台本集「愛ゆえに、」

天緒amao

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長(45分以上/15000文字以上)

カクテル・グラスで乾杯を(16,000文字程度)

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【登場人物】

◇チセト・ドゥ・メルブラウン
Chiseto do Merbrown イメージ曲:花に風/バルーン
メルブラウン・ハウスクリーニングの従業員。

◇メルデ・フェン・アンリフェル
Melde fem Unrifel イメージ曲:ロウワー/ぬゆり
ガラス工房Mearの店主。細かい作業が得意で、自分の仕事には誇りを持っている。

◇ドロレス・ドゥ・セントラル
Droless do Central イメージ曲:ジャンキータウンナイトオーケストラ/すりぃ
カフェ&スナック・セントラルのオーナー。酒癖が悪い。すぐに客の酒に手をつけようとする。

◇ラム・フェン・ルシフェルト
Ram fem Rucifellt イメージ曲:ジャックオーイズム/ふぁるすてぃ
バー・セントラルに昼間から入り浸る男。何の仕事をしているのかわからない。噂では殺し屋だとか。

◇ルナ・ドゥ・ヴィンセント
Luna do Vincente イメージ曲:おべか/すりぃ
双子の妹。バー・セントラルで働く看板娘。孤児で、ドロレスが母代わり。

◇リナ・フェン・ヴィンセント
Rina fem Vincente イメージ曲:やんなっちゃう!/ミ瑞
双子の弟。いろいろな仕事を掛け持ちして、ドロレスに払う生活費を稼いでいる。

◇アリス・ドゥ・フェルリリセラム
Alice do Ferlilyseram イメージ曲:あだぽしゃ/いよわ
チセトの実母。チセトの苗字「メルブラウン」は亡くなった養母(叔母)の苗字。

◇招待客A
Ney do Valentine

◇招待客B
Lora do Central

◇招待客C
Sophia do Oldrose



ドロレス 「運命の相手ぇ?」
メルデ  「そう、いつか出会いたいんだよ!可愛くて、優しくて、私に超優しくしてくれて、なんでも許してあげたくなっちゃうような子がいいなぁ。」
ドロレス 「どれくらい本気なの、あんたァ」
メルデ  「んん~…出会えるなら金払う!」
ドロレス 「あ゛~そぉ、珍しいわねぇ」
メルデ  「なんでもいいけどさぁ…あ、カラんなっちゃったよ!もう一杯!」
ドロレス 「酒癖が悪いとあんた、いつか不幸な目に遭うわよぉ」
メルデ  「いつかっていつさぁ」
ドロレス 「いつか、よ。明日かもしれないし、何年後になるかも分からないものなのぉ。」
メルデ  「いいの、今が楽しければさぁ~…」
ドロレス 「この酔っ払い。」
メルデ  「んー、いいの…」
ドロレス 「あんた起きてる?」
メルデ  「まだ飲めるって、次ちょうだいよ…」
ドロレス 「まだジョッキ空いてないんだけど。次飲むなら早く飲んじゃってよぉ。」
ルナ   「ドロレスも酔ってるじゃん!」
ドロレス 「ルナァ、いっつも言ってんでしょぉ、私はこいつと違ってどれだけでも飲める女なの。ほら、あっちのお客のワイン持ってきて」
ルナ   「それ法律に触れるから。」

 ◆暗転・明転

チセト  「こんにちはー、メルブラウン・ハウスクリーニングのチセト・メルブラウンです!」
メルデ  「あ、いらっしゃい、有難うございます」
チセト  「メルデ・アンリフェル様で間違いありませんか?」
メルデ  「はい、間違いありません。」
チセト  「今日はご自宅の清掃・家事代行とお聞きしていましたが、こちらは…アトリエ?」
メルデ  「あぁ、こっちは気にしなくて大丈夫です。アトリエと家、併用してるので。こちらです、あがって貰えますか」
チセト  「失礼します。」
チセト  「きっ…たな…………あ!!失礼致しました!」
メルデ  「あはは、大丈夫ですよ、事実ですし。兄が亡くなってから、家事をしてくれる人がいなくて。ずっとどうしようかなって思ってたんですけどね、ははは。」
チセト  「大丈夫です!では最初に、何か触れてほしくないモノなどはありますか?」
メルデ  「そうだなぁ…あ、そこの写真立てには触らないで下さい。それはそのままで大丈夫ですから。それ以外は、適当で。」
チセト  「分かりました、では失礼します!」
メルデ  「僕、作業してますから、何かあったらこっちへ。」
チセト  「はい。」
メルデ  「はぁ…沢山の、トロフィー…なに、これ。…じゃない!掃除掃除。解雇されたらひとたまりもないし、頑張らなきゃ。バカ。」
チセト  「これは、避けておこう…これ、汚れとりにくいやつっ!もぅ、放置しないでよね…!」
メルデ  「…うーん、イマイチ…柄が思いつかないなぁ。うーん…」

 ◆暗転・明転

チセト  「どうでしょうか?家事の出来具合は」
メルデ  「全部綺麗に整理されてるし、文句ないです!あ、トロフィー……磨いてくれたんですね、兄もきっと喜んでます」
チセト  「洗濯物も干しましたし、指定がなかったのでお昼ご飯も作らせて頂きました!あ、アレルギーとかありましたか?」
メルデ  「僕、一人暮らしですよ、アレルギーある人は、その食材買ってこないと思います」
チセト  「あ、そ、そっか!そうですね、確かに」
メルデ  「お昼ご飯、うわぁ、美味しそう…あ、君の分は作ってないんですか?」
チセト  「え、だって、お客様の家ですし。」
メルデ  「そっか…ん、美味しい…」
メルデ  「絶対食べた方がいいですよ!!美味しいです、これ」
チセト  「そんなにですか?別に普通ですよ?私のオムライス。隠し味もこれと言って入れてませんし、本当に何の変哲もない、普通のオムライスですけど」
メルデ  「そうかな…まぁ、いいや。はい、お金。ありがとうございました。」
チセト  「満足しましたか?」
メルデ  「はい!あ、あと、明後日もお願いしていいですか?」
チセト  「もちろんです!ぜひ私に任せて下さいっ!」
メルデ  「あの、チセトさん…でしたよね。これからはチセトさんって呼んでもいいですか?」
チセト  「じゃあ、私からはメルデさんですね!よろしくお願いします、メルデさん」
チセト  「…あ、予定時間より早く終わってる…」
メルデ  「この後お時間があるんだったら、ちょっと話しませんか?立ち話も何ですし、座って。今、お茶を淹れてきますから。この間仕入れたルイボスティーが美味しくて!」
チセト  「えっいいんですか?!私紅茶大好きなんです!…じゃなかった!ええと、いいんですか!お客様にその、ただでお茶をいただくのは申し訳ないなって」
メルデ  「…じゃあ、チセトさんにお茶を淹れてもらうのは?」
チセト  「それなら、怒られないかも!…あ。また敬語が、ごめんなさい…」
メルデ  「いいですよ別に。敬語…何なら、外しても」
チセト  「とっ、とんでもないです!お茶入れてきます!」
メルデ  「慌てなくていいですからねー、あ、私クッキー持ってこよ」
チセト  「クッキーあるんですか?」
メルデ  「この通りにあるお店のクッキーが、とっても紅茶に合うんですよ!お花の風味がするやつとかもあって、今出しますね」
チセト  「…よし、あとは蒸らすだけです。メルデさんはミルクとかいる?」
メルデ  「いる。」
チセト  「あ、…もう!揶揄わないでよ!」
メルデ  「だって敬語嫌なんだもん!僕が」
メルデ  「僕も普段通り過ごすからさ、普通にしてよ。呼び方も呼び捨てでいいから」
チセト  「…分かった、でも、お店に言わないでね。私が怒られちゃうから!」
メルデ  「いいじゃん、そっちの方がいい感じ。」
チセト  「でも呼び捨ては無理です!なんか恥ずかしいし。メルデさんは呼び捨てでもいいけど、私はまだ無理!」
メルデ  「不思議~。」
チセト  「…はい、どうぞ。」
メルデ  「…お茶淹れるの、上手だね。」
チセト  「上手いも下手もありませんよ。真心?」
メルデ  「真心かー、確かに。物作りでもさ、心をこめると魂が籠る…とか聞くよね、割と。僕はさ、本当にそうだと思うんだよね。だって僕が作るガラス細工より、兄さんが作るやつの方が…もっと綺麗だった気がするんだ」
チセト  「こめてないの?」
メルデ  「んー………。兄さんの夢だったのを、なんとなく継いでるだけだから…うん、どこか閉塞感があるというか、そもそも僕の夢じゃないし」
チセト  「いつか、真心込めて作れるといいですね。」
メルデ  「うん。そうだね。確かに」

 ◆暗転・明転

チセト  「まさか、ほんとに一日おきに全部予約を入れてくるとは思ってなかったよ、メルデさん」
メルデ  「いや、僕ほんとに気に入ってるの!初めて予約したハウスクリーニングサービスだったから不安だったんだけど、チセトで良かったなって」
チセト  「なんか、メルデさんって女たらしだよね…初恋キラー的な?」
メルデ  「何それ」
チセト  「あれだよ、多分この辺の人たちみんなメルデさんに恋してる感じ。女遊びとかしてるんでしょぶっちゃけ!イケメンはいいですね、私なんか告白もされた事ないのに!」
メルデ  「言うね、ほんとに。そんなことしてないよ、僕だって告白なんか…たまにしかされないし」
チセト  「たまに?!数えられるほどされてるの?!良いなぁ~~…あたしもモテたい、イケメン高身長高収入で紳士的なおじさまに告白されて結婚したい~~~」
メルデ  「理想高すぎない?」
チセト  「うるさいな!夢をでっかく持つくらい許してよ!私はどうせ、モテないんですから!」
メルデ  「えー、そんな事ないと思うけどな。家事できるし、それを仕事にしてるし、だいぶスパダリじゃない?」
チセト  「そういうとこ。本当、そういうところ。私も無意識にそう言うこと言える人になりたい。」
メルデ  「なりたい、って言ってる時点でもうアウトじゃん」
チセト  「あ、確かに」
メルデ  「天然?」
チセト  「そんなわけないでしょ。私は自立してます。」
メルデ  「…やっぱちょっと天然」
チセト  「え、ど、どこが?!」

 ◆暗転・明転

チセト  「はい、終わったよ」
メルデ  「ありがと。いやー、なんか、まだなれないなぁ。僕と兄さん以外の人がここにいるのも、この家が綺麗なのも。」
チセト  「まぁ、そんな物だよ。ハウスクリーニングの仕事してると、そういう話いっぱい聞くし。まぁ変に違和感感じちゃうのは、私もかな。もう二ヶ月もメルデの家に通い詰めてるから、なんか住んでるみたいな感覚になってきたし」
メルデ  「あはは!僕の家に?まぁ、ご飯とか一緒に食べてるし。あっ、て言うかさ、ご飯外に食べに行かない?嫌なら全然大丈夫なんだけどさ。」
チセト  「いいよ。今日はこれ以上仕事もないし。」
メルデ  「あとさ、確認したいんだけど、ちょっと仲良くなれたと思ってるの僕だけ?」
チセト  「ううん、私も。なんか、友達が自分の家にいるみたいな感じ」
メルデ  「僕もそうなの!そっちが家事やってるもんね。こっちが家主なのに、変な感じ」
チセト  「あはは!お客さんとこんな仲になるの初めてだよ、私」
メルデ  「僕も。僕のおすすめのお店でいい?お昼」
チセト  「うん。案内して」

 ◆暗転・明転

メルデ  「ドロレス、席空いてる?」
ドロレス 「今日は諸事情でガラガラよ。ほらここ来なさい」
チセト  「わぁ、良いお店」
ドロレス 「あら、お目が高いわね、気に入ったわ。私はドロレス。カフェ・セントラルのオーナーよ。夜はスナックもやってるから、良ければいらっしゃい」
チセト  「あ、ごめんなさい、未成年です」
ドロレス 「それは残念。あ、こっちはルナよ。うちの看板娘」
ルナ   「ルナでーす!そっちは?」
チセト  「チセト・メルブラウンです」
ラム   「おい、ドロレス、ワイン。」
ドロレス 「昼間はカフェよ、馬鹿。まだ出さないわよ。ったく、常連の癖に…」
ドロレス 「さ、メルデ、チセトちゃん。カウンター座っちゃって。ラムはちょっとあっち行ってなさい。どうせ何も頼まないんでしょう、昼のメニューは」
◆ラム、無言で席を移動する。
チセト  「…今のは?」
ドロレス 「飲んだくれのラム。何を頼むでもなく、昼間っから適当な本持って入り浸ってるのよ。ま、夜はバカスカ酒を頼む常連客だから今は放置してるんだけどね。にしてもあいつ、あんなに金使って…いつ働いてんのかしら。」
ルナ   「理容師らしいよ、前聞いたの」
ドロレス 「あー、だから鋏。…じゃないわ。どうぞどうぞ、座って。余計な話ばっかりしちゃった」
チセト  「いいんです、私が聞いた話だし」
メルデ  「ドロレスは話上手だしね。…何頼む?」
ルナ   「はい、メニュー。ちなみにあたし的オススメは絶対的にカレーライス!仕込みがうまく行ったの。ちゃんと味見もしたし…あ、服白いね。どうしよう」
チセト  「じゃあカレーで」
ルナ   「話聞いてた?」
チセト  「大丈夫です、この服、何着もストックしてるから。」
ルナ   「変人…」
メルデ  「ふっ」
ドロレス 「お客様に馬鹿言ってんじゃないわよ!はぁもう…あ、カレーは中辛でいいかしら?甘くも辛くも出来るわよ。」
チセト  「ちょっと甘口がいいです、中辛と甘口の間くらい…って、できますか?」
ドロレス 「出来るわよ。メルデは?いつもの?」
メルデ  「うん。お願い」
ドロレス 「ちょっと待っててね。」
◆ドロレスが料理を作り始める。
チセト  「…そういえば、今日は諸事情でガラガラって、何かあったっけ?」
メルデ  「なんだっけ…あぁそうだ、祭。どこかでお祭りがやってるはずだから、それじゃない?」
ルナ   「そっちじゃないよ、近くのカフェが開店セールしてるの。お客全部ぶん取られたし!最悪」
メルデ  「開店セールね。」
ルナ   「ま、そのうち勢いも衰えるだろうし?そしたらもうウチのもんよ。見た目だけ綺麗でも、味がまぁまぁな店なんてすぐ潰れる運命なの。こっちは夜のバーって言う収入源もあるしね。」
ルナ   「ここいらの客は酒の味なんか分かってやしないから、安酒でもドンドン呑んでくれる。ここは酒よりおつまみの美味しさで勝負してるから、じゃんじゃんお金落としてもらえるし!挙げ句綺麗なオーナーに可愛い系美人な看板娘ときたら!」
ドロレス 「自分で自分に可愛い系美人とか言うんじゃないわよ。はい、カレー。サンドイッチと、コーヒーはミルクと砂糖入れといた」
二人   「いただきます。」
チセト  「美味しい、甘さもめっちゃ丁度いいです!」
ドロレス 「ふふ、でしょう?私、辛すぎるのも甘すぎるのも苦手だから、慣れてるの。」
ルナ   「メルデは?」
メルデ  「落ち着く。」
ルナ   「落ち着くって何よ。ふふふ!」
ラム   「…ドロレス、俺もカレー。中辛」
ドロレス 「はぁ?…珍しいわね、ちょっと待っていなさいな」
ルナ   「ねぇ、ラム、羨ましくなっちゃったんだよ多分!ちーちゃんがあんまり美味しそうに食べるから。かーわいー!」
ラム   「聞こえてるぞルナ、辞めろ」
◆一同、軽く笑い合う
メルデ  「ねぇ、チセト、また来ない?今度はさ、仕事無い日とかに」
チセト  「気が合いますね!」
ルナ   「…ねぇ、あの二人ってデキてんの?」
ドロレス 「まだよ多分。」
ルナ   「うそぉ、距離感やば…」

 ◆暗転・明転

チセト  「メルデ!」
メルデ  「え、チセト。今日は僕、頼んでないよ?それに服…」
チセト  「なんとなく遊びにきてみたんだけど、忙しかった?」
メルデ  「ううん、全然。今日は水曜日だし、お客さんもほとんど来ないと思う。」
チセト  「何曜日が1番来るの?」
メルデ  「うーん、日曜日かなぁ…。お客さんもお休みだからいっぱい来るし、観光客とかもたまに。でもガラス細工って手が出しにくいのかなぁ、買っていくのは殆ど常連さんばっかりだよ。」
チセト  「うーん、観光に来て、ガラスのコップを買う!ってなるとさ、重いし、言っちゃ悪いけど邪魔だし、少し気が引けるのはあるよね。あ、ネックレスとかは?食器ばかりだけど、私が観光でお土産として買うなら、アクセサリーかも」
メルデ  「なるほど!ありがとう、チセト。考えてみる。」
チセト  「て言うかさ、この間…と言うか、ずっと前。真心込めてないって言ってた割には、大分熱心に仕事してるよね。」
メルデ  「いや、チセトと出会ってからだよ、きっと。チセト真面目に仕事してる中、僕がなんとなくでやってる…なんて、ちょっとダサいじゃん?」
チセト  「それで頑張れるところ、良いよね。私だったらもっと時間かかる。」
メルデ  「付け焼き刃だけどね。」
チセト  「無いよりましだよ。」
メルデ  「それもそうだ。」
◆テレーゼが店に入ってくる。
メルデ  「いらっしゃいませ。」
チセト  「あ…」
アリス  「このワイングラス、二つ下さい。」
メルデ  「ありがとうございます。どちらも手作りですので、少しずつ細かいところが違うと思いますがよろしいですか?」
アリス  「はい。」
メルデ  「ちょっと待って下さいね。お包みいたしますから」
◆メルデ、ワイングラスを緩衝材と共に紙袋に入れる。
メルデ  「お買い上げありがとうございます。二点で1900です」
アリス  「はい。」
メルデ  「丁度お預かりいたします。ありがとうございました」
◆テレーゼ、店から出る
メルデ  「チセト?」
チセト  「…あ、ううん、なんでもない。意外と即決して買う人がいるんだなって」
メルデ  「まぁ、前から狙ってたとかじゃないかな。」
メルデ  「…そうだ、チセトに見せたいものがあってさ。」
チセト  「なに?」
メルデ  「…これ。僕、細かい作業が好きだから、ハンカチに刺繍してみたんだよね。ガラス細工とは少し離れるけど、こういうのもありかなって。」
チセト  「え…これ、一人で?すごい、こんなの…」
メルデ  「ステッチとかわからないから、ちゃんと売ってるものに比べたら変かもしれないけど」
チセト  「変?そんなわけないよ、こんな細かい…すごい、綺麗…私も、こう言うことできたらなぁ。私本当に家事しかできないからさ。まぁでもその分、この仕事は天職だと思ってるけど!」
メルデ  「うん、きっと天職だよ。」
チセト  「…可愛いな、これ。」
◆ハンカチに見惚れるチセト。
メルデ  「…いる?それ。」
チセト  「え?」
メルデ  「試作品は他にもいくつか作ってるから、チセトが良ければ貰って欲しいなって」
チセト  「いいの?でも、悪いよ。こんなに手の込んだもの」
メルデ  「真心の練習。チセトが喜んでくれたらさ、やる気にもなるだろうし。」
メルデ  「…って、何言ってるんだろう私、なんかごめんね。困らせちゃった?」
チセト  「…ううん。これ、欲しい。貰っても良い?」
メルデ  「ありがと。…なんか嬉しいな、普段食器を買ってもらった時とは、ちょっと違う感じがする」
チセト  「馬鹿なこと言わないで、一緒だよ多分!」
メルデ  「そうかなぁ、ふふ」
チセト  「え、なに、揶揄ってるの?!変な笑い方しないでよ!」

 ◆暗転・明転

メルデ  「もう最近私変なんだよ、チセトが超可愛いのぉ~!!」
ドロレス 「あんた泣き入ってるわねぇ、水飲みなさァい、水」
ルナ   「ちょっと!これ以上迷惑客増やさないでよっ!」
メルデ  「だって、もうこれは運命だと思うんだよ、こんなにさ…ちょっと強いの持ってきて!」
ドロレス 「落ち着けって馬鹿ぁ~、ルナ、私にも強いの持ってきなさいよぉ」
ルナ   「うるさいなもう!他のお客さんで忙しいんだから、自分の酒くらい自分で注げ!」
ラム   「ルナ、ワイン」
ルナ   「うるさいな!…じゃなかった、ちょっと待って。ドロレス!呑んでないで仕事してよ!!」
ドロレス 「呑んでなきゃやってらんないでしょ~」
リナ   「ただいま…って、大盛況…」
ルナ   「あっリナ!ちょっと手伝って!あそことあそことあの席の客にお酒配ってきて!」
リナ   「ルナ、ちょっと休みなよ…」
ルナ   「良いから手伝って!ほら、次のオーダー溜まってる。私厨房行くから、頼んだよ?!」
リナ   「え、ちょ…えぇと、お待たせ致しました」
ラム   「ルナ、まだか」
ルナ   「まだ!」

 ◆暗転・明転

ルナ   「あ゛ーーーーー………」
リナ   「お疲れ様、ルナ」
ドロレス 「今日はもう引っ込みなさい、二人とも。後始末は私がやるわ。」
ルナ   「え、でも…」
ドロレス 「ごめんね、いつも心配かけて。さ、二人とも休んで。」
リナ   「ありがとう、ドロレスさん。ほら、ルナ。」
◆双子はける
ドロレス 「…ラム、まだいたの。今日はもう何も出さないわよ」
ラム   「お前と話したかったんだよ。」
ドロレス 「…なに、珍しいわね。…カウンター席来ても良いわよ」
ラム   「最近お前、働きすぎじゃないのか」
ドロレス 「親みたいなこと言うわね。大丈夫、これがフォーマルよ。…私より、ルナとリナを働かせ過ぎているとは思ってる。」
ラム   「日に日に人相が悪くなってる。」
ドロレス 「…ブスだって言いたい?」
ラム   「笑顔が下手だ。いつものお前の方がいいよ」
ドロレス 「…かっこつけんじゃないわよ!」
ラム   「うおっ、」
ドロレス 「あんたね、キザに成りきれてないのよ。辺に気遣わないでくれる、あたしはここらで一番良い女よ!舐めてもらっちゃ困るって話!」
ラム   「ははっ。」
ドロレス 「何よ、喧嘩売ってるわけ?」
ラム   「いや、そりゃ間違いないと思ってな」
ドロレス 「………あんた何か飲みたい?」
ラム   「今日は何も出してくれないんじゃなかったか?」
ドロレス 「気が変わった。…と言ってもお洒落なカクテルしか出さないわよ。強い酒はもう勘弁なのよ今は。一晩中私の話聞いて。」
ラム   「お前が酒出すのに、俺が話聞くのか。」
ドロレス 「私も呑むに決まってるでしょ。あんた何が良いの。」
ラム   「カシスソーダ」
ドロレス 「あんた随分優しいやつ飲むのね。」
ドロレス 「あ、そう言えば、カクテルには、花言葉みたいに一つ一つ意味があって、カシスソーダには、あなたは…」
ラム   「…。」
ドロレス 「…え、うそ、何その目」
ラム   「お前は何飲むんだ?」
ドロレス 「…ロバート・バーンズ。」
ラム   「はは、鋭い返しが来ちまった」
ドロレス 「そんな手で私に近づくなんて百年早いわよ。」

 ◆暗転
チセト  「ねぇメルデ、アップルパイは好き?」
メルデ  「うん。好きだよ。」
チセト  「この間焼いてみてうまくいったから、一緒に食べれないかなって思って。」
メルデ  「え、いいの?!」
チセト  「もちろん。ただちょっと大きいから、私の家まで食べにきて欲しい」
メルデ  「え」
チセト  「なに?案内はするから、そこら辺は大丈夫だよ?」
メルデ  「わ、分かった」
チセト  「明日の十四時に迎えに来るから!」
 ◆明転

メルデ  「綺麗なお家だね…」
チセト  「でしょう?まぁ、家事代行の私が毎日住んでるし!綺麗なのは当然ってとこ!」
メルデ  「確かに。」
チセト  「さ、座って。今持ってくるから」
メルデ  「う、うん。」
メルデ  「チセトの家にお呼ばれするだなんて…やばい。なんかドキドキする。座ってって言われたけど座れないし僕どうしたら…」
チセト  「もってきたよ…って、なんで立ってるの。座っていいのに。」
メルデ  「い、いや、なんか変に緊張しちゃって」
チセト  「変なメルデ。…ほら、食べよ?美味しそうじゃない?アイスティーを淹れたの、アッサムだけど大丈夫だった?」
メルデ  「うん、大丈夫。」
チセト  「メルデは紅茶にミルク入れる派?私は入れるの好きだけど」
メルデ  「僕も。気が合うね」
チセト  「ね!…ほら、食べて!真心込めて作ったし、きっと美味しいはずだから。…多分」
メルデ  「…じゃあ、いただきます。」
◆アップルパイを食べる
メルデ  「美味しい、カスタードが入ってる」
チセト  「近くのパン屋さんで売ってたのが美味しかったから、私も入れてみたんだ。」
メルデ  「すごいな、こんなのも作れるんだね」
チセト  「まぁ、昔から料理は私がしてたし…」
メルデ  「親孝行じゃん、やさしい」
チセト  「ううん。私、お母さんに家事押し付けられてて。耐えきれなくて叔母さんに相談したら、色々とあって引き取ってもらえることになったの」
メルデ  「え?」
チセト  「あ、なんか暗い話しちゃってごめん…」
メルデ  「謝ることないよ。もっと聞きたいな、チセトの昔話」
チセト  「あんまり楽しい話じゃないよ?」
メルデ  「チセトが嫌じゃなかったらさ、知りたい。もっと仲良くなりたいし、僕の話もするよ」
チセト  「…じゃあ、ちょっとだけ。」
チセト  「私、お母さんが三人いるの。産んでくれたお母さんと、育ててくれたお母さんと、引き取ってくれたお母さん。一人目のお母さんの記憶はあんまりなくて。でも、優しい笑顔だったことだけは覚えてる」
チセト  「育ててくれたお母さんが…ちょっと、毒親ってやつで。家事は全部私の仕事だって言って、自分はいろんなところに遊びに出かけてた。あ、でも、感謝してないわけじゃないよ。殴られたりはあんまりしなかったし。」
チセト  「最後に、叔母さんが私を引き取ってくれた。叔母さんは優しくて、一緒にクッキーを焼いたりしてさ…私に料理を教えてくれたのは、叔母さん。二人目のお母さんと暮らしてる時は、シンプルなご飯しか食べてなかったし。」
チセト  「叔母さんは最近病気で亡くなっちゃって。だから今は一人暮らし。」
メルデ  「…そっか、色々あったんだね。…辛い?」
チセト  「ううん、今は普通。家事ができるおかげで仕事にも恵まれたし、お客さんにも恵まれたし?」
メルデ  「確かに。出会えてよかった」
チセト  「メルデの昔話も聞かせて!」
メルデ  「僕の昔話…あ、兄さんとアトリエの話、しようかな。」
メルデ  「僕の兄さんはガラス職人になるのが夢でさ、ずっと僕にも話してくれたんだ。『俺はいつか自分のアトリエを持って、たくさんの人にガラス細工を売りたいんだ』って。僕は兄さんが大好きだったし、兄さんが話す夢の話も応援していたから、兄さんが本当にお店を開いた時は自分のことのように嬉しかった。」
メルデ  「父さんと母さんが亡くなってから、元の家を売ることになって、兄さんが暮らしていたあのアトリエに住むことになった。僕は兄さんの手伝いをしたり、たまにガラスを弄ったりしてた」
メルデ  「でも、ある日突然兄さんの持病が悪化して、兄さんもいなくなった。兄さんの遺言でアトリエを続けることになって、何となくずっと続けているんだよ。今も」
メルデ  「僕が好きなのはきっと、ガラス細工じゃなくて、ガラス細工を作る兄さんだったのに」
チセト  「でも、お兄さんの夢をずっと続けてるんだね。」
メルデ  「うん。やめ時も見つからないし、辞めたら生きていけないし。…やっと、ガラス細工を楽しむ口実もできたしさ。」
チセト  「口実?」
メルデ  「チセトに見せたいものがたくさんできた。兄さんが教えてくれたこと、僕が考えたもの、それにアクセサリーも作らなきゃ。…忙しいって、ちょっと楽しいね」
チセト  「うん。でも、今日はオフの日だから。まだまだパイが残ってるから、二人で食べちゃおう?」
メルデ  「そうだね!紅茶もあるし。」

 ◆暗転・明転

チセト  「はー…やっと秋らしい秋になってきたな。」
チセト  「枯葉が…メルデとどこかに出かけてみたいな…」
アリス  「久しぶりね、チセト」
チセト  「…え、あ、アリスさん………。」
アリス  「よそよそしいのは辞めて、お母さんって呼んで頂戴。」
チセト  「………お母さん」
アリス  「ええ、そっちの方が馴染み深いわ」
チセト  「…あ、あの、今日はどうしたんですか、いきなり。私、働いてますし、悪いこともしてませんけど…」
アリス  「親が理由なく子供の顔を見にきてはいけないの?」
チセト  「あ…そう、でしたか。」
アリス  「あら、何か気を使わせてしまったかしら?ごめんなさいね。なにせ久しぶりだから。」
チセト  「いえ、大丈夫です」
アリス  「そう、それでね、あなたに少し話したいことがあって。」
チセト  「何ですか?」
アリス  「また二人で暮らすのはどうかと思って。妹はもう死んでしまったし、あなたも一人暮らしは寂しいでしょう?」
チセト  「え……ごめんなさい、私、仕事がありますし、この家から離れるのは…ちょっと。」
アリス  「働かなくていいわよ?新しい父親もいるから、家にいてくれれば。」
チセト  「…私にまた、全部押し付ける気なんだ…」
チセト  「いえ、ごめんなさい、私、この仕事気に入ってるんです。」
アリス  「だったらいいじゃない。私たちの新しい家ですれば。ちょうど家事をお願いしたくて、あなたがきてくれたら助かるわ」
チセト  「あの、やっぱり私に家事をさせたいだけです…よね。あの、適当な家事代行に頼んではどうですか?私は寂しくないですし、大丈夫です。」
アリス  「家事に金を払う?娘が親に恩返しをするのは当然でしょう?」
チセト  「私の親は、三年前に亡くなったアルバ・メルブラウンです。お帰りください」
アリス  「恩知らず!!私がどんな思いであなたを育てたかまだわかっていないのね?!…考えておきなさい。私がどれだけあなたに尽くしてあげたか、思い出しなさい」
◆アリス、はける
チセト  「………今更母親ぶらないでよ」

 ◆暗転・明転

ルナ   「で?まだ告白してないんだ?」
メルデ  「うるっさいな、そんな簡単にするもんじゃないだろ!ねぇ、リナは彼女とかいないの」
リナ   「ボク?ボクに彼女作る余裕あると思う?」
メルデ  「んんん…だってリナ、モテそうじゃん」
リナ   「あのね、ボクは色んなところに出稼ぎ行って力仕事とか運送業で稼いでんの。この国でそんな底辺職業の男がモテるわけないでしょ?華やかな仕事ばっかりが優遇される街に生まれた宿命なんだよ。」
ドロレス 「メルデはさっさと告白すればいいじゃない。チセトちゃんがあんたのこと嫌いだと思う?」
メルデ  「…わかんないよ。きっと友達だって思われてる」
ルナ   「え、馬鹿じゃないの?」
メルデ  「そんなに言う?意気地なしで悪かったよ、僕はそういうやつなの…」
ルナ   「いや、本気で言ってるの?!あの子がメルデのこと友達だと思ってるって?!鈍感野郎も大概にしてっ!」
メルデ  「はぁ?なに?そんなわけないじゃん!夢見すぎだよ」
ドロレス 「酒入ったらチセトチセトばっかり言うくせに、本人前にすると何にも言えないわけ?」
メルデ  「そりゃ、お酒の力は偉大だもん。」
ドロレス 「はぁ…いいの?ほっといて。あの子、あんたが何もしないなら他の誰かに掻っ攫われるわよ」
メルデ  「え、それは、」
ドロレス 「何にせよさっさと決断しなさい。そしてさっさと声に出す。あんたが伝えてるつもりでも、相手はわからないもんなのよ。ねぇ、ラム?」
ラム   「…あぁ、そうだな」
ドロレス 「さ、こんなところで喋ってる暇があったら、プレゼントの一つでも考えたら?」
メルデ  「う、うん。」
チセト  「こんにちは…」
ドロレス 「あら、いらっしゃいチセトちゃん」
メルデ  「チセト?」
チセト  「あ…メルデ」
メルデ  「どうしたの?いつになく暗いけど」
ドロレス 「ラム、ちょっとカウンター空けて。奥の席に」
ルナ   「リナも!」
ドロレス 「なんか食べる?」
チセト  「いつもの、下さい」
ドロレス 「分かったわ。」
メルデ  「どうしたの、悪いことでもあった?」
チセト  「…前に話した、二人目のお母さんが、…アリスさんが、家に来て、一緒に暮らそうって、」
メルデ  「落ち着いて、慌てなくていい。大丈夫だよ」
◆ドロレスがカレーを持ってくる
ドロレス 「あとこれ、ラベンダーティーよ。飲めば少し気分が落ち着くはずだから、カレーを食べるより先にまずはゆっくり飲みなさい。」
チセト  「うん、ありがとうございます、……美味しい」
メルデ  「どうしたのか、教えてくれる?」
チセト  「…アリスさんが突然家に来て、また一緒に暮らそうって…。嫌なの、私はもう、あの人とまた暮らすなんて絶対…!無理矢理何でもさせられるのも、家に幽閉されるのも、奪われるのももう嫌なの!!!」
チセト  「私にメルデのお兄さんみたいなやさしい家族はいないの、私、どうしたらっ…!!」
メルデ  「…私がいる。まだ出会って三ヶ月しか経ってないけど、私はチセトを、大切な…友達だと、思ってる。僕が守る。チセトに会えなくなったら、僕が困るし。」
チセト  「メルデ…!」
メルデ  「泣かないで。頼りないかもしれない、でも絶対に僕がどうにかするから。」
チセト  「…ありがとう。」

 ◆暗転・明転

メルデ  「いらっしゃい。」
チセト  「ごめん、お邪魔しちゃって。」
メルデ  「大丈夫。チセトの家にいるより、ここにいる方がバレないかもしれないし。」
チセト  「…それがね、メルデ、この間のお客さん、…アリスさんなの」
メルデ  「え?」
チセト  「ここで暴れられたら、メルデのお店が…」
メルデ  「大丈夫。もし何かされたら、僕が訴えちゃうから。」
メルデ  「…ねぇ、こんな時に、ちょっと場違いかもしれないけどさ。渡したいものがあるんだ。」
チセト  「…え?」
メルデ  「はい、これ。少し前に言ってた、ガラスのネックレス。少し壊れやすいかもしれないけど、どうしてもチセトに受け取って欲しい。」
チセト  「いいの?…私、貰ってばっかりで…」
メルデ  「じゃあ、またアップルパイ作ってよ。あの時の。淹れてくれた紅茶も美味しかったから、また飲みたいな。」
チセト  「うん、絶対。また、絶対一緒に食べたい。」
メルデ  「ふふ。僕も。暗いことを考えないといけない時もあるけどさ、とりあえず落ち着こう?」
チセト  「…そうだね。焦ったまま考えても、何にもならないし。…ねぇ、ネックレス、つけてもいい?」
メルデ  「つけてあげるよ。貸して」
◆メルデがチセトの後ろに周り、ネックレスを首につける。
チセト  「似合ってる?」
メルデ  「もちろん。可愛い」
メルデ  「帰る時も必ず送って行くよ。怖くなったらいつでもここに逃げていい」
チセト  「ありがとう。ちょっと落ち着いた。…本当に逃げてきてもいい?」
メルデ  「うん。気晴らしにも付き合う。と言っても、ドロレスさんのところくらいしか知らないけど」
チセト  「私も。まぁ、あそこはとっても落ち着くし、気晴らしにはちょうどいいかも」
メルデ  「また二人で行こうね。」

 ◆暗転・明転

ドロレス 「…まだ告白してないわけ」
メルデ  「してないよ!」
ルナ   「いい加減付き合えってみんな思ってるよ?」
リナ   「うん、本当にそう」
メルデ  「うるさいな!そういうドロレスだって恋愛してないでしょ!」
ドロレス 「え、言ってなかったっけ。結婚するわよ、私」
メルデ  「は?!?!」
ドロレス 「ほらこれ、指輪。」
◆ネックレスについている指輪を見せるドロレス。
メルデ  「あ、あ、相手は」
ドロレス 「ラム」
メルデ  「嘘っ?!?!」
ラム   「俺じゃ不満か」
メルデ  「えぇ…い、意外」
ルナ   「流石の私でもカップルすっ飛ばして夫婦になるとは思ってなかった」
ドロレス 「まぁ、数年の付き合いだからねぇ。話し合ってまぁ良いかってなったのよ」
ラム   「式には呼んでやるよ。」
メルデ  「ありがと。」
ドロレス 「んで、そっちは」
メルデ  「ぼ、僕はまだ出会ってたったの数ヶ月だし!」
ドロレス 「お母さんとのトラブルがあるんだし、守る口実として付き合うってことにすればいいじゃないの。とっておきの建前があるんだから、使わないなんて損よ」
メルデ  「建前って言うな!僕は本気なの!」
ルナ   「本気なら本気で、早くいいなよってば。」
リナ   「誰が狙ってるかわからないよ。チセトさん可愛いし」
メルデ  「うぅ~……だよねぇ、私も早く言わなきゃなって思うんだけど……」

 ◆暗転(メルデが喋る中、フェードアウト)
メルデ  「それから、しばらく何もない日々が続いた。」
チセト  「二週間後のこと。」
 ◆明転

チセト  「送ってくれてありがとう。」
メルデ  「ううん。大丈夫。話してるのも楽しいし」
アリス  「チセト、会いにきたわ。」
チセト  「あ、アリスさん……」
メルデ  「チセト、」
チセト  「まって、…私が、話さなきゃいけない。…限界になったら助けて」
メルデ  「…わかった。」
アリス  「この間は怒鳴ってしまってごめんなさい。私が悪かったわ。でも、あなたも決心はついたわよね?」
チセト  「私は、アリスさんとは暮らせません。今の生活が好きだから」
アリス  「恩を仇で返すの?またあなたは私の期待を裏切るのね、妹に引き取られた時から何も変わっていない。こんなことなら、あのまま手放さなければよかったわ。チセト、いい?あなたは私と暮らすべきなの!親に恩返しをするべきなの、どうしてわからないの?!」
チセト  「アリスさんにもらった恩なんて何もないよ!!産んでくれたのは一人目のお母さんだし、育ててくれたのは三人目のお母さんだよ!!私はもうあなたの家族じゃない、都合のいい家政婦なんかじゃない!!家事させるならお金払ってよ、私の生活にこれ以上干渉してこないで!!」
チセト  「いっつも私に全部やらせていたのに、今更恩を返せって、私何をすればいい?!私はあなたに何ももらった覚えがないのに!!!」
アリス  「チセト!!」
アリス  「なんてことを、私がどれだけのことをしてあげたと思ってるのよ!!」
メルデ  「…帰ってください。」
アリス  「あなたは誰?!うちの娘になにを…」
メルデ  「帰ってください。いま、貴方は一歩前に進んで、何をしようとしましたか?それが親の行動だと僕は思えません。」
アリス  「私の教育方針に口を出さないで!!」
メルデ  「何もしてこなかった貴方が、何を今更教育するんですか」
メルデ  「チセトはもう一人で生きていけます。生きています。自立しているんです。間違ったことも何もしていない。あなたに教えてもらうことはもうないと、一緒に過ごしていて分かりました」
アリス  「うちの娘は一人じゃダメなのよ!!聞いていたでしょう?!現に私の言うことを何も理解しようとしていないじゃない!!」
メルデ  「一人じゃダメなのも、相手を理解しようとしていないのも、あなたの方じゃないですか。一方的に捲し立てて、暴力で押さえ込んで、何がしたいんだよ。これ以上何をさせたいんだよこの子に!!」
メルデ  「…お引き取りください。この子はあなたのものじゃない。」
メルデ  「……お引き取りください!」
アリス  「……………もういい、帰ります、二度と私の目の前に現れないようにしてください。」
◆アリス、はける。
メルデ  「………………」
メルデ  「………。」
チセト  「…。」
メルデ  「………(もういないのを見計らって)二度と来んなバーーーーカ!!!!」
メルデ  「あーイライラする、大丈夫?!ごめんね勝手に喋っちゃって、」
チセト  「怖かった、…怖かった…!!」
メルデ  「もういないよ。怖かったよね。」
チセト  「…でも、メルデが反論してくれたの、嬉しかった……こんなに、あたし、たくさん貰いっぱなしで…何にも返せてないのに」
メルデ  「え、待って待って、ちょっと、なんで泣くのぉ?!返すとか返さないとか関係ないよ、チセトが困ってたから助けたかっただけで、……あぁ、もう、ちゃんと言う。」
メルデ  「好きです。チセトのことが。…その、助けたら僕のこと好きになってくれるかなって、ちょっと期待してた。…ごめんなさい。こんな意気地なしでよければ、付き合ってくれませんか?この先もチセトのことを守りたいし、ずっと一緒に過ごしたい。」
メルデ  「…嫌…かな…?」
チセト  「え、…メルデ、私のこと、好きなの?」
メルデ  「うん。大好き。」
チセト  「え、今まで、ずっと?」
メルデ  「うん。はじめてドロレスのお店行った時くらいから、ずっと。」
チセト  「え、ど、どうしよう、わたし……こんなの、言われるなんて初めてで………」
メルデ  「…僕も、こんなこと言うの、初めて。」
メルデ  「チセトは僕のこと嫌い?それとも、友達のままがいい?」
チセト  「ううん、好きだと思う、……よろしく、お願いします」
メルデ  「…!やった!!嬉しい、よろしくね、チセト!」
チセト  「うん、ありがとう、」
メルデ  「じゃあ、涙、拭いて。笑ってる顔が見たいな」
チセト  「……やっぱり、そういうところ。」
メルデ  「え?」
チセト  「他の人に、しないでほしい」
メルデ  「するわけないよ。これからはチセトだけだもん。」

 ◆暗転・明転

ルナ   「いや~、本当に結婚しちゃうとはね~、あの二人。」
リナ   「おめでたいね。出会ってからどれくらい経つっけ」
ルナ   「わかんない、でもずっと楽しかった」
リナ   「それはボクも。」
◆走ってくる足音
ルナ   「あっ遅い二人とも!」
メルデ  「ごめんごめんっ…」
チセト  「道がお祭りで混んでて。」
リナ   「そのせいかこの辺りは静かだね。」
ルナ   「ま!みんな祭りかここか、二択だもんね。」
招待客A 「準備整ったって!」
メルデ  「…神父さんは?」
ルナ   「『あたしは神とか信じてないから、あんたらに誓うわ』って。いないよ」
チセト  「なにそれ、かっこいい」
リナ   「まぁ、ドロレスさんらしいっちゃ、らしいか…」
招待客B 「あのドロレスちゃんが結婚だなんて、人って変わるものね~…」
◆ラムとドロレスが奥から出てくる。
招待客C 「綺麗!素敵だよ、ドロレスちゃん!」
ドロレス 「ありがとね、ソフィー」
チセト  「ラムに)…綺麗だね、ドロレスさん。」
ラム   「当たり前だ」
ドロレス 「…病める時も健やかなる時も、互いに愛し合い、支え合うことを誓います。」
ラム   「誓います。」
ルナ   「誓いのキスは~?」
ドロレス 「しないわよ」
リナ   「え、もしかしてラムがっかりしてる?」
ラム   「してねぇよ」
ルナ   「面白くないなぁ…」
リナ   「はい、一人一杯ずつお取り下さい。ドロレスさんが作ったカクテルで乾杯します。」
ラム   「…なんて言うカクテルだ?」
ドロレス 「スコーピオン。残念ながら深い意味はないわ。ラム酒が入ってんのよ。」
ラム   「…確か蠍座だったよな、お前。なかなか粋な演出だな。」
ドロレス 「でしょう。」
ドロレス 「…さぁ、みんな持ったわね?」
ドロレス 「乾杯!」
全員   「乾杯!」
◆チセトとメルデ以外は話している。
チセト  「まさか本当に、式に招待されるなんて。冗談だと思ってた」
メルデ  「最初は僕もだったよ。みんなすっかり小綺麗にしちゃってさ。」
チセト  「ね、本当に綺麗。リナとか、いつもより格好つけた服着てる。」
メルデ  「……………ねぇ、チセト。ずっと言いたかったことがあるんだけど」
チセト  「なに?私、服に何かついてたり?」
メルデ  「ううん。……次は、僕らもこうなりたいって言ったら、嫌?」
チセト  「そのつもりだよ、私も。」
メルデ  「そっか、よかった。…ちょっとだけ待ってて?」
◆メルデがチセトの手の甲にキスをする。
メルデ  「僕の隣は、絶対チセトがいいからさ」

 ◆暗転

 ◆カーテンコール


「カクテル・グラスで乾杯を」終わり
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