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1 愛の告白は夕暮れの生徒会室で
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私はユーリカ・クレメンス辺境伯令嬢。この国では15歳になると3年間、王侯貴族の子息令嬢が集められ、集団で教育を受けることが義務付けられている。主に横の繋がりを強くするためだ。
私は辺境伯の娘。お父様は王族と並ぶと言われる程の発言力と、外交官の役職を持ち、領地は他国との貿易窓口にもなっている。
当然、娘の私に求められるものは一般的な学問や教養をはじめとした多国語に始まり、他国のマナー、各地の特産品、常に変動する市場の相場を見る目、各地の戦力と自領の戦力の把握、敵対していると思われないように兵の質の改善を考える頭、といった何から何までな教育フルコースだ。
こんな形なので、入学前には学園のカリキュラムはとっくに終了していた。いつもテストでは……少々悔しいが2位か3位を維持している。時には1位になることもあったが、私と同学年には、不運なことに、私と同じような教育を受けてきた男性が2人いる。
そんな私たちは3年生。3人とも生徒会役員であり、私は副会長を務めている。今日も今日とて学園内部から上がってくる色々な書類をふるい分けていた。生徒会長……ディーノ・ウォルフォード王太子殿下が私の横に跪くまで。
「……生徒会長?」
「ユーリカ……、どうか、私の愛を受け取ってはくれないだろうか?」
喉元まで出かかった、何言ってんだこいつ、を辛うじて飲み込み、自然と取られた手を取り戻す事もできず、ディーノ殿下を見た。見つめた訳じゃない、あまりに突飛な告白に、本心は何だと探るために見た。穴が開くほど。
「3年間、学業の面でも、こうして生徒会に入ってからも、君の凛々しい横顔に、ずっと見惚れていたよ。時には胸が苦しくなり……私はこれこそが真実の愛だと気付いてしまった。ユーリカ、どうか……私の愛に応えて欲しい」
全身に震えが走った。喜びではない。怖気だ。大変申し訳ないが気持ち悪い。
ディーノ殿下は長い金髪を組紐で結び、締まった体躯に長身、青い目をしたまさに王子様と呼ぶべきお方だ。そして、毎度のようにテストで順位を競うライバルであり、生徒会の会長と副会長という間柄である。
そして、それ以上でも以下でもない。私と殿下の間に恋愛などという物は今この瞬間まで全く存在しておらず、できればこれからも存在してほしくないし、よければなかったことにして欲しい。
どうお答えすれば不敬罪に当たらないかを(学園では身分は関係ないとされているが、建前は建前である)必死に頭を回転させていた。誰か助けて欲しい。
この長い沈黙をどう取ったのか、殿下は私の手の甲を唇に近付けていき……。
「で、殿下!」
と、制止の声を掛けると同時に、生徒会室のドアが開いた。
天の助け! とばかりにそちらを見たが、私の希望は一瞬にして絶望に塗り替わる。
ドアを開けたのは、黒髪に理知的な青い目の、バルティ・マッケンジー公爵子息。裏の通称は嫌味眼鏡。その通り眼鏡を掛けていて、男女共に多少見下したような態度で正論を吐く、私のもう一人のライバルだ。
「おや……、これは、ずいぶん面白いことになっていますね。失礼しました」
助けないんかい! という私の心の叫びはもちろん聞こえるはずもなく、無情にも扉は閉まる。絶対今ごろ新聞部にこのネタを売りに行ったに違いない。
しかし、興を削がれたのは殿下もなようなので、私は自分の手を取り戻すと一先ず隣の椅子に座らせた。
私がこの方と恋愛関係になる理由も理屈も、ましてや惹かれる訳もない理由も、そしてこの告白に応えられない理由もただひとつ。それをお話しするために。
私は辺境伯の娘。お父様は王族と並ぶと言われる程の発言力と、外交官の役職を持ち、領地は他国との貿易窓口にもなっている。
当然、娘の私に求められるものは一般的な学問や教養をはじめとした多国語に始まり、他国のマナー、各地の特産品、常に変動する市場の相場を見る目、各地の戦力と自領の戦力の把握、敵対していると思われないように兵の質の改善を考える頭、といった何から何までな教育フルコースだ。
こんな形なので、入学前には学園のカリキュラムはとっくに終了していた。いつもテストでは……少々悔しいが2位か3位を維持している。時には1位になることもあったが、私と同学年には、不運なことに、私と同じような教育を受けてきた男性が2人いる。
そんな私たちは3年生。3人とも生徒会役員であり、私は副会長を務めている。今日も今日とて学園内部から上がってくる色々な書類をふるい分けていた。生徒会長……ディーノ・ウォルフォード王太子殿下が私の横に跪くまで。
「……生徒会長?」
「ユーリカ……、どうか、私の愛を受け取ってはくれないだろうか?」
喉元まで出かかった、何言ってんだこいつ、を辛うじて飲み込み、自然と取られた手を取り戻す事もできず、ディーノ殿下を見た。見つめた訳じゃない、あまりに突飛な告白に、本心は何だと探るために見た。穴が開くほど。
「3年間、学業の面でも、こうして生徒会に入ってからも、君の凛々しい横顔に、ずっと見惚れていたよ。時には胸が苦しくなり……私はこれこそが真実の愛だと気付いてしまった。ユーリカ、どうか……私の愛に応えて欲しい」
全身に震えが走った。喜びではない。怖気だ。大変申し訳ないが気持ち悪い。
ディーノ殿下は長い金髪を組紐で結び、締まった体躯に長身、青い目をしたまさに王子様と呼ぶべきお方だ。そして、毎度のようにテストで順位を競うライバルであり、生徒会の会長と副会長という間柄である。
そして、それ以上でも以下でもない。私と殿下の間に恋愛などという物は今この瞬間まで全く存在しておらず、できればこれからも存在してほしくないし、よければなかったことにして欲しい。
どうお答えすれば不敬罪に当たらないかを(学園では身分は関係ないとされているが、建前は建前である)必死に頭を回転させていた。誰か助けて欲しい。
この長い沈黙をどう取ったのか、殿下は私の手の甲を唇に近付けていき……。
「で、殿下!」
と、制止の声を掛けると同時に、生徒会室のドアが開いた。
天の助け! とばかりにそちらを見たが、私の希望は一瞬にして絶望に塗り替わる。
ドアを開けたのは、黒髪に理知的な青い目の、バルティ・マッケンジー公爵子息。裏の通称は嫌味眼鏡。その通り眼鏡を掛けていて、男女共に多少見下したような態度で正論を吐く、私のもう一人のライバルだ。
「おや……、これは、ずいぶん面白いことになっていますね。失礼しました」
助けないんかい! という私の心の叫びはもちろん聞こえるはずもなく、無情にも扉は閉まる。絶対今ごろ新聞部にこのネタを売りに行ったに違いない。
しかし、興を削がれたのは殿下もなようなので、私は自分の手を取り戻すと一先ず隣の椅子に座らせた。
私がこの方と恋愛関係になる理由も理屈も、ましてや惹かれる訳もない理由も、そしてこの告白に応えられない理由もただひとつ。それをお話しするために。
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