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18 聖人である前に騎士である(※ガウェイン視点)
広場に残ったのは10人程の、普通の市民に見える人間だ。
食糧に毒を盛らなかったのは、ルーシー様の奪還が目的だからだろう。完全に油断させたところで奪い去る気だったに違いないが、奴らが食べたのは『ルーシー様が指導して誰かに作らせた』飯だ。ルーシー様特製の飯は私たち騎士団が食べるのに適した重たい料理、加えて支援効果がある。
普通の戦士と戦うような訳にはいかないと思ったが、視界は隅々までクリアで、どんなスピードにも、技にも、贈れを取る気はしなかった。
私は顕現する前に騎士として隣国の伯爵家に引き取られた。全てはルーシー様を……『金剛の聖女』様を連れ帰る為に。
幸せに暮らしていたのなら……どうしただろう。そのまま、私は任務に失敗したと言えばよかっただろうか。
だが、祖国も滅びかけていた。それを救うには『金剛の聖女』が絶対に必要であったし、あの国に『金剛の聖女』がいる事で我が国……グランドルム王国の瘴気が何らかの理由で濃くなっていった。
ルーシー様だったことは驚いたが、得心もいった。彼女に惹かれていたからだけじゃない、彼女の手によって造られた食事が、自分たちの力を底上げしてくれていた。そして、それは、今も。
高く飛び上がった敵が背後のルーシー様に迫るが、私の間合いは前にだけあるわけでは無い。
剣の間合いは上にもある。とびかかり落ちて来る、当然の重力に従った動きに合わせて剣を振るう。
「っ?!」
声を出さないのは流石と言うべきだろうが、脚の腱を斬ってそのまま遠ざけるように空いた片手で顔面を殴り飛ばした。吹き飛んだ刺客はそのままに、そぞろ民間人に偽装した者が暗器を振るう。
鋼の糸に繋がれた短剣を騎士団長が切り払う。肉を貫くような礫を騎士の一人が剣の腹で全て叩き落す。
ルーシー様が背中にいて、ルーシー様の飯を食べ、そして食べ続けてきた我々は、どうやら相当強いのだろう。
『金剛の聖女』がいて訓練にばかり明け暮れていた平和だった3年間。顕現する前から、私はずっと剣を使っていた。
聖人である前に騎士である。彼女を守る、騎士である。
皮肉なことだ。ルーシー様の話では「万が一にも襲われても周囲に騎士団が居る状況が安全だから」と、ずっと兵舎で下女のように働いていたのに、襲うのがそれを吹き込んだ隣国の国王その人だとは。
そして、図らずも我々は今ルーシー様を守る為に戦っている。
きっと、心の中では『飯炊き女』とまだ呼んでいる騎士もいるだろう。だが、それは見下しているからではない。
どんなに存在感を薄めて、醜女の化粧をしたとしても、彼女のご飯は美味しかった。力をくれた。元気が出た。
ある意味敬意を籠めた呼び方だ。名前で呼べ、と注意して回っていたが、まったくもっておせっかいだったと思う。
騎士たちはみな、背中にルーシー様がいる事で笑って戦っている。負ける気が微塵もしないのだ。
私も、橄欖の聖人である前に騎士である私も、全くもって皆と同じ気持ちだ。
負ける気がしない。そして、決着はついた。彼女に残酷なところは見せたくないからと、動けない程度の怪我に手加減するだけの余裕を持って、我々は隣国の刺客を全て無力化した。
「終わりましたよ」
「よ、よかった……」
「はい、もう安全です」
「いえ、そうじゃなく……皆さんに、怪我がなくて」
へたり込んだルーシー様が本当に安堵してそう告げるので、我々は顔を合わせて笑ってしまった。
それは、こちらの台詞だと言えばいいのか、貴女のお陰ですと言えばいいのか、とにかく我々は彼女を無傷で守りぬいた事に満足し、刺客をひとまとめにして彼ら自身が持っていた鋼の糸でふんじばって転がしておいた。
食糧に毒を盛らなかったのは、ルーシー様の奪還が目的だからだろう。完全に油断させたところで奪い去る気だったに違いないが、奴らが食べたのは『ルーシー様が指導して誰かに作らせた』飯だ。ルーシー様特製の飯は私たち騎士団が食べるのに適した重たい料理、加えて支援効果がある。
普通の戦士と戦うような訳にはいかないと思ったが、視界は隅々までクリアで、どんなスピードにも、技にも、贈れを取る気はしなかった。
私は顕現する前に騎士として隣国の伯爵家に引き取られた。全てはルーシー様を……『金剛の聖女』様を連れ帰る為に。
幸せに暮らしていたのなら……どうしただろう。そのまま、私は任務に失敗したと言えばよかっただろうか。
だが、祖国も滅びかけていた。それを救うには『金剛の聖女』が絶対に必要であったし、あの国に『金剛の聖女』がいる事で我が国……グランドルム王国の瘴気が何らかの理由で濃くなっていった。
ルーシー様だったことは驚いたが、得心もいった。彼女に惹かれていたからだけじゃない、彼女の手によって造られた食事が、自分たちの力を底上げしてくれていた。そして、それは、今も。
高く飛び上がった敵が背後のルーシー様に迫るが、私の間合いは前にだけあるわけでは無い。
剣の間合いは上にもある。とびかかり落ちて来る、当然の重力に従った動きに合わせて剣を振るう。
「っ?!」
声を出さないのは流石と言うべきだろうが、脚の腱を斬ってそのまま遠ざけるように空いた片手で顔面を殴り飛ばした。吹き飛んだ刺客はそのままに、そぞろ民間人に偽装した者が暗器を振るう。
鋼の糸に繋がれた短剣を騎士団長が切り払う。肉を貫くような礫を騎士の一人が剣の腹で全て叩き落す。
ルーシー様が背中にいて、ルーシー様の飯を食べ、そして食べ続けてきた我々は、どうやら相当強いのだろう。
『金剛の聖女』がいて訓練にばかり明け暮れていた平和だった3年間。顕現する前から、私はずっと剣を使っていた。
聖人である前に騎士である。彼女を守る、騎士である。
皮肉なことだ。ルーシー様の話では「万が一にも襲われても周囲に騎士団が居る状況が安全だから」と、ずっと兵舎で下女のように働いていたのに、襲うのがそれを吹き込んだ隣国の国王その人だとは。
そして、図らずも我々は今ルーシー様を守る為に戦っている。
きっと、心の中では『飯炊き女』とまだ呼んでいる騎士もいるだろう。だが、それは見下しているからではない。
どんなに存在感を薄めて、醜女の化粧をしたとしても、彼女のご飯は美味しかった。力をくれた。元気が出た。
ある意味敬意を籠めた呼び方だ。名前で呼べ、と注意して回っていたが、まったくもっておせっかいだったと思う。
騎士たちはみな、背中にルーシー様がいる事で笑って戦っている。負ける気が微塵もしないのだ。
私も、橄欖の聖人である前に騎士である私も、全くもって皆と同じ気持ちだ。
負ける気がしない。そして、決着はついた。彼女に残酷なところは見せたくないからと、動けない程度の怪我に手加減するだけの余裕を持って、我々は隣国の刺客を全て無力化した。
「終わりましたよ」
「よ、よかった……」
「はい、もう安全です」
「いえ、そうじゃなく……皆さんに、怪我がなくて」
へたり込んだルーシー様が本当に安堵してそう告げるので、我々は顔を合わせて笑ってしまった。
それは、こちらの台詞だと言えばいいのか、貴女のお陰ですと言えばいいのか、とにかく我々は彼女を無傷で守りぬいた事に満足し、刺客をひとまとめにして彼ら自身が持っていた鋼の糸でふんじばって転がしておいた。
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