11 / 20
11 知識と暗器は己を助く
しおりを挟む
「あれは死ぬ毒だ。私の舌が痺れたくらいだからな、マカロンをひとつ食べたらあの世いきだ」
「カルティエ伯爵令嬢の娘で間違いないのだな?」
「はい……、アルフォンス殿下がいてくださらなければ……素直に茶菓子としてお出ししていたかもしれません」
お父様がむずかしい顔で腕をくんでうつむいています。
買ってきたものなのは間違いありません。
どの段階でしこまれたのか、状況証拠としてはフィーナ嬢の行動からカルティエ伯爵のしわざ……フィーナ嬢も知っていてもってきた……のは、悲しいけれど事実でしょう。
ただし、状況証拠です。そしてそれを証言できるのはわたしと、保守派の後ろ盾を得にきたアルフォンス殿下。証言としては客観性にかけて弱いです。
逆に改革派が活気づく可能性すらあります。アルフォンス殿下は秘されていた隠し玉であり、前評判は病弱だからという理由で王位継承権第二位のお方。いまさら出てきて保守派に有利な証言をするとは余程王位継承権第一位がほしいのだろう、などと言われかねません。
「貴族裁判にかけよう」
「お父様……!」
「さいわい、というかそこまでカルティエの娘は頭が回らなかったのだろう。物的証拠はこちらにあるし、それをカルティエ伯爵が手を回したものだと証明できればいい」
「ですが、店売りの物で封はされていましたよ?」
にやり、とお父様が笑います。悪い顔です。
「今すぐダニエルをその店に行かせろ。日持ちのしない菓子だ、直近で辞めた者、もしくは今にも辞めそうな者は宰相権限で捕らえておけ、と。……そうそう、ナターシャが殺されかけたぞ、とそえておくように」
ダニエルはお兄様のお名前です。ひかえていた執事が一礼をしてすぐさま動きました。最後の一言はよくきくでしょうね。絶対に実行犯を逃しはしないでしょう。
アルフォンス殿下も何か考えていらっしゃる様子。さて、わたしはというと、せっかくの有名店のマカロンで我が家を、わたしを、亡き者にしようとしたカルティエ伯爵が許せませんね。
素直に死んでいればアルフォンス殿下のお立場はかなり安定したでしょうが、そこまでの滅私奉公をする気はございません。
「お父様。人を使ってカルティエ伯爵の馬車の今日の動きも調べてください。うちの者だとわからないように動ける人で、さりげなく」
貴族の馬車はだいたい家紋入りです。貴族街を馬車で来たのなら目撃者はかならずいます。
「もちろんだ。……いまいましいカルティエめ。即刻貴族裁判にかけてやる」
おや、アルフォンス殿下の考え事が終わったようです。そういえばさきほどはわたしのことを呼び捨てになさっていましたが、基本的にはご自分の伴侶などしか呼ぶことは許されていません。もしかして、あれ、前段階からきづいて演技されていました?
「ナターシャ嬢、私はいずれ顔が割れるだろうが、今はまだカルティエ伯爵に私のことはバレていないはずだ。どうだろうか、私なら失敗したら……時間の許す限り成功するまで繰り返すのだが、散歩でも?」
たしかにそうですね。殺しにきたわけですから、自分のしわざだとバレる前にあらゆることはしておきますね。
殺してしまえばあとはどうとでもなりますし。
わたしはドレスの下の暗器に触れます。付きそいはアルフォンス殿下。帯剣はされていますが、わたしに対してひとりくらいならなんとかできる、と思っていそうです。
「では、散歩にいきましょうかアルフォンス殿下」
「その呼び方はまずい。アル、と呼んでくれ」
徹底してますね。と、思いましたが、この方楽しんでますよ! 顔が笑っています! 毒殺されかけたのに!
「では、アル。散歩にいきましょうか」
「あぁ、ナターシャ」
お父様はわたしとアルフォンス殿下のやりとりを見て、なるほど、という具合に笑っています。やめてください、恥ずかしくなりますから。
マカロンを選んだあたり、わたしが狙いなのは間違いありません。この貴族裁判で勝てればアルフォンス殿下のお立場と保守派の後ろ盾は確実になります。中立派もこちらにかたむくでしょう。
というわけで、アルフォンス殿下にエスコートされて私は貴族街の商店や公園があるほうへと散歩にでかけました。ずっと王宮にこもられていた殿下は実にまぶしそうに、それでいて楽しそうに散歩を楽しまれています。
で、まぁ人気のない公園でフォレストの娘覚悟ー! と、見事に5人ほどの、暴漢の服装をした明らかに鍛えられた私兵におそわれました。
私はスカートの下から暗器を素早く取り出すと、本来なら殺すための道具ですが、ワイヤー部分で相手の自由をうばいます。暗器はふたつあるのでもうひとり、とふりかえった時にはアルフォンス殿下が全て地面にのしていました。お強すぎません?
お父様とアルフォンス殿下、そしてわたしと3人集まれば文殊の知恵。バカ娘を輩出した頭とはちがうんですよカルティエ伯爵。
知識と暗器はひとを助けますね。やっててよかった、護身術。
「カルティエ伯爵令嬢の娘で間違いないのだな?」
「はい……、アルフォンス殿下がいてくださらなければ……素直に茶菓子としてお出ししていたかもしれません」
お父様がむずかしい顔で腕をくんでうつむいています。
買ってきたものなのは間違いありません。
どの段階でしこまれたのか、状況証拠としてはフィーナ嬢の行動からカルティエ伯爵のしわざ……フィーナ嬢も知っていてもってきた……のは、悲しいけれど事実でしょう。
ただし、状況証拠です。そしてそれを証言できるのはわたしと、保守派の後ろ盾を得にきたアルフォンス殿下。証言としては客観性にかけて弱いです。
逆に改革派が活気づく可能性すらあります。アルフォンス殿下は秘されていた隠し玉であり、前評判は病弱だからという理由で王位継承権第二位のお方。いまさら出てきて保守派に有利な証言をするとは余程王位継承権第一位がほしいのだろう、などと言われかねません。
「貴族裁判にかけよう」
「お父様……!」
「さいわい、というかそこまでカルティエの娘は頭が回らなかったのだろう。物的証拠はこちらにあるし、それをカルティエ伯爵が手を回したものだと証明できればいい」
「ですが、店売りの物で封はされていましたよ?」
にやり、とお父様が笑います。悪い顔です。
「今すぐダニエルをその店に行かせろ。日持ちのしない菓子だ、直近で辞めた者、もしくは今にも辞めそうな者は宰相権限で捕らえておけ、と。……そうそう、ナターシャが殺されかけたぞ、とそえておくように」
ダニエルはお兄様のお名前です。ひかえていた執事が一礼をしてすぐさま動きました。最後の一言はよくきくでしょうね。絶対に実行犯を逃しはしないでしょう。
アルフォンス殿下も何か考えていらっしゃる様子。さて、わたしはというと、せっかくの有名店のマカロンで我が家を、わたしを、亡き者にしようとしたカルティエ伯爵が許せませんね。
素直に死んでいればアルフォンス殿下のお立場はかなり安定したでしょうが、そこまでの滅私奉公をする気はございません。
「お父様。人を使ってカルティエ伯爵の馬車の今日の動きも調べてください。うちの者だとわからないように動ける人で、さりげなく」
貴族の馬車はだいたい家紋入りです。貴族街を馬車で来たのなら目撃者はかならずいます。
「もちろんだ。……いまいましいカルティエめ。即刻貴族裁判にかけてやる」
おや、アルフォンス殿下の考え事が終わったようです。そういえばさきほどはわたしのことを呼び捨てになさっていましたが、基本的にはご自分の伴侶などしか呼ぶことは許されていません。もしかして、あれ、前段階からきづいて演技されていました?
「ナターシャ嬢、私はいずれ顔が割れるだろうが、今はまだカルティエ伯爵に私のことはバレていないはずだ。どうだろうか、私なら失敗したら……時間の許す限り成功するまで繰り返すのだが、散歩でも?」
たしかにそうですね。殺しにきたわけですから、自分のしわざだとバレる前にあらゆることはしておきますね。
殺してしまえばあとはどうとでもなりますし。
わたしはドレスの下の暗器に触れます。付きそいはアルフォンス殿下。帯剣はされていますが、わたしに対してひとりくらいならなんとかできる、と思っていそうです。
「では、散歩にいきましょうかアルフォンス殿下」
「その呼び方はまずい。アル、と呼んでくれ」
徹底してますね。と、思いましたが、この方楽しんでますよ! 顔が笑っています! 毒殺されかけたのに!
「では、アル。散歩にいきましょうか」
「あぁ、ナターシャ」
お父様はわたしとアルフォンス殿下のやりとりを見て、なるほど、という具合に笑っています。やめてください、恥ずかしくなりますから。
マカロンを選んだあたり、わたしが狙いなのは間違いありません。この貴族裁判で勝てればアルフォンス殿下のお立場と保守派の後ろ盾は確実になります。中立派もこちらにかたむくでしょう。
というわけで、アルフォンス殿下にエスコートされて私は貴族街の商店や公園があるほうへと散歩にでかけました。ずっと王宮にこもられていた殿下は実にまぶしそうに、それでいて楽しそうに散歩を楽しまれています。
で、まぁ人気のない公園でフォレストの娘覚悟ー! と、見事に5人ほどの、暴漢の服装をした明らかに鍛えられた私兵におそわれました。
私はスカートの下から暗器を素早く取り出すと、本来なら殺すための道具ですが、ワイヤー部分で相手の自由をうばいます。暗器はふたつあるのでもうひとり、とふりかえった時にはアルフォンス殿下が全て地面にのしていました。お強すぎません?
お父様とアルフォンス殿下、そしてわたしと3人集まれば文殊の知恵。バカ娘を輩出した頭とはちがうんですよカルティエ伯爵。
知識と暗器はひとを助けますね。やっててよかった、護身術。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
3,135
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる