20 / 22
20 たとえ偽りでも(※バルティ視点)
しおりを挟む
あの後、こちらで掴んでいた以上の噂を流したとされる人間が生徒会室にきた。全て女生徒だった。
思っていたより多い、が、これで全てだと思うほど私は彼女らを信用していない。
横の繋がりを全て吐かせた。それが少し骨が折れた。
「……では、あなた方が噂を流した、ということでよろしいですね?」
「ま、待ってください! 噂は流しましたが……それもこれも、全て殿下とバルティ様を思えばの事です!」
「そうです! 私たちはバルティ様をお慕いしております。なのに、殿下にフラれたのをバルティ様に慰められるなんて……あのユーリカ様は卑劣です!」
これを皮切りに、口々にユーリカへの根拠のない批判が溢れかえる。
あまりに情けない。全校集会を本当に聞いていたのか? と思うほど、まだ彼女たちはユーリカに非があると思っている。
『将来の宰相閣下は腹芸が苦手ですのね』
楽しげに笑った彼女を思い出す。
苦手なわけじゃない。腹芸ではちゃんと伝わらないのではないかと思っていた。
だが、正面から叱りつけても、ディーノが……殿下が頭を下げて見せても、彼女たちにはそれがどれ程の重みか理解すらできないらしい。
分かるように話してやらなければならないようだ。私もまだまだ、学ぶことが多い。
「そうですか……」
私の笑いを含んだ言葉に、彼女たちの聞きたくもない言葉はピタリと止んだ。
ニッコリと笑いかけてやる。見惚れているようだが、今はそんな場合ではないと理解できないらしい。
「君たちの処分は決まっています。一年の留年です。学園を卒業するのは義務ですから、あと一年下の学年の者と学生生活を共になさい。もちろん全校集会で、憶測で噂を流してはならない、と私どもは演説を流しましたが……さて、留年という形になると憶測でもなんでもないでしょう。どんな噂が流れるか、どんな待遇を受けるか……皆さん、よくご存知なのでは?」
「ま、まさか、そんな、噂ひとつで……」
「そ、そうです! 私たちは悪くないです……!」
「留年だなんて……! ひ、ひどいです!」
「だまらっしゃい。あなた方がしたことがそのまま返ってくるだけです。……生徒会長が学園長と陛下にかけあって決めたことですが、何か不満が?」
彼女たちの顔色が悪くなる。中には泣き出したものもいたし、それでよくまぁユーリカ嬢をいじめようと思ったものだ。
私は笑みの表情を崩さず、彼女たちに本当にこれで全員ですか? とたずねた。裏にはもちろん、まだ隠す気があるならなおさら容赦はしないという意志を込めて。
ポツポツと出された名前はこちらで把握している者もいれば、そうでない者もいる。どこまでが嘘か真かはこちらで調べてから、また遅れてくるだろう彼女たちを呼び出さなければならない。
私は処分の口外を禁じ、それが破られた場合……貴族の子息令嬢が学園を退学させられる、というのは前代未聞だが……その可能性もある事を伝えてから外に出した。
「……バルティ。いいのか? 君はこういうのは、あまり得意じゃなかったと思ったが……」
「いつまでも、苦手を苦手にしておくわけにはいきません。……守りたい方がいるので」
「……演技じゃなかったんだな」
「まだ、しばらくは演技ですよ。……彼女の心に負担をかけたくはないですから」
私は取引と言いながら、彼女に近づいた卑劣な男だ。彼女を守ろうとして、逆に彼女に守られてしまった。助けられた。情けない。
私の気持ちが重荷じゃなくなる日まで、幸い彼女は一緒にいる時間を楽しんでくれているようだから……居心地のいい関係でいよう。
もうすぐ夏季休暇がくる。彼女には、少し休んでもらいたいと願う。
思っていたより多い、が、これで全てだと思うほど私は彼女らを信用していない。
横の繋がりを全て吐かせた。それが少し骨が折れた。
「……では、あなた方が噂を流した、ということでよろしいですね?」
「ま、待ってください! 噂は流しましたが……それもこれも、全て殿下とバルティ様を思えばの事です!」
「そうです! 私たちはバルティ様をお慕いしております。なのに、殿下にフラれたのをバルティ様に慰められるなんて……あのユーリカ様は卑劣です!」
これを皮切りに、口々にユーリカへの根拠のない批判が溢れかえる。
あまりに情けない。全校集会を本当に聞いていたのか? と思うほど、まだ彼女たちはユーリカに非があると思っている。
『将来の宰相閣下は腹芸が苦手ですのね』
楽しげに笑った彼女を思い出す。
苦手なわけじゃない。腹芸ではちゃんと伝わらないのではないかと思っていた。
だが、正面から叱りつけても、ディーノが……殿下が頭を下げて見せても、彼女たちにはそれがどれ程の重みか理解すらできないらしい。
分かるように話してやらなければならないようだ。私もまだまだ、学ぶことが多い。
「そうですか……」
私の笑いを含んだ言葉に、彼女たちの聞きたくもない言葉はピタリと止んだ。
ニッコリと笑いかけてやる。見惚れているようだが、今はそんな場合ではないと理解できないらしい。
「君たちの処分は決まっています。一年の留年です。学園を卒業するのは義務ですから、あと一年下の学年の者と学生生活を共になさい。もちろん全校集会で、憶測で噂を流してはならない、と私どもは演説を流しましたが……さて、留年という形になると憶測でもなんでもないでしょう。どんな噂が流れるか、どんな待遇を受けるか……皆さん、よくご存知なのでは?」
「ま、まさか、そんな、噂ひとつで……」
「そ、そうです! 私たちは悪くないです……!」
「留年だなんて……! ひ、ひどいです!」
「だまらっしゃい。あなた方がしたことがそのまま返ってくるだけです。……生徒会長が学園長と陛下にかけあって決めたことですが、何か不満が?」
彼女たちの顔色が悪くなる。中には泣き出したものもいたし、それでよくまぁユーリカ嬢をいじめようと思ったものだ。
私は笑みの表情を崩さず、彼女たちに本当にこれで全員ですか? とたずねた。裏にはもちろん、まだ隠す気があるならなおさら容赦はしないという意志を込めて。
ポツポツと出された名前はこちらで把握している者もいれば、そうでない者もいる。どこまでが嘘か真かはこちらで調べてから、また遅れてくるだろう彼女たちを呼び出さなければならない。
私は処分の口外を禁じ、それが破られた場合……貴族の子息令嬢が学園を退学させられる、というのは前代未聞だが……その可能性もある事を伝えてから外に出した。
「……バルティ。いいのか? 君はこういうのは、あまり得意じゃなかったと思ったが……」
「いつまでも、苦手を苦手にしておくわけにはいきません。……守りたい方がいるので」
「……演技じゃなかったんだな」
「まだ、しばらくは演技ですよ。……彼女の心に負担をかけたくはないですから」
私は取引と言いながら、彼女に近づいた卑劣な男だ。彼女を守ろうとして、逆に彼女に守られてしまった。助けられた。情けない。
私の気持ちが重荷じゃなくなる日まで、幸い彼女は一緒にいる時間を楽しんでくれているようだから……居心地のいい関係でいよう。
もうすぐ夏季休暇がくる。彼女には、少し休んでもらいたいと願う。
3
あなたにおすすめの小説
旦那様は、転生後は王子様でした
編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。
まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。
時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。
え?! わたくし破滅するの?!
しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。
姉の婚約者と結婚しました。
黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。
式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。
今さら式を中止にするとは言えない。
そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか!
姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。
これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。
それどころか指一本触れてこない。
「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」
ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。
2022/4/8
番外編完結
裏ありイケメン侯爵様と私(曰く付き伯爵令嬢)がお飾り結婚しました!
麻竹
恋愛
伯爵令嬢のカレンの元に、ある日侯爵から縁談が持ち掛けられた。
今回もすぐに破談になると思っていたカレンだったが、しかし侯爵から思わぬ提案をされて驚くことに。
「単刀直入に言います、私のお飾りの妻になって頂けないでしょうか?」
これは、曰く付きで行き遅れの伯爵令嬢と何やら裏がアリそうな侯爵との、ちょっと変わった結婚バナシです。
※不定期更新、のんびり投稿になります。
【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
公爵令嬢のフィオレンサ・ブリューワーは婚約者のウェイン王太子を心から愛していた。しかしフィオレンサが献身的な愛を捧げてきたウェイン王太子は、子爵令嬢イルゼ・バトリーの口車に乗せられフィオレンサの愛を信じなくなった。ウェイン王太子はイルゼを選び、フィオレンサは婚約破棄されてしまう。
深く傷付き失意のどん底に落ちたフィオレンサだが、やがて自分を大切にしてくれる侯爵令息のジェレミー・ヒースフィールドに少しずつ心を開きはじめる。一方イルゼと結婚したウェイン王太子はその後自分の選択が間違いであったことに気付き、フィオレンサに身勝手な頼みをする────
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
この悪女に溺愛は不要です!
風見ゆうみ
恋愛
友人がハマっていたゲームの悪役令嬢、ベリアーナ・ノルンに転生してしまった私は、公式のヒーローと言われていたレオン殿下との婚約を幼い頃から阻止しようと頑張ってきた。
努力もむなしく婚約者にされてしまってからすぐ、美少女ヒロインである『愛(ラブ)』が私の通う学園に転入してくると、それからというものラブに夢中になったレオン殿下はことあるごとにラブと私を比較してくるようになる。お互いが婚約を解消したいのは山々だったが、親の反対があってできない。するといつしか、私がレオン殿下をもてあそぶ悪女だと噂されるようになる。それは私の有責で婚約を破棄しようとするレオン殿下とラブの策略だった。
私と同じく転生者のラブは、絶望する私を見たかったようだけれど、お生憎様。悪女はそんなことくらいで凹むような人間じゃないのよ。
婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた
せいめ
恋愛
伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。
大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。
三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?
深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。
ご都合主義です。
誤字脱字、申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる