【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃

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1 どうも『飯炊き女』の聖女です

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「『飯炊き女』今日の夕飯何作ってくれてんのかな」

「やたら美味いよな。他の家事もちゃんとしてるけど、飯が一番」

「な。あの飯食う為なら異動しないように頑張れるわ」

「なら、ルーシー、と名前で呼んだらどうなんだお前ら」

 と、洗濯物を干そうとしている裏庭で非番の騎士たちが雑談しているところに出会し、兵舎の影に隠れてやり過ごそうとしているのが、『飯炊き女』のルーシー。私だ。

 寝転がって日向ぼっこしたくなるのはわかるけど、あなた方の下着やらシーツやらを乾かす為に日向に物干しがあるので、どいて欲しい。

 寝転がって『飯炊き女』と言っていた二人の騎士を促して、ルーシーと名前で呼んだらどうだ、と言いながらどこかに連れて行ってくださったのは、金髪に不思議な色合いを見せる青いような緑のような瞳のガウェイン様。私をこの騎士団の兵舎……寮で、団長を除いたら唯一ルーシーと呼んでくれるいい人だ。

 人の気配も人目もなくなったので、私は荷車に積んできた洗濯物の入った籠5つに両手をかざして、『神力』でシーツやら下着やらを一気に干していく。

 神力……、神官が使う神の奇跡と言われる力。が、それを洗濯物を干すのに使うのは私くらいだろう。

 この程度は朝飯前、むしろ力を使わないと鈍ってしまうので日常的に使っているというのが正しいだろうか。

 ぼさぼさに見せている眉毛にそばかすを描いている顔、長い髪は三つ編みにして、丸い伊達眼鏡をかけて顔を隠して寮母を勤めて3年。

 そして、孤児院で、私が聖女の力を顕現させて内密に国王陛下に引き取られて3年。現在17歳の、喪女である。聖女だからまぁ、結婚はできないらしいしいいんだけど。

 本来ならば国王陛下より上の身分になる、最高位の『金剛の聖女』である私が騎士団の寮母をしているのは、単に安全対策である。

 聖女は瘴気が濃くなると産まれてくる存在らしく、私が『金剛の』という最高位の称号を付けられて呼ばれているのは、それだけ強い瘴気が近隣諸国に蔓延しているせいだ。

 この国だけは私がいるから無事、だけれど、近隣諸国にまで私の力が届かないのはもどかしい。特に、このローニリア王国と冷戦状態にあるグランドルム王国は土が汚れて作物が育たなくなっているらしい。

 魔物の数が増える程度ならば冒険者や騎士団、魔術師団で討伐を行う事で素材を得られたり希少な魔法石を得たりもできるので悪いばかりの事でもないが、土が汚れるとなると飢餓が起き、次に汚れるのは水で疫病が起こりかねない。

 私は今のように姿を誤魔化して浄化に向かいたいと、私が『金剛の聖女』である事を知っている陛下や宰相に掛け合ったけれど、冷戦状態にあるからと、食糧支援もしていないし、行かせてももらえていない。

 こうしてぬくぬく寮母として安全な国の安全な場所で正体を隠して過ごしているのも、隣国は何としても私の存在を知ったら欲しがるから、という理由だ。

 元は孤児の私である。そもそもの産まれが定かではないけれど、もしかしたらグランドルム王国の生まれかもしれない。

 ただ、私には政治力に優れた王室の方や宰相を説得できるだけの教養は無く、あるのは『金剛の聖女』の力と、権威だけだ。その権威も、まぁ飯炊き女に落ちているわけだけど、元々孤児院でしていた事を続けているだけだから気にした事はない。陛下なんかは何を恐れているのか私とうっかり顔を合わせようものなら、不便はないかと死にそうな顔で訊ねてくるけど、不便なのは隣国にちょっといってちょっと浄化もさせてもらえない現状だ。

 普段はボロを着て、わざと顔を汚して隠して寮母をしているのだから、別に贅沢をしてるわけではないし、今後もしたいとは思わない。

(私が隣国の産まれかもしれないのになぁ……難しいなぁ)

 今この時にも飢饉で苦しんでいる人がいるかもしれない、と思いながら、私は夕飯の支度に取り掛かる為に荷車を洗濯場に戻して空を見上げた。

 飢饉の苦しみはわからない。私はどうにかできるのに、できない現状が心苦しい。人が死んだりしてるのかな、と思うが、孤児院の近くで病気の人が家も食べ物もなくて死んでいくのは何度も見ていた。

 あれが国中に広まっているのだろうかと思うと、偽善かもしれないが、胸の奥が苦しかった。

 だが、私はここで護られて……という名目の元、軟禁されている。

 籠を所定の場所に戻して見上げたこの国……ローニリア王国の空は、今日も平和に青かった。
 
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