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短(15分/5000文字程度)
死さへも喰ふて愛を語らむ①神崎愛夏音・善途
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ナレーター「『親』及び『子』は、以下の十箇条をよく読みなさい。」
「親」は、「子」を愛さなければならない
「親」は、「子」が適正年齢に達したら殺害しなければならないが、適正年齢に達する前に殺すことは禁止とする
「親」は、「子」を殺害すれば解放される
「親」は、「子」を殺害するための任意の道具を自由に借りることができる
「親」は、「子」を殺害しなければ処分される
「子」は、「親」に殺害されなかった場合もいずれ処分されるが、いつ処分されるかは未定とする
「子」は、二週間に一度倫理・道徳・自己判断テストを受けなければならない。また、テストの解答に関する「親」からの指示が見受けられた場合、「親」を処罰する
「親」と「子」には、運動・その他活動のための十分なスペースは与えられているため、施設外への外出は禁止とする
「親」と「子」には、外そうとしたり命令を実行しなかったりした場合に高圧電流が流れる首輪がつけられている
「親」と「子」は常に監視されているが「親」及び「子」の言動や思想によって、罰則などが科されることはない
ナレーター「また、適正年齢とは、『特定の他者に依存しない自我・判断基準を持った年齢』とし、「親」と「子」には、施設外との通信機器を含む望んだもの全てが与えられている。但し全ての通信は監視されており特定の場合にのみ投稿などを制限するものとする。」
ナレーター「CASE:A、神崎愛夏音・神崎善途。血の繋がり:無し」
善途「姉貴、…いよいよ明後日、俺の誕生日…だな。」
愛夏音「もうそんな時期~?そろそろ衣替えしなきゃね。また支給品の申請を…」
善途「また話逸らす気かよ」
愛夏音「………………もうその話はやめよって言ったじゃん。…当日でいいよ、本当に」
善途「俺が死ぬからな。後追って来るんじゃねえぞ。今まで通り真っ当な生活して、ちゃんと生きて、彼氏やら家族やらも作れよ」
愛夏音「…後追いなんてしないし。ずっと前から善途が死ぬって決めてたでしょ。お望み通り、あたしは残りの人生楽しむから」
善途「…なぁ」
愛夏音「なに?」
善途「…その、最期に何か………思い出でも作りたいと…思って。」
愛夏音「…そっちからそんなこと言ってくるの、珍しいじゃん!何かしたいことでもあるの?」
善途「屋外エリアでさ…………、花火、しねえか」
愛夏音「花火?」
善途「もう直ぐ秋だし、…俺ら祭りとか行ったことねえし。ほら、りんご飴やら焼きそばやら支給してもらってさ」
愛夏音「あんたにしてはいいこと思いつくじゃん!浴衣も支給品リストに入れよー!あたし、とびっきり可愛いの着るからさぁ、あんたもジンベエ?みたいな?着てよ!」
善途「お、俺も…?」
愛夏音「当たり前でしょ!その思い出とか写真とか、持って生きるのあたしなんだから」
善途「…それもそうか。じゃあお前が選んでくれ」
愛夏音「確かにあんたセンスないもんねー。何色系がいい?」
善途「ジンベエって紺以外あんのか」
愛夏音「知らない!まぁでも、なんかかっこいいやつがいいな。ほら、せっかく善途背ぇ高いんだし。…ほら、早く探そ!売り切れちゃったらやばいし、届かないとか笑えないから!」
善途「笑ってんじゃねえか」
愛夏音「何色の浴衣が似合いそう?」
善途「…水色……とか」
愛夏音「答えてくれると思ってなかった」
善途「考えさせといてイジってくんじゃねえよ。」
愛夏音「善途って意外と、というか…普通に優しいよね」
善途「別に、普通だろ」
暗転・明転
善途「…オイ、まだか」
愛夏音「浴衣の着方が曖昧で……というか、善途もう着たの?早くない!?」
善途「男のなんか縛るだけだからな…」
愛夏音「女の子はさぁ、裾合わせて…丈決めて……あぁっ失敗した!んもぉぉ!!」
善途「喋らなくていいからさっさと着ろ……」
しばらくして愛夏音が出てくる
愛夏音「どう?お姉ちゃんかわいい?」
善途「はぁ…18年一緒に過ごしてきて『かわいい?』とかきついんだけど」
愛夏音「はーぁ、そーですか!せっかくの思い出作りなのにぃ」
善途「はいはい、かわいいかわいい」
愛夏音「なんかヤダそれ…うざがってんじゃねーよ!」
善途「痛っ…やんのかお前」
愛夏音「上等だよ!」
二人、しばらく堪えてから吹き出す
愛夏音「最後の前の日まで喧嘩かぁ…ま、兄弟の運命ってやつよねー」
善途「いんだよ。……ほら、花火するぞ」
愛夏音「線香花火は最後ね!」
善途「…これでいいか」
愛夏音「じゃああたし、これにしよっかな…あ、これなんか、メガネ…?がついてる………エッ、かけて見ると光が可愛くなるんだって!かけてみようよ!」
善途「メガネ…?」
二人、花火に火をつける。
愛夏音「うわ、すごい!すごいマジだよ!火花が全部ハート!!」
善途「うおっ……ちょ、こっち向けんなバカ!!」
愛夏音「やばい、綺麗だよ!写真撮ろ!」
写真を撮る
愛夏音「あぁ!善途半目なんだけど!」
善途「悪かったな。」
愛夏音「いいの?最後の写真だよ?」
善途「いいのって、お前が撮り直したきゃあ撮り直せばいいけどよ」
愛夏音「うーん…まぁ、いっか。善途は写真下手だし、これも思い出かー」
善途「そろそろ焼きそばも食おう」
愛夏音「そう、だねぇ…」
善途、焼きそばの片方を手に取る
愛夏音「!ねぇ、あたしそっちがいい!」
善途「あぁ?なんだよ、どっちでも変わんねえだろ…」
愛夏音「かーわーる!!そっちのが美味しそう!!」
善途「美味そうなら俺に寄越してくれても…」
愛夏音「やだ!あたしが一番美味しいもの食べて、美味しかったなぁって思いながら生きてくから」
善途「はいはい、そうかよ。…うまいな、コレ」
愛夏音「美味しいね。吊り橋効果的な?」
善途「はは、かもな。あとは、雰囲気もあるか。浴衣着て外出て、花火して…。」
愛夏音「あーぁ、去年とか一昨年とかもやっとけばよかったぁ!こんなに楽しいと思わないもん」
善途「こんなに急に『適正年齢』がくるとも思ってなかったしな。」
愛夏音「そういうこと言う……」
善途「ブラックジョーク。」
愛夏音「笑えないんですけど。」
善途「笑えよ」
愛夏音「……これが最後か…」
善途「お前はほら、祭りくらい彼氏やら何やらと一緒に行けばいいだろ。」
愛夏音「善途と行きたいんですけど」
善途「……そうかよ。」
善途、無言でりんご飴を食べ始める
愛夏音「あ!!何勝手に食べ始めてんの!!」
善途「あぁ?お前も食べりゃあいいだろ。これ、最近できた新しい店?の奴らしい…いろんな味あるぞ」
愛夏音「ねぇこのヨーグルト味ってやつ超美味しい!キャラメルとかあるよ、やばい太るぅ…」
善途「はは、明日ケーキもあんぞ。お前は控えとけよ。…俺は最後の晩餐だから、好きなだけ食うけどな」
愛夏音「ずるい!やっぱあたしも食べる!あとでダイエットすればいいでしょ。」
善途「できんのか?三日坊主のくせにダイエットなんか」
愛夏音「できるよ。頑張れば!」
しばらく無言
愛夏音「…線香花火しよ!どっちが長く保つか勝負ね!」
善途「上等だ、絶対勝つ。」
愛夏音「綺麗……あ、ねえ、線香花火のジンクスって知ってる?」
善途「ジンクス?」
愛夏音「うろ覚えだから間違ってるかもしれないけど、線香花火は寿命を意味してる、みたいな。」
善途「……へぇ……聞いたことねえ………」
愛夏音「だから最後まで燃え切ると縁起がいいんだよ。………あ、落ちちゃった。…あたしの負け……。」
善途「……」
愛夏音「…善途?」
善途「…」
愛夏音「あぁ、良かった、…ちゃんと効いてくれた。…やっぱり、善途のやつの方が長く保ったね。」
善途の線香花火を水につける
愛夏音「善途のは結果がわかる前に消しちゃいます!知りたくないから。…って、あたし、何でこんな一人で喋ってんだろ…やっぱり、怖いからかなぁ。」
愛夏音、周りを見渡す
愛夏音「職員さーん!聞こえてる?ちゃんとあたしのことかわいく飾りつけてね。いっぱいお花詰めて、あと…あと絶対、可愛い服じゃないと……許さない…から…、はは、やばい、涙やばい…怖いなあ、あぁ……本当に怖いじゃん、何これ。…ふ、っ死にたくない、死にたくないよ……どうしてあたしたち、…こんな…………。…………善途のこと、殺さないであげて……せめて、長生きさせてあげて…おねがい」
暗転・明転
善途「!やばい、俺…いつから寝てた…?」
善途、カレンダーを確認する
善途「………今日か…。姉貴は…?」
善途「姉貴?」
善途、机の上の手紙を手に取る
善途「…メッセージカード?にしては、長文だな……」
愛夏音「善途へ。ハッピーバースデー!19歳おめでとう。喧嘩も時々してきたけど、19年間善途のお姉ちゃんで本当に楽しかったです!このケーキ、実は私が焼きました!どう?美味しそう?あ、もしかしてもう食べた?食に目がないやつめ!なんちゃって。頑張ったしきっと美味しいと思う。……焼きそばに睡眠薬なんて入れてごめんね。もし食べたかったら、冷蔵庫に一人前分入ってるから持ってって!」
善途「…睡眠薬?何だこの………………まさか、待てよふざけんな、おい!!姉貴!!返事しろ、愛夏音!!」
善途が愛夏音を探し回る中、ナレーションが入っている。
ところどころで愛夏音の声が震えている。
愛夏音「職員さんに聞いたんだけど、…まぁ、やっぱり首輪は外してもらえないみたい。まぁでもほら、チョーカーだよって言い張ったら何とか生きていけると思うから。…ここからの出方なんだけどね、ドアが開くようになってるらしいんだ!あの見せかけの玄関のドアが開くとことか、本気で想像できないなー。どんな感じなんだろう…いやまぁ、普通ではあると思うんだけど。それで、最後に二つだけ。…あたしのことは、過去のものだって、忘れてください!きっと善途の人生の邪魔になると思うし、…あたしは善途に殺されたわけじゃないから。もう一つ、…あたしのことは探さず、まっすぐ出て行ってください。ほら、せっかく外に出れるんだからさ、解放一日目楽しんで!それじゃあこれで、本当に最後だね。ばいばい、善途。」
善途「愛夏音!!おい!!てめえ、どこだよ!!どこにいんだよ!!俺が死ぬって話だっただろうが!!俺はどうせ追い追い殺されるんだぞ!!外に出れたって何の意味も………」
善途「…屋外か?」
暗転・明転
昨日花火をした屋外スペース。愛夏音と花々が入った棺が置いてある。
善途「あ………愛夏音!!!」
善途「おいっ………返事しろよ、何でそんな馬鹿なことすんだよ、外に憧れてたのも生きたがってたのもお前の方だったじゃねえか!!おい!!!」
ナレーター「神崎善途による神崎愛夏音の死の認識が確認されました。ドアのロックを解除します。」
善途「うるせえ!!!姉貴は、愛夏音はこんな、あ、あかね……おい…」
ナレーター「神崎愛夏音からの伝言を再生します。」
愛夏音「善途!立て!メソメソすんな、あたしの分も外の世界楽しまないと許さないからね!!」
善途「……………………うるせえ………」
愛夏音「あ、今絶対あたしになんか言い返したでしょ!!バカ!バーカバーカ!!もうっ………いい彼女さんとか、友達とか見つけて、幸せになりなよ。できれば、ケーキは食べてって。……じゃあね」
善途「………愛夏音……。」
暗転・明転
善途、一人街を歩いている。
善途「…」
朱音「どーしよ、暇になっちゃったなぁ…」
朱音と善途、すれ違いかけて、善途が朱音の腕を掴む
善途「愛夏音!!」
朱音「えっ!?あ、こんにちわ!?」
善途「あ………すいません、人違いでした、本当すいません…」
朱音「え、間違ってない、ですよ?私、朱音です」
善途「…え……漢字は、どういう“アカネ”ですか」
朱音「朱色の朱に、音で朱音です。うーん、昔の知り合いだったりします?」
善途「…すいません、違いました。…すごく似ていて」
善途、涙を流し始める
朱音「人探し中ですか?知り合いにもう一人あかねちゃんがいるけど、私には似てないからなぁ…え、えっ!?な、大丈夫ですか!?」
善途「大丈夫です、ほんとに…」
朱音「何かあるなら話とか聞きましょうか…?あ、初対面なのにすみません、なんかちょっと私今キモいかも…」
善途「え…」
朱音「なんかほっとけないですよ、流石に。そんなボロ泣きされたら…、あっほら、あそこのカフェとか入ります?あっ逆ナンとかじゃないんですけど、えっとぉ…えっと、」
善途「……すいません、迷惑かけて……」
朱音「いえ、大丈夫ですよ!誰か探してるとかなら本当に手伝います!彼氏に振られて今からちょうど暇ですし!」
善途「探してるんじゃなくて、その……死んだんです、姉が。少し前に。」
朱音「し、死ん………それは、辛い、ですね……ごめんなさいなんか本当、辛い記憶を蒸し返しちゃうみたいな…」
善途「大丈夫です、辛いんじゃなくて、なんなんだろう……」
朱音「…い、一旦なんか、飲み物とか飲んで落ち着きましょ!あ、わ、私も落ち着きたいので!」
暗転・明転
善途「…すみません巻き込んで。落ち着きました」
朱音「イヤ本当にこっちこそすみません私もだいぶ錯乱してて、なんでカフェ連れてきたんだろう、急ぎの用事とかあったら本当にごめんなさい」
善途「大丈夫です、気にしないでもらって。……にしても、俺の話、信じてくれるんですか?隔離されて育てられてたとか、突飛な話ばっかりでしたけど…」
朱音「だって、あんな顔してた人が、そんな嘘吐くと思えなかったので…お姉さんの話をしてる時とか、本当に幸せそうで、あーいいなー兄弟羨ましーって感じです。一人っ子って意外と寂しくて。」
善途「……こんな変な偶然、あるんですね…なんか、正気に戻った気がします。今日はすみませんでした。」
朱音「いえいえ!あ、もしよかったら、ライン交換しません?」
善途「…ライン?」
朱音「あっ本当にもしよかったらで、本当に。」
善途「えっと……どうやるんでしたっけ」
朱音「えっとー、ここがこうで……よし!」
善途「おぉ…」
朱音「もしこれからなんか困ったらいつでもどうぞ!ほら、なんか奇跡?みたいな、なんちゃらも多少の縁って言いますし!」
善途「……」
朱音「あっもしかして私変ですか!?そうですよね初対面でこんな、あぁなんかすみません、困ってる人とかほっとけないタイプで……」
善途、小さく吹き出す
朱音「えっ、」
善途「…じゃあ、何かあったら頼らせてもらいます。色々初めてで自信ないので、…よろしくお願いします」
朱音「は、はい!どんと来い!」
善途「ははは…」
朱音「えぇ!?私なんかおかしいですか!?」
暗転
「親」は、「子」を愛さなければならない
「親」は、「子」が適正年齢に達したら殺害しなければならないが、適正年齢に達する前に殺すことは禁止とする
「親」は、「子」を殺害すれば解放される
「親」は、「子」を殺害するための任意の道具を自由に借りることができる
「親」は、「子」を殺害しなければ処分される
「子」は、「親」に殺害されなかった場合もいずれ処分されるが、いつ処分されるかは未定とする
「子」は、二週間に一度倫理・道徳・自己判断テストを受けなければならない。また、テストの解答に関する「親」からの指示が見受けられた場合、「親」を処罰する
「親」と「子」には、運動・その他活動のための十分なスペースは与えられているため、施設外への外出は禁止とする
「親」と「子」には、外そうとしたり命令を実行しなかったりした場合に高圧電流が流れる首輪がつけられている
「親」と「子」は常に監視されているが「親」及び「子」の言動や思想によって、罰則などが科されることはない
ナレーター「また、適正年齢とは、『特定の他者に依存しない自我・判断基準を持った年齢』とし、「親」と「子」には、施設外との通信機器を含む望んだもの全てが与えられている。但し全ての通信は監視されており特定の場合にのみ投稿などを制限するものとする。」
ナレーター「CASE:A、神崎愛夏音・神崎善途。血の繋がり:無し」
善途「姉貴、…いよいよ明後日、俺の誕生日…だな。」
愛夏音「もうそんな時期~?そろそろ衣替えしなきゃね。また支給品の申請を…」
善途「また話逸らす気かよ」
愛夏音「………………もうその話はやめよって言ったじゃん。…当日でいいよ、本当に」
善途「俺が死ぬからな。後追って来るんじゃねえぞ。今まで通り真っ当な生活して、ちゃんと生きて、彼氏やら家族やらも作れよ」
愛夏音「…後追いなんてしないし。ずっと前から善途が死ぬって決めてたでしょ。お望み通り、あたしは残りの人生楽しむから」
善途「…なぁ」
愛夏音「なに?」
善途「…その、最期に何か………思い出でも作りたいと…思って。」
愛夏音「…そっちからそんなこと言ってくるの、珍しいじゃん!何かしたいことでもあるの?」
善途「屋外エリアでさ…………、花火、しねえか」
愛夏音「花火?」
善途「もう直ぐ秋だし、…俺ら祭りとか行ったことねえし。ほら、りんご飴やら焼きそばやら支給してもらってさ」
愛夏音「あんたにしてはいいこと思いつくじゃん!浴衣も支給品リストに入れよー!あたし、とびっきり可愛いの着るからさぁ、あんたもジンベエ?みたいな?着てよ!」
善途「お、俺も…?」
愛夏音「当たり前でしょ!その思い出とか写真とか、持って生きるのあたしなんだから」
善途「…それもそうか。じゃあお前が選んでくれ」
愛夏音「確かにあんたセンスないもんねー。何色系がいい?」
善途「ジンベエって紺以外あんのか」
愛夏音「知らない!まぁでも、なんかかっこいいやつがいいな。ほら、せっかく善途背ぇ高いんだし。…ほら、早く探そ!売り切れちゃったらやばいし、届かないとか笑えないから!」
善途「笑ってんじゃねえか」
愛夏音「何色の浴衣が似合いそう?」
善途「…水色……とか」
愛夏音「答えてくれると思ってなかった」
善途「考えさせといてイジってくんじゃねえよ。」
愛夏音「善途って意外と、というか…普通に優しいよね」
善途「別に、普通だろ」
暗転・明転
善途「…オイ、まだか」
愛夏音「浴衣の着方が曖昧で……というか、善途もう着たの?早くない!?」
善途「男のなんか縛るだけだからな…」
愛夏音「女の子はさぁ、裾合わせて…丈決めて……あぁっ失敗した!んもぉぉ!!」
善途「喋らなくていいからさっさと着ろ……」
しばらくして愛夏音が出てくる
愛夏音「どう?お姉ちゃんかわいい?」
善途「はぁ…18年一緒に過ごしてきて『かわいい?』とかきついんだけど」
愛夏音「はーぁ、そーですか!せっかくの思い出作りなのにぃ」
善途「はいはい、かわいいかわいい」
愛夏音「なんかヤダそれ…うざがってんじゃねーよ!」
善途「痛っ…やんのかお前」
愛夏音「上等だよ!」
二人、しばらく堪えてから吹き出す
愛夏音「最後の前の日まで喧嘩かぁ…ま、兄弟の運命ってやつよねー」
善途「いんだよ。……ほら、花火するぞ」
愛夏音「線香花火は最後ね!」
善途「…これでいいか」
愛夏音「じゃああたし、これにしよっかな…あ、これなんか、メガネ…?がついてる………エッ、かけて見ると光が可愛くなるんだって!かけてみようよ!」
善途「メガネ…?」
二人、花火に火をつける。
愛夏音「うわ、すごい!すごいマジだよ!火花が全部ハート!!」
善途「うおっ……ちょ、こっち向けんなバカ!!」
愛夏音「やばい、綺麗だよ!写真撮ろ!」
写真を撮る
愛夏音「あぁ!善途半目なんだけど!」
善途「悪かったな。」
愛夏音「いいの?最後の写真だよ?」
善途「いいのって、お前が撮り直したきゃあ撮り直せばいいけどよ」
愛夏音「うーん…まぁ、いっか。善途は写真下手だし、これも思い出かー」
善途「そろそろ焼きそばも食おう」
愛夏音「そう、だねぇ…」
善途、焼きそばの片方を手に取る
愛夏音「!ねぇ、あたしそっちがいい!」
善途「あぁ?なんだよ、どっちでも変わんねえだろ…」
愛夏音「かーわーる!!そっちのが美味しそう!!」
善途「美味そうなら俺に寄越してくれても…」
愛夏音「やだ!あたしが一番美味しいもの食べて、美味しかったなぁって思いながら生きてくから」
善途「はいはい、そうかよ。…うまいな、コレ」
愛夏音「美味しいね。吊り橋効果的な?」
善途「はは、かもな。あとは、雰囲気もあるか。浴衣着て外出て、花火して…。」
愛夏音「あーぁ、去年とか一昨年とかもやっとけばよかったぁ!こんなに楽しいと思わないもん」
善途「こんなに急に『適正年齢』がくるとも思ってなかったしな。」
愛夏音「そういうこと言う……」
善途「ブラックジョーク。」
愛夏音「笑えないんですけど。」
善途「笑えよ」
愛夏音「……これが最後か…」
善途「お前はほら、祭りくらい彼氏やら何やらと一緒に行けばいいだろ。」
愛夏音「善途と行きたいんですけど」
善途「……そうかよ。」
善途、無言でりんご飴を食べ始める
愛夏音「あ!!何勝手に食べ始めてんの!!」
善途「あぁ?お前も食べりゃあいいだろ。これ、最近できた新しい店?の奴らしい…いろんな味あるぞ」
愛夏音「ねぇこのヨーグルト味ってやつ超美味しい!キャラメルとかあるよ、やばい太るぅ…」
善途「はは、明日ケーキもあんぞ。お前は控えとけよ。…俺は最後の晩餐だから、好きなだけ食うけどな」
愛夏音「ずるい!やっぱあたしも食べる!あとでダイエットすればいいでしょ。」
善途「できんのか?三日坊主のくせにダイエットなんか」
愛夏音「できるよ。頑張れば!」
しばらく無言
愛夏音「…線香花火しよ!どっちが長く保つか勝負ね!」
善途「上等だ、絶対勝つ。」
愛夏音「綺麗……あ、ねえ、線香花火のジンクスって知ってる?」
善途「ジンクス?」
愛夏音「うろ覚えだから間違ってるかもしれないけど、線香花火は寿命を意味してる、みたいな。」
善途「……へぇ……聞いたことねえ………」
愛夏音「だから最後まで燃え切ると縁起がいいんだよ。………あ、落ちちゃった。…あたしの負け……。」
善途「……」
愛夏音「…善途?」
善途「…」
愛夏音「あぁ、良かった、…ちゃんと効いてくれた。…やっぱり、善途のやつの方が長く保ったね。」
善途の線香花火を水につける
愛夏音「善途のは結果がわかる前に消しちゃいます!知りたくないから。…って、あたし、何でこんな一人で喋ってんだろ…やっぱり、怖いからかなぁ。」
愛夏音、周りを見渡す
愛夏音「職員さーん!聞こえてる?ちゃんとあたしのことかわいく飾りつけてね。いっぱいお花詰めて、あと…あと絶対、可愛い服じゃないと……許さない…から…、はは、やばい、涙やばい…怖いなあ、あぁ……本当に怖いじゃん、何これ。…ふ、っ死にたくない、死にたくないよ……どうしてあたしたち、…こんな…………。…………善途のこと、殺さないであげて……せめて、長生きさせてあげて…おねがい」
暗転・明転
善途「!やばい、俺…いつから寝てた…?」
善途、カレンダーを確認する
善途「………今日か…。姉貴は…?」
善途「姉貴?」
善途、机の上の手紙を手に取る
善途「…メッセージカード?にしては、長文だな……」
愛夏音「善途へ。ハッピーバースデー!19歳おめでとう。喧嘩も時々してきたけど、19年間善途のお姉ちゃんで本当に楽しかったです!このケーキ、実は私が焼きました!どう?美味しそう?あ、もしかしてもう食べた?食に目がないやつめ!なんちゃって。頑張ったしきっと美味しいと思う。……焼きそばに睡眠薬なんて入れてごめんね。もし食べたかったら、冷蔵庫に一人前分入ってるから持ってって!」
善途「…睡眠薬?何だこの………………まさか、待てよふざけんな、おい!!姉貴!!返事しろ、愛夏音!!」
善途が愛夏音を探し回る中、ナレーションが入っている。
ところどころで愛夏音の声が震えている。
愛夏音「職員さんに聞いたんだけど、…まぁ、やっぱり首輪は外してもらえないみたい。まぁでもほら、チョーカーだよって言い張ったら何とか生きていけると思うから。…ここからの出方なんだけどね、ドアが開くようになってるらしいんだ!あの見せかけの玄関のドアが開くとことか、本気で想像できないなー。どんな感じなんだろう…いやまぁ、普通ではあると思うんだけど。それで、最後に二つだけ。…あたしのことは、過去のものだって、忘れてください!きっと善途の人生の邪魔になると思うし、…あたしは善途に殺されたわけじゃないから。もう一つ、…あたしのことは探さず、まっすぐ出て行ってください。ほら、せっかく外に出れるんだからさ、解放一日目楽しんで!それじゃあこれで、本当に最後だね。ばいばい、善途。」
善途「愛夏音!!おい!!てめえ、どこだよ!!どこにいんだよ!!俺が死ぬって話だっただろうが!!俺はどうせ追い追い殺されるんだぞ!!外に出れたって何の意味も………」
善途「…屋外か?」
暗転・明転
昨日花火をした屋外スペース。愛夏音と花々が入った棺が置いてある。
善途「あ………愛夏音!!!」
善途「おいっ………返事しろよ、何でそんな馬鹿なことすんだよ、外に憧れてたのも生きたがってたのもお前の方だったじゃねえか!!おい!!!」
ナレーター「神崎善途による神崎愛夏音の死の認識が確認されました。ドアのロックを解除します。」
善途「うるせえ!!!姉貴は、愛夏音はこんな、あ、あかね……おい…」
ナレーター「神崎愛夏音からの伝言を再生します。」
愛夏音「善途!立て!メソメソすんな、あたしの分も外の世界楽しまないと許さないからね!!」
善途「……………………うるせえ………」
愛夏音「あ、今絶対あたしになんか言い返したでしょ!!バカ!バーカバーカ!!もうっ………いい彼女さんとか、友達とか見つけて、幸せになりなよ。できれば、ケーキは食べてって。……じゃあね」
善途「………愛夏音……。」
暗転・明転
善途、一人街を歩いている。
善途「…」
朱音「どーしよ、暇になっちゃったなぁ…」
朱音と善途、すれ違いかけて、善途が朱音の腕を掴む
善途「愛夏音!!」
朱音「えっ!?あ、こんにちわ!?」
善途「あ………すいません、人違いでした、本当すいません…」
朱音「え、間違ってない、ですよ?私、朱音です」
善途「…え……漢字は、どういう“アカネ”ですか」
朱音「朱色の朱に、音で朱音です。うーん、昔の知り合いだったりします?」
善途「…すいません、違いました。…すごく似ていて」
善途、涙を流し始める
朱音「人探し中ですか?知り合いにもう一人あかねちゃんがいるけど、私には似てないからなぁ…え、えっ!?な、大丈夫ですか!?」
善途「大丈夫です、ほんとに…」
朱音「何かあるなら話とか聞きましょうか…?あ、初対面なのにすみません、なんかちょっと私今キモいかも…」
善途「え…」
朱音「なんかほっとけないですよ、流石に。そんなボロ泣きされたら…、あっほら、あそこのカフェとか入ります?あっ逆ナンとかじゃないんですけど、えっとぉ…えっと、」
善途「……すいません、迷惑かけて……」
朱音「いえ、大丈夫ですよ!誰か探してるとかなら本当に手伝います!彼氏に振られて今からちょうど暇ですし!」
善途「探してるんじゃなくて、その……死んだんです、姉が。少し前に。」
朱音「し、死ん………それは、辛い、ですね……ごめんなさいなんか本当、辛い記憶を蒸し返しちゃうみたいな…」
善途「大丈夫です、辛いんじゃなくて、なんなんだろう……」
朱音「…い、一旦なんか、飲み物とか飲んで落ち着きましょ!あ、わ、私も落ち着きたいので!」
暗転・明転
善途「…すみません巻き込んで。落ち着きました」
朱音「イヤ本当にこっちこそすみません私もだいぶ錯乱してて、なんでカフェ連れてきたんだろう、急ぎの用事とかあったら本当にごめんなさい」
善途「大丈夫です、気にしないでもらって。……にしても、俺の話、信じてくれるんですか?隔離されて育てられてたとか、突飛な話ばっかりでしたけど…」
朱音「だって、あんな顔してた人が、そんな嘘吐くと思えなかったので…お姉さんの話をしてる時とか、本当に幸せそうで、あーいいなー兄弟羨ましーって感じです。一人っ子って意外と寂しくて。」
善途「……こんな変な偶然、あるんですね…なんか、正気に戻った気がします。今日はすみませんでした。」
朱音「いえいえ!あ、もしよかったら、ライン交換しません?」
善途「…ライン?」
朱音「あっ本当にもしよかったらで、本当に。」
善途「えっと……どうやるんでしたっけ」
朱音「えっとー、ここがこうで……よし!」
善途「おぉ…」
朱音「もしこれからなんか困ったらいつでもどうぞ!ほら、なんか奇跡?みたいな、なんちゃらも多少の縁って言いますし!」
善途「……」
朱音「あっもしかして私変ですか!?そうですよね初対面でこんな、あぁなんかすみません、困ってる人とかほっとけないタイプで……」
善途、小さく吹き出す
朱音「えっ、」
善途「…じゃあ、何かあったら頼らせてもらいます。色々初めてで自信ないので、…よろしくお願いします」
朱音「は、はい!どんと来い!」
善途「ははは…」
朱音「えぇ!?私なんかおかしいですか!?」
暗転
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