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5 子爵邸大改装
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王都の屋敷に着いて10日。この間、目が回るような忙しさだった。
私は公爵邸に着て行くのに恥ずかしくないドレスと、部屋着用のドレスや寝巻きなどを持ってきたが、それでも最低限。王都の子爵邸はクロウウェル様のお邸とはかなりの距離がある上に、邸の大きさも全く違うので、私の衣装は壁一面を使ったクローゼットに収まった。なんなら、少し余裕があるくらい。……それも、今までは、の話で。
クロウウェル様には「暫く出掛けられないと思うし、私も両親や陛下に色々と報告してこなければならないから、また2週間後くらいに予定を聞くようにするよ」と言われて、はて? 私にそんな用事があったかな? と思ったものの、あった。
ドレス作り、というマネキンの仕事が。
1日目は荷解きや邸の従者たちに事情を話したりして「あの山猿姫様がとうとう……!」と泣かれたり祝われたりもしたのだけど、2日目にのんびり起きて朝食の後お茶を飲んでいたら、突然の来訪が。それも日替わりの、時間単位で、違う方々が。
ドレスの採寸は何回目か分からないし、宝飾品に至ってはもはやこれだけで我が家の財政が傾くのではないかという数にのぼり、靴もしっかり何足……何十足と揃えられて。
諦めて私の自室の隣にあった客間をクローゼットに改装する事になり、改装業者も大急ぎで入れて(これはお父様にお手紙を書いたらすぐ手配してくださいました)見事、部屋と同じ大きさのウォークインクローゼットが出来上がる頃には、そこいっぱいに衣装やらが詰め込まれていて。
(相手の方に合わせるのは礼儀とはいえ……つ、疲れた)
私の持ってきたささやかな部屋着やドレスは隅においやられ、今流行の最先端のドレスがずらり、全てセミオーダーかオートクチュールというのは恐ろしいので考えないことにする。
2週間、と言ってくれたのは優しさだったのかもしれない。10日でなんとか全ての突貫工事とドレス(なんせ、何店舗にも渡ってのことだから、出来上がりも早い)などはできあがり、私はウォークインクローゼットの増えた自室のソファでだらしなくもクッションを抱えてくたびれていた。
部屋着もドレスのおまけのようにそれまでとは段違いに質がいいブラウスやスカート、ワンピースがついてきて……これはあつらえた訳ではなくお店の商品らしいのだけれど、この先5年は着る物に困らないと思う。
と、いうような事はもちろんデザイナーの方々の前では言わない。お支払いは公爵家で、私はまだ挨拶すら済ませていないのに、さっそくお得意様扱いになってしまった。
こんな風にしてもらうのが、嬉しくない訳じゃない。とても疲れたけど、身分が上の方とのお付き合いとはこういうことなのだろうし。クッションをぎゅっと抱きしめながら、目を閉じる。
私はまだ、自分が王都で今一番注目されている存在だということに気付いていなかった。
ただただ、あの美しい公爵様のとろけるような視線を思い出すと、……着飾る日は少しだけ楽しみだと思って、一人クッションに赤い顔を沈めていた。
私は公爵邸に着て行くのに恥ずかしくないドレスと、部屋着用のドレスや寝巻きなどを持ってきたが、それでも最低限。王都の子爵邸はクロウウェル様のお邸とはかなりの距離がある上に、邸の大きさも全く違うので、私の衣装は壁一面を使ったクローゼットに収まった。なんなら、少し余裕があるくらい。……それも、今までは、の話で。
クロウウェル様には「暫く出掛けられないと思うし、私も両親や陛下に色々と報告してこなければならないから、また2週間後くらいに予定を聞くようにするよ」と言われて、はて? 私にそんな用事があったかな? と思ったものの、あった。
ドレス作り、というマネキンの仕事が。
1日目は荷解きや邸の従者たちに事情を話したりして「あの山猿姫様がとうとう……!」と泣かれたり祝われたりもしたのだけど、2日目にのんびり起きて朝食の後お茶を飲んでいたら、突然の来訪が。それも日替わりの、時間単位で、違う方々が。
ドレスの採寸は何回目か分からないし、宝飾品に至ってはもはやこれだけで我が家の財政が傾くのではないかという数にのぼり、靴もしっかり何足……何十足と揃えられて。
諦めて私の自室の隣にあった客間をクローゼットに改装する事になり、改装業者も大急ぎで入れて(これはお父様にお手紙を書いたらすぐ手配してくださいました)見事、部屋と同じ大きさのウォークインクローゼットが出来上がる頃には、そこいっぱいに衣装やらが詰め込まれていて。
(相手の方に合わせるのは礼儀とはいえ……つ、疲れた)
私の持ってきたささやかな部屋着やドレスは隅においやられ、今流行の最先端のドレスがずらり、全てセミオーダーかオートクチュールというのは恐ろしいので考えないことにする。
2週間、と言ってくれたのは優しさだったのかもしれない。10日でなんとか全ての突貫工事とドレス(なんせ、何店舗にも渡ってのことだから、出来上がりも早い)などはできあがり、私はウォークインクローゼットの増えた自室のソファでだらしなくもクッションを抱えてくたびれていた。
部屋着もドレスのおまけのようにそれまでとは段違いに質がいいブラウスやスカート、ワンピースがついてきて……これはあつらえた訳ではなくお店の商品らしいのだけれど、この先5年は着る物に困らないと思う。
と、いうような事はもちろんデザイナーの方々の前では言わない。お支払いは公爵家で、私はまだ挨拶すら済ませていないのに、さっそくお得意様扱いになってしまった。
こんな風にしてもらうのが、嬉しくない訳じゃない。とても疲れたけど、身分が上の方とのお付き合いとはこういうことなのだろうし。クッションをぎゅっと抱きしめながら、目を閉じる。
私はまだ、自分が王都で今一番注目されている存在だということに気付いていなかった。
ただただ、あの美しい公爵様のとろけるような視線を思い出すと、……着飾る日は少しだけ楽しみだと思って、一人クッションに赤い顔を沈めていた。
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