か?」

 二人のガタイがいい男達がエミリアに気づき声をかけてくる。

 何だか嫌な予感がするぞ。何事もないといいが⋯⋯

「もしかしてどの剣を買おうか迷っているのか?」
「それなら俺達が選んでやるぜ。何なら剣の手解きもしてやるよ」
「俺達の部屋でな」
「「ガーッハッハ!」」

 うわ、典型的なエロ親父達が来たよ。エミリアは大丈夫か? 短気を起こして手を出さないといいけど。

「落ち着けエミリア。今のドルドランドはこういう奴らばかりなんだ。いちいち怒っていたら切りがないぞ。それに問題を起こしたら公爵家に戻されるぞ」
「わかってるわよ。私が怒っているように見える? 女神のような笑顔でしょ」

 俺はエミリアの表情を覗くと笑顔だが目は笑っていなかった。
 これは相当怒っているな。
 ここは一度退散した方がいいかもしれない。
 このままだとこの二人を始末しかねないぞ。

 俺はエミリアの手を取り、この場から離脱しようとするが、男達二人はこの後言ってはならないことを口にするのだった。
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