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口は災いの元

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「よく見るとこの嬢ちゃん⋯⋯顔は絶世の美人だが胸が小さ⋯⋯ぶべらッ!」

 エミリアが突然男の顔面に蹴りを食らわす。すると男は武器が飾ってある壁まで吹き飛び、ピクリとも動かなくなってしまった。

 こ、こいつは言ってはならないことを口にしたぞ。エミリアは昔から自分の胸が小さいことを気にしていた。これまでもそのことを口にした奴は五体満足でいられたことはない。

「誰が無乳よ! こ、これでも二年前より1cm大きくなったんだから!」

 誰も無乳まで言ってないが。しかも14歳から16歳の成長期で1cmか⋯⋯あれ? おかしいな。何だか涙が溢れてきたぞ。

「て、てめえ! 何しやがる!」

 仲間がやられたことで、もう一人の男がエミリアに対して強い口調で抗議するが、明らかに腰が引けてた。
 だがその気持ちはわかる。今のエミリアは、皇帝陛下と戦った時以上の殺気を放っているからな。出来れば俺も関わりたくない。

「エ、エミリア⋯⋯問題を起こしたらダメなんだろ?」
「なに? 私はゴミを蹴り飛ばしただけよ。問題ないわ」

 そう言いながらエミリアは、倒れた男の顔をそこら辺にあるゴミ屑のように踏みつける。
 俺はその様子を見て、さっき一瞬でもエミリアが可愛いと思った自分に後悔した。

「ひ、酷すぎる。こいつ⋯⋯人間じゃねえ」

 もう一人の男はエミリアの悪魔のような姿を見て、完全に戦意を失っている。

「さて、お店の中が汚れるからゴミは処分した方がいいわね」

 エミリアは男の顔から足を退けたが、ここでさらにドS発言をした。
 まだ終わりじゃないのか? このままだと死んでしまうぞ。
 さすがにこれ以上はまずいと思い、俺はエミリアを止めようとする。

 だがこの時、店の騒ぎを聞きつけたのか、奥の部屋に向かった店主が戻ってきた。

「こ、これは何の騒ぎですか! 店が滅茶苦茶だ!」

 確かに店主の言うとおり、エミリアが男を蹴り飛ばしたことで、机はひっくり返り武器が床に散乱している。
 そしてその中には先程鑑定で見たライトニングソードがあり、見事に真っ二つに折れていた。

「これはこの二人が悪いのよ」

 エミリアは自分が壊したのを棚に上げ、その責任を男達二人に押しつける。

「ふ、ふざけるな! こんな危ねえ奴に関わってらんねえ!」

 だが男はエミリアに恐れをなしたのか、倒れた男を担ぎ上げこの場から逃走しようと背を向けた。

「まちなさい!」

 エミリアは男達を追いかけようとする。

「待つのはあなたも同じですよね」

 だがエミリアは突然店主に腕を掴まれ、行動を阻止されてしまう。
 こうして男達は無事? この場から逃げることが出来たのであった。


「どうしてくれるんですか! このライトニングソードは金貨800枚もするんですよ!」

 店主は無惨な姿になったライトニングソードを見て、怒りを露にする。
 だが金貨800枚はふっかけ過ぎだ。鑑定では金貨500枚と出ていたぞ。しかしこちらに落ち度があるため、強く言うことができない。

「あなた、この私を誰だと思っているの? 私は⋯⋯んんっ!」

 俺は両手でエミリアの口を塞ぐ。
 今、公爵家の令嬢だって言おうとしたよな? 確かに公爵家の令嬢だから許せといえば、店主は従わざるを得ないだろう。

 だが。

「問題を起こしたらダメなんだろ?」

 サーシャが言うには公爵家に連れ戻されるらしいからな。
 エミリアは少し不満そうにうーうー言っていたが、俺の言葉を聞くと大人しくなった。
 これなら大丈夫そうだな。
 俺は口を塞いでいた手を離す。

「いたっ!」

 突然右の人差し指に痛みが走る。
 エミリアのやつ、手を離した瞬間に指を噛んできたぞ。
 どうやら俺に口を塞がれたのがお気に召さなかったらしい。その証拠に目線をこちらに合わせてくれないし、怒りで顔が真っ赤になっている。いや、もしかしたら照れているのか?

「とにかく弁償してもらいますよ。本当は金貨800枚ですが、500枚にまけて上げましょう」

 なるほど。800から500にまけたことで、譲歩している姿をみせているのか。さすが商売人だな。

「わかったわよ。払えばいいんでしょ、払えば」

 さすが公爵家の令嬢だ。金貨500枚などはした金というわけか。

「リック。私の代わりに払わせて上げるわ」
「えっ! 俺が払うの!?」
「当たり前でしょ」

 何で俺がやったわけじゃないのに払わなきゃいけないんだ。しかも上から目線だし。

「さ、さっき私の唇を触ったのよ。せ、責任取りなさい」

 確かに軽率な行為ではあったけど金貨500枚って⋯⋯。日本円にして五億の価値があるぞ。さすがにそれはぼったくりだ。

「俺はそんな金持ってないぞ」

 ドルドランドの貧民街をなくすために寄付したからな。

「私もないわ」
「エミリアなら払えるだろ?」
「無理よ。もし家のお金に手をつけたら、問題を起こしたと見なされてしまうわ」

 やはりエミリアは公爵家には帰りたくないようだ。だがそれならどうする? 冒険者ギルドで依頼を受けて稼ぐか? いや、そんな高額の依頼があるとは思えない。少なくともすぐに金貨を用意することは出来ないだろう。

「仕方ないわね。ここは私に任せておきなさい」

 エミリアが何か策を思いついたようだが、何だか嫌な予感がする。だがこれはそもそもエミリアの問題だから、俺はその動向を見守るのであった。
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