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2 殿下には婚約者がいらっしゃいます
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「殿下、落ち着いて聞いていただきたいのですが……」
「殿下だなどとよそよそしい。いつもの様に会長とかディーノ様とか呼んでもらいたいな。あぁ、いっそディーと愛称で……」
「いえ、ここはあえて殿下と呼ばせてください」
そう、あえて。家臣が主人に忠言をするのだから、この場で今は学園がどうよりそちらを選択したい。
「殿下には幼少のみぎりよりの婚約者様がいらっしゃいます。それでどうして、私が殿下の愛とやらを受け止めることができましょう。まして、私は昔からそれを知っている身、異性として意識したこともございません」
よし、このくらいはっきり言えば通じるだろう。早くこの面倒を片付けて、嫌味眼鏡を追いかけて誤解をとかなけれはならない。
「真剣な君の眼差しも声もとても素敵だ。だけど、笑いかけてくれるともっと嬉しいのだけれど」
何もよくなかった。
話が通じない、どうしよう。
殿下の婚約者はファリア・ハーバリア侯爵令嬢。成績は上位で、淑女としては私などとは比べ物にならない程素晴らしく女性らしいお方だ。
誰にでも分け隔てなく優しく、穏やかでたおやかでありながら、芯も強く、それでいて甘い物が好き。プラチナブランドの巻毛に緑の瞳のお人形のような華奢な見た目をしている、まさにお姫様というようなお方だ。
当然、女生徒からの人気も高く、殿下の婚約者であるから表向きは男性も好意を表さないが隠れファンクラブがある。
対して私は紺色の髪に紫のつり上がり気味の目をしていて、ストレートの髪を後ろでいつも一纏めにしている。決して不細工だとは思わないが、文化祭で男装をするとちょっと女の子にモテるような容姿だ。お姫様とは程遠い。
「殿下、お分かりになりませんか? ファリア様がいるのに殿下のお気持ちを私が受け止めてしまえば、浮気どころではすみません。もう少しご自分のお立場と、ファリア様の事もお考えください」
大体、王宮で重要なポストについている親を持つ令嬢同士で王太子殿下の取り合いなどとなったら、下手をしたら貴族間の大きな争いになりかねない。
「分かっているとも。だからこうして人目の無いところで……」
「太陽に顔向けできないような愛ならばそれこそお受けできません。とにかく、私には決して応じられませんので。本日は帰らせていただきます」
「あぁ、ユーリカの帰りが遅くなってしまっては危ないからな。また今度、この話はじっくりしよう」
「………………」
建前上、ここには身分差というものは存在しないことになっている。思い切って、本気で私の身を案じつつうっとりとした視線を向けてくるこの王太子殿下の頭を引っ叩いても今なら罪に問われないのでは無いだろうか。
そしてできればその衝撃で正気に戻ってはくれないだろうか。ダメだろうな。なんだかダメな予感しかしない。
とにかく私は帰ります、と鞄を片手に生徒会室を出ようとドアノブに手を掛けた。
そこに背後からディーノ殿下が、トン、と扉を押さえる様に片手をついて私を腕の中に閉じ込める。
ゾワゾワゾワッ、と私の体に鳥肌が立つ。普通に怖い。体格でも体術でも身分的にも完全に拒みきれないのだから、その辺りご配慮いただきたい。
「明日もまた、ここで。愛しいユーリカ」
「……仕事には来ますが、今後二人きりになる気はございません。では、失礼します、殿下」
早口に言って無理矢理ドアを両手で開けると隙間からディーノ殿下の腕から逃げるように外に出た。
とにかく、今は嫌味眼鏡を探さなければ。
あぁ、もう! どうしてこうなった!
「殿下だなどとよそよそしい。いつもの様に会長とかディーノ様とか呼んでもらいたいな。あぁ、いっそディーと愛称で……」
「いえ、ここはあえて殿下と呼ばせてください」
そう、あえて。家臣が主人に忠言をするのだから、この場で今は学園がどうよりそちらを選択したい。
「殿下には幼少のみぎりよりの婚約者様がいらっしゃいます。それでどうして、私が殿下の愛とやらを受け止めることができましょう。まして、私は昔からそれを知っている身、異性として意識したこともございません」
よし、このくらいはっきり言えば通じるだろう。早くこの面倒を片付けて、嫌味眼鏡を追いかけて誤解をとかなけれはならない。
「真剣な君の眼差しも声もとても素敵だ。だけど、笑いかけてくれるともっと嬉しいのだけれど」
何もよくなかった。
話が通じない、どうしよう。
殿下の婚約者はファリア・ハーバリア侯爵令嬢。成績は上位で、淑女としては私などとは比べ物にならない程素晴らしく女性らしいお方だ。
誰にでも分け隔てなく優しく、穏やかでたおやかでありながら、芯も強く、それでいて甘い物が好き。プラチナブランドの巻毛に緑の瞳のお人形のような華奢な見た目をしている、まさにお姫様というようなお方だ。
当然、女生徒からの人気も高く、殿下の婚約者であるから表向きは男性も好意を表さないが隠れファンクラブがある。
対して私は紺色の髪に紫のつり上がり気味の目をしていて、ストレートの髪を後ろでいつも一纏めにしている。決して不細工だとは思わないが、文化祭で男装をするとちょっと女の子にモテるような容姿だ。お姫様とは程遠い。
「殿下、お分かりになりませんか? ファリア様がいるのに殿下のお気持ちを私が受け止めてしまえば、浮気どころではすみません。もう少しご自分のお立場と、ファリア様の事もお考えください」
大体、王宮で重要なポストについている親を持つ令嬢同士で王太子殿下の取り合いなどとなったら、下手をしたら貴族間の大きな争いになりかねない。
「分かっているとも。だからこうして人目の無いところで……」
「太陽に顔向けできないような愛ならばそれこそお受けできません。とにかく、私には決して応じられませんので。本日は帰らせていただきます」
「あぁ、ユーリカの帰りが遅くなってしまっては危ないからな。また今度、この話はじっくりしよう」
「………………」
建前上、ここには身分差というものは存在しないことになっている。思い切って、本気で私の身を案じつつうっとりとした視線を向けてくるこの王太子殿下の頭を引っ叩いても今なら罪に問われないのでは無いだろうか。
そしてできればその衝撃で正気に戻ってはくれないだろうか。ダメだろうな。なんだかダメな予感しかしない。
とにかく私は帰ります、と鞄を片手に生徒会室を出ようとドアノブに手を掛けた。
そこに背後からディーノ殿下が、トン、と扉を押さえる様に片手をついて私を腕の中に閉じ込める。
ゾワゾワゾワッ、と私の体に鳥肌が立つ。普通に怖い。体格でも体術でも身分的にも完全に拒みきれないのだから、その辺りご配慮いただきたい。
「明日もまた、ここで。愛しいユーリカ」
「……仕事には来ますが、今後二人きりになる気はございません。では、失礼します、殿下」
早口に言って無理矢理ドアを両手で開けると隙間からディーノ殿下の腕から逃げるように外に出た。
とにかく、今は嫌味眼鏡を探さなければ。
あぁ、もう! どうしてこうなった!
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