狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

連載

ドルドランドの長い夜(６)

「ふふ⋯⋯最近ストレスが溜まることが多かったからちょうどいいわ」
「小娘が！ ここはお遊戯会の場じゃねえんだよ！」

　荒くれ者達はエミリアのことを完全にナメていた。
　剣を持っていようが、たかが小娘一人。多少腕に覚えがあったとしてもこちらは三十人はいる。
　何があっても自分達の敗北はない。そう考えていたのだが⋯⋯

「は、速い！」

　エミリアがスピードを上げると、荒くれ者達は驚きの言葉を漏らす。
　そして自分達の横を風が抜けたかと思った瞬間、手の甲に激痛が走る。

「ぐわっ！」
「いてえ！」
「ぎゃあっ！」

　エミリアはすれ違いざまに、武器を持った手の甲に向かって剣を的確に突き刺した。
　すると荒くれ者達は悲鳴を上げ、あまりの激痛に顔をしかめ武器を地面に落としてしまう。

「まだ終わりじゃないわよ！」

　エミリアは荒くれ者達の間を駆け抜けた後、再び踵を返し戻ってきた。

「く、来るな！」
「ひぃぃっ！」

　荒くれ者達は先程とは違い下卑た笑みは見られず、代わりに恐れの表情を浮かべていた。逆にエミリアは楽しそうに荒くれ者達を蹂躙していく。

「今さら恐怖しても遅い！」

　エミリアは剣を投げ捨てる。

「バカな！ 剣を捨てただと！」
「これ以上あなた達に剣を使うのはもったいないわ！」

　そしてエミリアはすれ違いざまに拳と蹴りを食らわせ、建物の壁へと吹き飛ばしていく。

「あ、ありえない！ 何だこいつは⋯⋯」
「はっ！ も、もしかしてエミリアって⋯⋯あの天才剣士のエミリアのことか！」
「う、嘘だろ！ 冷酷非道で通った後に何も残らないエミリアか！」
「ちょっと誰が冷酷非道よ！ もうあんた達は絶対に許さないわ！」

　エミリアに追われ、逃げ惑う荒くれ者達。
　その様子を見た兵士達は、これが地獄絵図だと誰もが思った。

「く、くそっ！ 仲間は！ 仲間はどうした！ 何故他の場所から火の手が上がらない！」
「仲間？」
「いるんだよ！ 千を越える仲間が！」
「へえ」
「どうだ驚いたか！ 俺達に手を出せば仲間が黙っちゃいないぜ」

　荒くれ者達は急に強気になり、エミリアを脅し始めた。

「面白いわね。だったらあんた達を倒せばその仲間が来るのね？」
「そ、そうだ！ 今ならまだ許してやるぞ！ そのままそこでおとなしくしていればな」

　荒くれ者達は自分達のバックには大勢の仲間がいることを思い出し、エミリアという恐怖を振り払うことに成功するが⋯⋯。

「ふふ⋯⋯ふふふ⋯⋯」

　エミリアは突然笑い声を発する。

「何を笑っている！ 千を越える俺の仲間に恐怖し、気でも狂ったのか！」
「いえ、あなたの見苦しい様を見て、つい笑みが出ただけよ」
「なんだと！」
「せっかくだから最後に良いことを教えてあげる。あなたのお仲間はどれだけ待っても来ることはないわ」
「どういうことだ」
「皆夢・の・中・で・ドルドランドを襲っているんじゃないかしら」
「ま、まさか全滅しているとでも言うのか」

　荒くれ者はエミリアの言葉を聞き、絶望の表情を浮かべる。

「さあ？ そこまで教える義理はないわ」
「ち、ちくしょう！」

　そして有無を言わされずエミリアに蹴られ、荒くれ者は気絶するのであった。

　リックside

「エミリア様が！？ しかし無法者達は数多くいると聞いている。いくらエミリア様でも⋯⋯」
「ウィスキー侯爵、サーシャや他の仲間もいるから大丈夫ですよ」
「ドルドランドにはほとんど兵士がいないのだろ？ そのような中に公爵令嬢を配置するなど危険ではないか？ それに住民達を早く避難させるべきだ」

　最もな意見だ。元勇者パーティーの一員だとしても、公爵令嬢を千を越える荒くれ者達の元へと行かせるなど非難されて仕方ない。

　通常の状態なら。

「大丈夫ですよ。住民の避難は既に終わっています。それと荒くれ者達は一部の者を残して無力化してあるので安全です」
「無力化だと！？ いったいどうやって」
「それは――」

　俺は荒くれ者達の状態をウィスキー侯爵に伝えるのだった。