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8 笑って欲しい伯爵令嬢
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デート当日、私は懐中時計を気にしながらエントランスの前で待っていた。
時間より少し早く、飴色の木で出来た可愛らしい馬車でヴァンツァーが迎えにきた。もっと黒塗りの仰々しい物が出てくると思っていたけれど、私と出かけるから、と街で借りたらしい。
中も可愛い柔らかい布張りにクッションがあり、私たちは向かい合って座ると、ヴァンツァーの領地に向かった。あちらの街の方が近いし栄えている。
彼は相変わらず表情は無かったが、危惧していたような変な服装では無かった。
私は薄水色に白ストライプのワンピース、白い太めのリボンを巻いて、白のつばの広い帽子をかぶっていた。靴は紺色で抑えめにしてある。
彼は使用人との体格差で諦めたのか、生成りのシャツに紺のスカーフを緩く巻いて、細身のズボンに革靴、そして白手袋に、普段よりも取り回しがいい片手剣を帯剣していた。かっこよくて、姿勢もいいので、まるでお忍びになってない。
「可愛いな」
私が彼を観察していたら、彼も私を観察していたらしい。唐突にそう言われて、私は顔が真っ赤になるのが分かった。
子供の頃に比べて減った口数が、お世辞ではないと私に雄弁に語ってくる。
夏なのに昨日から長袖ばかりなのは、やはり傷跡なんかがあるのかな、と思うが、聞くに聞けない。
照れてしまった私と、そんな私を見ているヴァンツァーとで、その後は殆ど口を聞く間もなく街に到着した。
「どこに行きたい?」
「えぇとね、あ、ケーキが食べたい!」
「……夜にも食べるのに?」
それは言外に「太るぞ」と言っているのと同じで、私は頬を膨らませて肩を叩いた。
子供の時に戻ったような気になってしまう。ヴァンツァーの前では、私は素直になる。引きこもりの私はいない。
彼が変わっても、内面は何も変わらない。この空気が心地よかった。
「では、腕をどうぞ、お嬢様」
真顔でふざけて右手を差し出してくる。全くふざけているように見えないから困った。今日の私はのぼせやすいようだ。
顔の整った立派な体躯の騎士に、エスコートされて街中を歩く。就任してきたばかりの領主の顔は皆知らないらしく、道行く人が(特に女性が)立ち止まって振り返っているのを感じる。
「ヴァンツァー」
「なんだ?」
「かっこよくなったね。前からかっこよかったけど」
改めて私が言うと、反対側の手で口許を抑える。……もしかして、ちょっとニヤけていたりするんだろうか? その表情は読めない。
「着いたぞ。……とりあえず、この街一番の人気店、らしい」
「え?」
「あ、いや……入ろう」
私がケーキを食べたいと言うと分かってて、下調べしてくれていた?
どうしよう。私ばかり笑顔になっている。
「うん!」
明るく答えて中に入り、テラス席に座る。小さな庭に面したテラス席は人の目も無くて落ち着けた。
店の一押しのケーキを頼み、ヴァンツァーと先に出てきた紅茶を飲む。どうしたら笑ってくれるかを、私はずっと考えていた。
でも、笑わなくなった理由が分からない。それを聞かなきゃ、きっと解決法も分からない。
「ねぇ、ヴァンツァー」
「うん?」
「貴方が笑わなくなった理由、聞いたらダメかしら。誕生日プレゼントは、その話がいいの」
私の言葉に、ヴァンツァーは目の前の庭に視線を外して考え込んだ。
時間より少し早く、飴色の木で出来た可愛らしい馬車でヴァンツァーが迎えにきた。もっと黒塗りの仰々しい物が出てくると思っていたけれど、私と出かけるから、と街で借りたらしい。
中も可愛い柔らかい布張りにクッションがあり、私たちは向かい合って座ると、ヴァンツァーの領地に向かった。あちらの街の方が近いし栄えている。
彼は相変わらず表情は無かったが、危惧していたような変な服装では無かった。
私は薄水色に白ストライプのワンピース、白い太めのリボンを巻いて、白のつばの広い帽子をかぶっていた。靴は紺色で抑えめにしてある。
彼は使用人との体格差で諦めたのか、生成りのシャツに紺のスカーフを緩く巻いて、細身のズボンに革靴、そして白手袋に、普段よりも取り回しがいい片手剣を帯剣していた。かっこよくて、姿勢もいいので、まるでお忍びになってない。
「可愛いな」
私が彼を観察していたら、彼も私を観察していたらしい。唐突にそう言われて、私は顔が真っ赤になるのが分かった。
子供の頃に比べて減った口数が、お世辞ではないと私に雄弁に語ってくる。
夏なのに昨日から長袖ばかりなのは、やはり傷跡なんかがあるのかな、と思うが、聞くに聞けない。
照れてしまった私と、そんな私を見ているヴァンツァーとで、その後は殆ど口を聞く間もなく街に到着した。
「どこに行きたい?」
「えぇとね、あ、ケーキが食べたい!」
「……夜にも食べるのに?」
それは言外に「太るぞ」と言っているのと同じで、私は頬を膨らませて肩を叩いた。
子供の時に戻ったような気になってしまう。ヴァンツァーの前では、私は素直になる。引きこもりの私はいない。
彼が変わっても、内面は何も変わらない。この空気が心地よかった。
「では、腕をどうぞ、お嬢様」
真顔でふざけて右手を差し出してくる。全くふざけているように見えないから困った。今日の私はのぼせやすいようだ。
顔の整った立派な体躯の騎士に、エスコートされて街中を歩く。就任してきたばかりの領主の顔は皆知らないらしく、道行く人が(特に女性が)立ち止まって振り返っているのを感じる。
「ヴァンツァー」
「なんだ?」
「かっこよくなったね。前からかっこよかったけど」
改めて私が言うと、反対側の手で口許を抑える。……もしかして、ちょっとニヤけていたりするんだろうか? その表情は読めない。
「着いたぞ。……とりあえず、この街一番の人気店、らしい」
「え?」
「あ、いや……入ろう」
私がケーキを食べたいと言うと分かってて、下調べしてくれていた?
どうしよう。私ばかり笑顔になっている。
「うん!」
明るく答えて中に入り、テラス席に座る。小さな庭に面したテラス席は人の目も無くて落ち着けた。
店の一押しのケーキを頼み、ヴァンツァーと先に出てきた紅茶を飲む。どうしたら笑ってくれるかを、私はずっと考えていた。
でも、笑わなくなった理由が分からない。それを聞かなきゃ、きっと解決法も分からない。
「ねぇ、ヴァンツァー」
「うん?」
「貴方が笑わなくなった理由、聞いたらダメかしら。誕生日プレゼントは、その話がいいの」
私の言葉に、ヴァンツァーは目の前の庭に視線を外して考え込んだ。
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