6 / 14
6 『ゴールデン・ウィザード』
しおりを挟む
目が覚めたノア・ドラゴニアは、懐かしい記憶に暫くぼんやりと、あの日目覚めたのと同じ天蓋を眺めていた。
国王であるレイブン……レイと出会って5年が経ち、ノアは21歳になり、レイは85歳の筈だが変わらない見た目をしている。
ノアもその気になれば体の老化を止められる。王族は常に微量の魔力を龍穴に流し込み、その力に呼びかけて肉体と精神のエネルギーを保っている。地脈と繋がったノアにも同じ事はできるが、25歳位までは育ちたいと思って止めていた。
使用人の手を借りずに、街の冒険者のような格好に着替えてから朝食を摂る。慣れた物で、背中には弓と腰に矢筒、反対側の腰に片手剣を引っ提げ、革鎧に鉄板仕込みのブーツという軽装だ。
パッと見は魔法が使えないような、ごく普通の冒険者に見える格好で、今日も適当な街で冒険者として誰かと旅をする。いつもそうで、適当な野良の傭兵としてパーティに加えてもらう。
報酬は特に求めず、怪しまれるようなら1割だけ貰う。生活にも金にも困っていないノアは、そんな生活を3年続けてちょっとした小金持ちになっていた。
その金は時折街で食事をするのに使うくらいで、装備も普段の寝起きも王宮が用意してくれている。
【アイテムインベントリ】という魔法が使えるので、手荷物も少なく、出掛け時だなと窓の外、晴れた空を見て思ったノアはレイの執務室の方を『視た』。
今はレイが一人でサインをしている。毎日よくこんなに勘案があがってくるものだと思いながら、ノアはそこに『移動』する。
床が捲れ上がって花弁が萎むようにノアを包み、レイの元へ送ってくれる。執務室の床から蕾が生えると、また床はただの床に戻り、レイは慣れた物でサインし終えてからノアの方を見た。
「おはよう、ノア。今日はどこか決めてる?」
「おはようございます、レイ。いや、まだどこに行くかは決めてなくて」
「それなら、ゴーシュの街に行ってくれないかな? 近くでダンジョンブレイクが起きそうなんだ。魔物の数が増えていて、レベルが高くてそこらの冒険者では潜れなくてね。一時的に封鎖、今日には合同パーティが組まれる筈らしい」
その許可証の写しをひらひらと見せてきたレイに近づく。
あれから背もまた伸びて、少し幼さのあった顔が引き締まったノアは、誰が見ても美形だというような、少し憂いを帯びた青年になっていた。
『泥の血』である事を今も少しだけ気にしているが、その『泥の血』の自分を拾い、育て、教えてくれたのはレイだ。大切に扱い、信頼を置いてくれている。
ノアはレイにのみ忠誠を誓っている。レイにのみ従い、他の貴族に尻尾は振らない。レイは、もう少し社交的でもいいのに、と苦笑いをするが、別に邪険にしているわけではないからいいだろう、とノアは思っている。
「ゴーシュですね。いってきます、レイ」
「お願いね、ノア」
こうしてノアはまた床に呑まれていった。地脈の通り道は多い。まるで人体のように張り巡らされた血管、さながら龍穴は臓器とでも言おうか。
ノアはその地脈と繋がっている、この世界で唯一の人間。それを悟らせてもいけないし、レイ以外に言ってもいけない。
しかし、ノアは神出鬼没の冒険者として既に有名になっていた。
そのあだ名は。
「『ゴールデン・ウィザード』ねぇ……、ノアの方が呼びやすいと思うんだけどな」
彼は今日も活躍するのだろうと思いながら、そのみやげ話を楽しみに、レイはまた書類に視線を落とした。
国王であるレイブン……レイと出会って5年が経ち、ノアは21歳になり、レイは85歳の筈だが変わらない見た目をしている。
ノアもその気になれば体の老化を止められる。王族は常に微量の魔力を龍穴に流し込み、その力に呼びかけて肉体と精神のエネルギーを保っている。地脈と繋がったノアにも同じ事はできるが、25歳位までは育ちたいと思って止めていた。
使用人の手を借りずに、街の冒険者のような格好に着替えてから朝食を摂る。慣れた物で、背中には弓と腰に矢筒、反対側の腰に片手剣を引っ提げ、革鎧に鉄板仕込みのブーツという軽装だ。
パッと見は魔法が使えないような、ごく普通の冒険者に見える格好で、今日も適当な街で冒険者として誰かと旅をする。いつもそうで、適当な野良の傭兵としてパーティに加えてもらう。
報酬は特に求めず、怪しまれるようなら1割だけ貰う。生活にも金にも困っていないノアは、そんな生活を3年続けてちょっとした小金持ちになっていた。
その金は時折街で食事をするのに使うくらいで、装備も普段の寝起きも王宮が用意してくれている。
【アイテムインベントリ】という魔法が使えるので、手荷物も少なく、出掛け時だなと窓の外、晴れた空を見て思ったノアはレイの執務室の方を『視た』。
今はレイが一人でサインをしている。毎日よくこんなに勘案があがってくるものだと思いながら、ノアはそこに『移動』する。
床が捲れ上がって花弁が萎むようにノアを包み、レイの元へ送ってくれる。執務室の床から蕾が生えると、また床はただの床に戻り、レイは慣れた物でサインし終えてからノアの方を見た。
「おはよう、ノア。今日はどこか決めてる?」
「おはようございます、レイ。いや、まだどこに行くかは決めてなくて」
「それなら、ゴーシュの街に行ってくれないかな? 近くでダンジョンブレイクが起きそうなんだ。魔物の数が増えていて、レベルが高くてそこらの冒険者では潜れなくてね。一時的に封鎖、今日には合同パーティが組まれる筈らしい」
その許可証の写しをひらひらと見せてきたレイに近づく。
あれから背もまた伸びて、少し幼さのあった顔が引き締まったノアは、誰が見ても美形だというような、少し憂いを帯びた青年になっていた。
『泥の血』である事を今も少しだけ気にしているが、その『泥の血』の自分を拾い、育て、教えてくれたのはレイだ。大切に扱い、信頼を置いてくれている。
ノアはレイにのみ忠誠を誓っている。レイにのみ従い、他の貴族に尻尾は振らない。レイは、もう少し社交的でもいいのに、と苦笑いをするが、別に邪険にしているわけではないからいいだろう、とノアは思っている。
「ゴーシュですね。いってきます、レイ」
「お願いね、ノア」
こうしてノアはまた床に呑まれていった。地脈の通り道は多い。まるで人体のように張り巡らされた血管、さながら龍穴は臓器とでも言おうか。
ノアはその地脈と繋がっている、この世界で唯一の人間。それを悟らせてもいけないし、レイ以外に言ってもいけない。
しかし、ノアは神出鬼没の冒険者として既に有名になっていた。
そのあだ名は。
「『ゴールデン・ウィザード』ねぇ……、ノアの方が呼びやすいと思うんだけどな」
彼は今日も活躍するのだろうと思いながら、そのみやげ話を楽しみに、レイはまた書類に視線を落とした。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる