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15 グレアム様!あんたは男だ!(二重の意味で)
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「何をしている!」
危機一髪の所で、いつも爽やかで温和で、ちょっと情けないグレアム様の怒号が響いた。
バケツを個室に向かって投げ捨てたアリアナ嬢の水からは、私を囲むような白い光の膜が守ってくれている。
「うっ……!」
「少しの間お休みなさいませ」
アリアナ嬢はグレアム様に何かの薬を使ってバタバタと御手洗いから出て行ったようだ。うめき声がしてから、人の倒れる音がして、以降グレアム様の声がない。
グレアム様が駆け付けてくれてすごくホッとしたけど、毒液から守ってくれたのはお祖父様のペンダントだし、鍵も開けられないままだ。どうやら私に声をかける前に接着剤か何かをつかったようだった。
グレアム様の意識が授業中に目覚めないと、これはかなり誤解を招くシチュエーションな気がする。
駆け付けてくれた所は『あんたは男だ! カッコいいぞ!』と思ったが、今となっては『あんたは男だ……ここにいちゃまずいんだよ……』という気持ちで頭が混乱している。
お祖母様はこのペンダントには、お祖父様の膨大な魔力が全て込められていると言っていた。
魔法なら……ミュカ様に……ミュカ様だけに何とか声をおくれないだろうか。私をやり直させて尚まだ守ってくれている魔力の残骸。ぎゅっとペンダントを握って祈るように念を込める。
お願い、お祖父様。すべて終わったらお墓に美味しいお菓子をお供えにいきます。
(ミュカ様、ミュカ様お願い、返事をして……!)
(ニア様?! ど、どうやって……いや、それよりどうした?!)
やった、通じた! お祖父様ありがとう!
(女子トイレに閉じ込められました。助けに来てくれたグレアム様が何かの薬で女子トイレで倒れています。色んな意味で今のうちに助けてください……!)
(わかった! 少し待っていてくれ!)
ふぅ、これでグレアム様の風評被害は防げる。
私を守っている白い光に触れた毒液はどんどん消えていく。証拠として残したい気もするが、触れたら肌が爛れる毒液……しかもお手洗いの床を水浸しにしている……なんて触りたくない。
個室の中をうろうろして全部を消してしまう。うまくいけばバケツの中に少し残っているはずだ。
「うおっ、ミスト殿! ……うん、寝ているだけだ。ニア様、少し待っていてくれ」
「ミュカ様?! よかった、はい、私は一応安全なのでとにかくグレアム様を先に!」
声の間から、グレアム様の安全は確かめられたようだ。よかった。私を守るのに死なれるのも変な風評被害を受けられるのも嫌だもの。
……あら? 私、グレアム様には塩対応と決めていたのに。変な感じだ。
「ちょっと離れてくれ。……『ブラスト』」
ボンっ、と音がして鍵のところが壊れました。よし、授業中に全てのミッションが完了できそう。
「ミュカ様、何か瓶など持っていたり」
「あるぞ。ちょっと待ってくれ」
持ってるんだ、と思った目の前でミュカ様が飲んだのは魔力回復薬。なるほど、それなら瓶だし薬を入れるのにも最適だ。
その瓶を借りて水道水ですすぎ、私も手を綺麗に洗ってハンカチで拭くと、バケツの中の水が少し残っていたので瓶の中に入れて蓋をする。バケツも洗剤を垂らしてよく洗って元の場所に戻しておいた。……大丈夫だよね? これで。
「大丈夫だ、このバケツに毒液は残ってない。その瓶の中は……随分禍々しい赤だな」
「人の皮膚を爛れさせる薬らしいです」
「……ヴィンセント家の彼女かい? いよいよ手段を選ばなくなってきたね」
「グレアム様は……?」
「近くの廊下のソファに寝かせてある。保健室に行けば薬が使われた痕跡が出るはずだ、一瞬で人を眠らせるなんて強い薬だからね」
ほっとした。とりあえず一山乗り切ったが、トイレに行くたびにこんな事をされては困る。
私はどうしようか考えていた。安全に生活するには、アリアナ嬢は邪魔者の排除を優先してきている。
いっそ家で家庭教師にしばらく勉強を見てもらおうかと思うけど、……私がそこまで譲ってあげる必要、あるかな?
「ニア様。君の安全のためにも、今日は聖堂でもう一度話し合おう」
「ミュカ様……」
「彼女のやる気は本物だ。……早く何とかするためにも」
「はい、分かりました。では放課後、聖堂で」
授業を抜けてきてくれたミュカ様に人集めを頼むと、ソファで眠るグレアム様の隣に私は座る。
苦しげな顔で寝てるこの人は、教室を飛び出して駆け付けてくれた。
目が覚めたら保健室に連れて行こう。……眉間の皺をちょっと伸ばしてあげると、ふにゃりと笑う。
そうそう。グレアム様はこのくらいでいいの。……ありがとう、グレアム様。
危機一髪の所で、いつも爽やかで温和で、ちょっと情けないグレアム様の怒号が響いた。
バケツを個室に向かって投げ捨てたアリアナ嬢の水からは、私を囲むような白い光の膜が守ってくれている。
「うっ……!」
「少しの間お休みなさいませ」
アリアナ嬢はグレアム様に何かの薬を使ってバタバタと御手洗いから出て行ったようだ。うめき声がしてから、人の倒れる音がして、以降グレアム様の声がない。
グレアム様が駆け付けてくれてすごくホッとしたけど、毒液から守ってくれたのはお祖父様のペンダントだし、鍵も開けられないままだ。どうやら私に声をかける前に接着剤か何かをつかったようだった。
グレアム様の意識が授業中に目覚めないと、これはかなり誤解を招くシチュエーションな気がする。
駆け付けてくれた所は『あんたは男だ! カッコいいぞ!』と思ったが、今となっては『あんたは男だ……ここにいちゃまずいんだよ……』という気持ちで頭が混乱している。
お祖母様はこのペンダントには、お祖父様の膨大な魔力が全て込められていると言っていた。
魔法なら……ミュカ様に……ミュカ様だけに何とか声をおくれないだろうか。私をやり直させて尚まだ守ってくれている魔力の残骸。ぎゅっとペンダントを握って祈るように念を込める。
お願い、お祖父様。すべて終わったらお墓に美味しいお菓子をお供えにいきます。
(ミュカ様、ミュカ様お願い、返事をして……!)
(ニア様?! ど、どうやって……いや、それよりどうした?!)
やった、通じた! お祖父様ありがとう!
(女子トイレに閉じ込められました。助けに来てくれたグレアム様が何かの薬で女子トイレで倒れています。色んな意味で今のうちに助けてください……!)
(わかった! 少し待っていてくれ!)
ふぅ、これでグレアム様の風評被害は防げる。
私を守っている白い光に触れた毒液はどんどん消えていく。証拠として残したい気もするが、触れたら肌が爛れる毒液……しかもお手洗いの床を水浸しにしている……なんて触りたくない。
個室の中をうろうろして全部を消してしまう。うまくいけばバケツの中に少し残っているはずだ。
「うおっ、ミスト殿! ……うん、寝ているだけだ。ニア様、少し待っていてくれ」
「ミュカ様?! よかった、はい、私は一応安全なのでとにかくグレアム様を先に!」
声の間から、グレアム様の安全は確かめられたようだ。よかった。私を守るのに死なれるのも変な風評被害を受けられるのも嫌だもの。
……あら? 私、グレアム様には塩対応と決めていたのに。変な感じだ。
「ちょっと離れてくれ。……『ブラスト』」
ボンっ、と音がして鍵のところが壊れました。よし、授業中に全てのミッションが完了できそう。
「ミュカ様、何か瓶など持っていたり」
「あるぞ。ちょっと待ってくれ」
持ってるんだ、と思った目の前でミュカ様が飲んだのは魔力回復薬。なるほど、それなら瓶だし薬を入れるのにも最適だ。
その瓶を借りて水道水ですすぎ、私も手を綺麗に洗ってハンカチで拭くと、バケツの中の水が少し残っていたので瓶の中に入れて蓋をする。バケツも洗剤を垂らしてよく洗って元の場所に戻しておいた。……大丈夫だよね? これで。
「大丈夫だ、このバケツに毒液は残ってない。その瓶の中は……随分禍々しい赤だな」
「人の皮膚を爛れさせる薬らしいです」
「……ヴィンセント家の彼女かい? いよいよ手段を選ばなくなってきたね」
「グレアム様は……?」
「近くの廊下のソファに寝かせてある。保健室に行けば薬が使われた痕跡が出るはずだ、一瞬で人を眠らせるなんて強い薬だからね」
ほっとした。とりあえず一山乗り切ったが、トイレに行くたびにこんな事をされては困る。
私はどうしようか考えていた。安全に生活するには、アリアナ嬢は邪魔者の排除を優先してきている。
いっそ家で家庭教師にしばらく勉強を見てもらおうかと思うけど、……私がそこまで譲ってあげる必要、あるかな?
「ニア様。君の安全のためにも、今日は聖堂でもう一度話し合おう」
「ミュカ様……」
「彼女のやる気は本物だ。……早く何とかするためにも」
「はい、分かりました。では放課後、聖堂で」
授業を抜けてきてくれたミュカ様に人集めを頼むと、ソファで眠るグレアム様の隣に私は座る。
苦しげな顔で寝てるこの人は、教室を飛び出して駆け付けてくれた。
目が覚めたら保健室に連れて行こう。……眉間の皺をちょっと伸ばしてあげると、ふにゃりと笑う。
そうそう。グレアム様はこのくらいでいいの。……ありがとう、グレアム様。
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