10 / 17
本編
10 フィリップ王子との婚約
今にも暴れ出しそうな妹を、モーガン様と使用人が数人がかりで部屋に連れていった。その叫び声は彼女が部屋に押し込められるまでずっと聞こえていたが、やがて静寂が訪れる。
残された王子とお父様、私はフィリップ王子主導の元、既に用意されていた婚約の書類にサインをした。あっという間の出来事だった。
「して、スカーレット伯爵。すまないが、婚約者であるジュリアはしばらく静養が必要に思える。このまま痩せ細られては婚約指輪も贈れない。明日、迎の馬車を寄越すので王宮にて静養する支度を整えておくように」
「…………畏まりました」
お父様は何も言えなかった。家長として、これは余りにも大きな失態である。私の事をこの家から引き離してくれるというフィリップ王子には感謝の念しかない。
イグレット公爵家には何かお咎めがあるのだろうか? 私が王子の婚約者としてスカーレット家を離れたら、私はあの秘密をどうすればいいのだろうか。
あの二人の婚約破棄をさせなければならない。しかし、碌に栄養も摂らず働きもしていなかった頭は、今は目の前の事でいっぱいだ。
紫紺の瞳がなんの心配もないというように微笑んでくれる。本当だろうか、と思うまま、差し出されたハンカチを受け取って私は流れるままにしていた涙を拭った。
先程のマリアの豹変。使用人たちから聞いていたより、根はもっと深いのかもしれない。
あれは、モーガン様と婚約したかった訳じゃない。なんでも与えられていた妹が、私がより良いものを手にする事が耐えられない、ただそれだけの理由でモーガン様を望んだのだとしたら……?
その為に社交界に出ず、只管モーガン様を狙い続け、私を陥れ、モーガン様との……いえ、次期公爵夫人という地位を望んでいたのだとしたら。
私の頭がグワングワンと痛くなる。体調の悪そうな私を支えて部屋まで送ってくださったフィリップ王子は、明日迎えにくるから、と言って帰って行かれた。
使用人たちは喜んで私を送り出す支度を整えた。この家は、スカーレット伯爵家は歪んでいたのだ。
イグレット公爵家との間に借りができてしまった時から、歪んでいた。
私はその歪みの、最初の歯車を狂わせたきっかけであり元凶……全てが綴られた母の遺書を日記帳に挟んだまま、荷物の中に入れた。
その日の晩餐、お父様はマリアには部屋に謹慎を言い渡し、モーガン様には落ち着いたら連絡するとして、二人きりで晩餐を摂った。
お母様が亡くなってから暫くはこうだったのに、1ヶ月の間私が部屋に篭っていた時には、マリアとモーガン様がここでお父様と晩餐を摂っていたのだ。
「ジュリア……」
「はい、お父様」
「…………何もかも、すまなかった」
カトラリーを置いて、お父様は深く頭を下げた。私は、それに、許すとも許さないとも言えなかった。
今の私があるのはお父様のお陰ではあるけれど、私もマリアのように天真爛漫に笑えるように愛されたかった。
きっとお父様は配分を間違えたのだ。私とマリア、それぞれに与える愛情の種類の配分を。
お互い半分ずつ交換できていれば、スカーレット伯爵家は歪まなかったかもしれない。
そして、私の中にふつふつとした物が煮えたぎっていた。
イグレット公爵。彼が、全部狂わせた。助けられた事は事実だけれど、下手に友情を傘に着なければ、金銭のやり取りで少しずつ借りを返させてくれていれば、……そして、お母様を手篭めにしなければ。
私は誰に何をぶつけるべきか迷っていた。
愚かな元婚約者、私より何もかも持っていたい馬鹿な妹、それらの親であるイグレット公爵。
きっとイグレット公爵は知らないのだろう。息子の婚約者が自分の実の娘だという事を。
私は何も言わず、明日より家を離れます、お世話になりました、とだけ挨拶をして、晩餐の席を後にした。
残された王子とお父様、私はフィリップ王子主導の元、既に用意されていた婚約の書類にサインをした。あっという間の出来事だった。
「して、スカーレット伯爵。すまないが、婚約者であるジュリアはしばらく静養が必要に思える。このまま痩せ細られては婚約指輪も贈れない。明日、迎の馬車を寄越すので王宮にて静養する支度を整えておくように」
「…………畏まりました」
お父様は何も言えなかった。家長として、これは余りにも大きな失態である。私の事をこの家から引き離してくれるというフィリップ王子には感謝の念しかない。
イグレット公爵家には何かお咎めがあるのだろうか? 私が王子の婚約者としてスカーレット家を離れたら、私はあの秘密をどうすればいいのだろうか。
あの二人の婚約破棄をさせなければならない。しかし、碌に栄養も摂らず働きもしていなかった頭は、今は目の前の事でいっぱいだ。
紫紺の瞳がなんの心配もないというように微笑んでくれる。本当だろうか、と思うまま、差し出されたハンカチを受け取って私は流れるままにしていた涙を拭った。
先程のマリアの豹変。使用人たちから聞いていたより、根はもっと深いのかもしれない。
あれは、モーガン様と婚約したかった訳じゃない。なんでも与えられていた妹が、私がより良いものを手にする事が耐えられない、ただそれだけの理由でモーガン様を望んだのだとしたら……?
その為に社交界に出ず、只管モーガン様を狙い続け、私を陥れ、モーガン様との……いえ、次期公爵夫人という地位を望んでいたのだとしたら。
私の頭がグワングワンと痛くなる。体調の悪そうな私を支えて部屋まで送ってくださったフィリップ王子は、明日迎えにくるから、と言って帰って行かれた。
使用人たちは喜んで私を送り出す支度を整えた。この家は、スカーレット伯爵家は歪んでいたのだ。
イグレット公爵家との間に借りができてしまった時から、歪んでいた。
私はその歪みの、最初の歯車を狂わせたきっかけであり元凶……全てが綴られた母の遺書を日記帳に挟んだまま、荷物の中に入れた。
その日の晩餐、お父様はマリアには部屋に謹慎を言い渡し、モーガン様には落ち着いたら連絡するとして、二人きりで晩餐を摂った。
お母様が亡くなってから暫くはこうだったのに、1ヶ月の間私が部屋に篭っていた時には、マリアとモーガン様がここでお父様と晩餐を摂っていたのだ。
「ジュリア……」
「はい、お父様」
「…………何もかも、すまなかった」
カトラリーを置いて、お父様は深く頭を下げた。私は、それに、許すとも許さないとも言えなかった。
今の私があるのはお父様のお陰ではあるけれど、私もマリアのように天真爛漫に笑えるように愛されたかった。
きっとお父様は配分を間違えたのだ。私とマリア、それぞれに与える愛情の種類の配分を。
お互い半分ずつ交換できていれば、スカーレット伯爵家は歪まなかったかもしれない。
そして、私の中にふつふつとした物が煮えたぎっていた。
イグレット公爵。彼が、全部狂わせた。助けられた事は事実だけれど、下手に友情を傘に着なければ、金銭のやり取りで少しずつ借りを返させてくれていれば、……そして、お母様を手篭めにしなければ。
私は誰に何をぶつけるべきか迷っていた。
愚かな元婚約者、私より何もかも持っていたい馬鹿な妹、それらの親であるイグレット公爵。
きっとイグレット公爵は知らないのだろう。息子の婚約者が自分の実の娘だという事を。
私は何も言わず、明日より家を離れます、お世話になりました、とだけ挨拶をして、晩餐の席を後にした。
あなたにおすすめの小説
妹と再婚約?殿下ありがとうございます!
八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。
第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。
「彼女のことは私に任せろ」
殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします!
令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
彼の妹にキレそう。信頼していた彼にも裏切られて婚約破棄を決意。
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢イブリン・キュスティーヌは男爵令息のホーク・ウィンベルドと婚約した。
好きな人と結ばれる喜びに震え幸せの絶頂を感じ、周りの景色も明るく見え笑顔が輝く。
彼には妹のフランソワがいる。兄のホークのことが異常に好き過ぎて婚約したイブリンに嫌がらせをしてくる。
最初はホークもフランソワを説教していたが、この頃は妹の肩を持つようになって彼だけは味方だと思っていたのに助けてくれない。
実はずっと前から二人はできていたことを知り衝撃を受ける。
(完)婚約破棄ですね、従姉妹とどうかお幸せに
青空一夏
恋愛
私の婚約者は従姉妹の方が好きになってしまったようなの。
仕方がないから従姉妹に譲りますわ。
どうぞ、お幸せに!
ざまぁ。中世ヨーロッパ風の異世界。中性ヨーロッパの文明とは違う点が(例えば現代的な文明の機器など)でてくるかもしれません。ゆるふわ設定ご都合主義。