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21 契約解消
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夏季休暇が明けての初登校日からも、バルティ様は校門で待ってくれていた。どんな日も1日も欠かさず。
私は暫く王都を離れたことで、だいぶ気持ちが回復した。くよくよと悩むのをやめて、剣や乗馬で体を動かして、家族と一家団欒して過ごしたのがよかったようだ。
その間に自覚してしまった。バルティ様に会いたい、と。……バルティ様のことが好きだと。
今は偽りの契約期間。彼も優しくしてくれているが、彼はよくも悪くもまっすぐで……契約だから、なのか、本当は私を想ってくれているのか、逆にわからなくなってしまった。
生徒会の引き継ぎも終わり、夏季休暇明けからはめぐるましく日々は過ぎていく。
何度も、本当はどう思ってるんですか、と聞こうと思った。チャンスはあった。でも、私は自分から恋というものに触れるのが怖くて、優しく細められる眼鏡の下の青い目を失うのが嫌で。
ただ楽しいだけの優しい時間を共有したまま、とうとう卒業パーティーの日が来た。
この日は卒業生は盛装での昼間の登校が義務付けられ、いつもはテーブルと椅子の並ぶ講堂が片付けられ、大きな窓も開け放たれてガーデンパーティーを兼ねるような盛大なパーティーが開かれる。
私は瞳と同じ菫色の、少し大人びたマーメイドランのドレスを着ていた。私にはあまりプリンセスラインのドレスは似合わない。珍しく髪も結い上げ、普段は薄化粧だが恥ずかしくないようにしっかりとメイクもした。
(変だと言われたらどうしよう……)
馬車に揺られながらそんな事を考えていたら、紺色のシンプルなタキシード姿のバルティ様が見えた。
馬車の到着で扉が開けられると、彼は目を見開いてから笑顔になり、白手袋の手で降りるのをエスコートしてくれた。
「とても綺麗です、ユーリカ嬢。……卒業、おめでとうございます」
彼から渡されたのは、紫を中心に据えた大きな花束で。その中の小花は、いつかのはじめてのお茶会で渡された物で。
「……バルティ様」
「行きましょう、ユーリカ嬢。さぁ、お手をどうぞ」
彼からの花束は馬車に残し、くれぐれも大事に飾ってとお願いして馬車を返した。
パーティーは楽しかった。これでみんなと毎日顔を合わせることもなくなると思うと、寂しくもあったし……避けられた時のことを思い出さなくて済むと思ったら、ちょっとだけ安心した。
殿下とファリア嬢も仲睦まじく、4人でお喋りをしたりもした。これからはこうしてなかなか顔を合わせる事も無くなるだろう。ファリア嬢とは、手紙を交わすことも約束した。
殿下は私が殿下を許すまでは謝らないつもりらしい。許して欲しくて謝るのではなく、許されてから誠心誠意謝りたいのです、とファリア嬢にこっそり聞かされた時は、バルティ様と殿下はまさしく従兄弟だわ、と笑ってしまった。
夕暮れ時、卒業生だけが残ったパーティー会場でダンスの時間が始まる。、
私は一人そっと抜け出して、生徒会室にきた。
波乱の1年間だったけれど、バルティ様と仲良くなれた。それが嬉しくて、ダンスはこれから社交会に出ればいくらでも踊れるからと、こっそり見に来てしまった。
今日で契約は解消される。寂しいが、バルティ様はいつも通りだった。それが答えだと……思う。
背後で扉の開く音がする。
振り返ったそこには、バルティ様がいた。
私は暫く王都を離れたことで、だいぶ気持ちが回復した。くよくよと悩むのをやめて、剣や乗馬で体を動かして、家族と一家団欒して過ごしたのがよかったようだ。
その間に自覚してしまった。バルティ様に会いたい、と。……バルティ様のことが好きだと。
今は偽りの契約期間。彼も優しくしてくれているが、彼はよくも悪くもまっすぐで……契約だから、なのか、本当は私を想ってくれているのか、逆にわからなくなってしまった。
生徒会の引き継ぎも終わり、夏季休暇明けからはめぐるましく日々は過ぎていく。
何度も、本当はどう思ってるんですか、と聞こうと思った。チャンスはあった。でも、私は自分から恋というものに触れるのが怖くて、優しく細められる眼鏡の下の青い目を失うのが嫌で。
ただ楽しいだけの優しい時間を共有したまま、とうとう卒業パーティーの日が来た。
この日は卒業生は盛装での昼間の登校が義務付けられ、いつもはテーブルと椅子の並ぶ講堂が片付けられ、大きな窓も開け放たれてガーデンパーティーを兼ねるような盛大なパーティーが開かれる。
私は瞳と同じ菫色の、少し大人びたマーメイドランのドレスを着ていた。私にはあまりプリンセスラインのドレスは似合わない。珍しく髪も結い上げ、普段は薄化粧だが恥ずかしくないようにしっかりとメイクもした。
(変だと言われたらどうしよう……)
馬車に揺られながらそんな事を考えていたら、紺色のシンプルなタキシード姿のバルティ様が見えた。
馬車の到着で扉が開けられると、彼は目を見開いてから笑顔になり、白手袋の手で降りるのをエスコートしてくれた。
「とても綺麗です、ユーリカ嬢。……卒業、おめでとうございます」
彼から渡されたのは、紫を中心に据えた大きな花束で。その中の小花は、いつかのはじめてのお茶会で渡された物で。
「……バルティ様」
「行きましょう、ユーリカ嬢。さぁ、お手をどうぞ」
彼からの花束は馬車に残し、くれぐれも大事に飾ってとお願いして馬車を返した。
パーティーは楽しかった。これでみんなと毎日顔を合わせることもなくなると思うと、寂しくもあったし……避けられた時のことを思い出さなくて済むと思ったら、ちょっとだけ安心した。
殿下とファリア嬢も仲睦まじく、4人でお喋りをしたりもした。これからはこうしてなかなか顔を合わせる事も無くなるだろう。ファリア嬢とは、手紙を交わすことも約束した。
殿下は私が殿下を許すまでは謝らないつもりらしい。許して欲しくて謝るのではなく、許されてから誠心誠意謝りたいのです、とファリア嬢にこっそり聞かされた時は、バルティ様と殿下はまさしく従兄弟だわ、と笑ってしまった。
夕暮れ時、卒業生だけが残ったパーティー会場でダンスの時間が始まる。、
私は一人そっと抜け出して、生徒会室にきた。
波乱の1年間だったけれど、バルティ様と仲良くなれた。それが嬉しくて、ダンスはこれから社交会に出ればいくらでも踊れるからと、こっそり見に来てしまった。
今日で契約は解消される。寂しいが、バルティ様はいつも通りだった。それが答えだと……思う。
背後で扉の開く音がする。
振り返ったそこには、バルティ様がいた。
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