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22 愛の告白は夕暮れの生徒会室で
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「ユーリカ嬢……」
「バルティ様……どうなさいました?」
「貴女こそ。……いえ、きっと同じ理由だと思いますが」
窓辺から校内の中庭を見下ろす。夕陽だけが明かりのこの部屋で、私たちはたくさんの時間を共有してきた。
ここだけじゃない、今では校門から、校舎のあちこちまで、バルティ様との思い出でいっぱいだ。
離れ離れになるのが寂しい。窓ガラスに添えていた手をぎゅっと握って涙を堪える。
「……今日で、約束していた契約は終わりです」
ビクっと、剥き出しの肩が揺れてしまう。言われたくなかった。居心地のいいこの方のそばで、ずっとずっと過ごしたかった。
でも、私たちの契約は終わるのだ。そばにいる資格を無くしてしまう。
真実の愛なんてクソッタレだ、なんて思っていた私が、今はそれをこの方に……バルティ様に言われたくて仕方がない。
「……泣かないでください、ユーリカ嬢。さぁ、ここに座って」
ハンカチを差し出してくれたのを受け取り、ひいてくれた椅子に座る。
副会長として仕事をしていた椅子だ。この椅子ともお別れだ。全てが始まった椅子は、今は生徒会長の机に背を向け、バルティ様の方へ向いている。
涙目の私はハンカチで目端の涙をそっと拭う。そして、バルティ様が私の目の前に跪いた。
勝手に手を取ることはしない。私に向けて手を差し出し、重ねられるのを待っている。
薄く微笑んだ顔は嫌味な所など少しもなく、初めて……王宮のお茶会で初めて出会った時のように、まっすぐ、臆さず、私を見つめてくれる。
恐る恐る手を重ねた。白い絹の長手袋は、夕陽に煌めきながらオレンジ色に染まっている。
「ユーリカ嬢、いえ、ユーリカ。私は貴女を愛しています。どうか、この気持ちを受け止めてください」
手を取る以上の事はしない。真っ直ぐ青い瞳を煌めかせて、私を見てくる。同じくらい真っ直ぐな言葉に、私は胸を詰まらせた。
一緒の気持ちだった。嬉しい。でも、いつから? 私はバルティ様とこうして交流を重ね、花束を貰うまであの日の男の子と重ねることすらできなかったのに。
「ずっと……最初のお茶会から、会うたびに貴女に目が釘付けでした。学園で成績を競うときも、生徒会で仕事をしたときも……契約などと言って貴女の時間を独占しようとした。守りたかった。……上手に守れなかったけれど、次からは間違えません。貴女を守ります、ユーリカ」
「バルティ様……」
「私の愛と誓いを受け止めてもらえますか?」
私は借りたハンカチで涙を拭うと、嬉し泣きを堪えて笑った。これからは、彼に可愛いと言ってもらえるような……凛々しい私ではなく、可愛い私になれるように努力したい。
「もちろんです。私も、貴方を愛しています」
バルティ様の唇が私の手の甲に落ちる。
「一生離してあげませんよ。……ユーリカ、貴女はとても美しく可憐です」
「ふふ、……バルティ様は、いつも真っ直ぐですね」
子供の時から変わらない。
でも、同じくらいだった背丈も肩幅も今ではずっとバルティ様の方が大きい。
私は椅子に座ったまま、目を細めて頰を撫で、こちらに覆い被さる彼を見つめていた。
顔が近づいてくる。夕陽が沈む間際の一際眩しい光の中で私は目を伏せ、彼の唇が自分の唇に重なるのを、受け入れた。
……ずいぶん長く待たせてしまったようだから、この位はね。
苦楽を共にした生徒会室で、初めてのキスをして、私とバルティ様は手を重ねて、階下から微かに聴こえてくる音楽に身を委ねてゆっくりと踊った。
……のちに、夕暮れの生徒会室で告白をすると永遠に幸せに暮らせる、なんて噂が流れたらしいけれど、さて、それは……自分たち次第かな。
「バルティ様……どうなさいました?」
「貴女こそ。……いえ、きっと同じ理由だと思いますが」
窓辺から校内の中庭を見下ろす。夕陽だけが明かりのこの部屋で、私たちはたくさんの時間を共有してきた。
ここだけじゃない、今では校門から、校舎のあちこちまで、バルティ様との思い出でいっぱいだ。
離れ離れになるのが寂しい。窓ガラスに添えていた手をぎゅっと握って涙を堪える。
「……今日で、約束していた契約は終わりです」
ビクっと、剥き出しの肩が揺れてしまう。言われたくなかった。居心地のいいこの方のそばで、ずっとずっと過ごしたかった。
でも、私たちの契約は終わるのだ。そばにいる資格を無くしてしまう。
真実の愛なんてクソッタレだ、なんて思っていた私が、今はそれをこの方に……バルティ様に言われたくて仕方がない。
「……泣かないでください、ユーリカ嬢。さぁ、ここに座って」
ハンカチを差し出してくれたのを受け取り、ひいてくれた椅子に座る。
副会長として仕事をしていた椅子だ。この椅子ともお別れだ。全てが始まった椅子は、今は生徒会長の机に背を向け、バルティ様の方へ向いている。
涙目の私はハンカチで目端の涙をそっと拭う。そして、バルティ様が私の目の前に跪いた。
勝手に手を取ることはしない。私に向けて手を差し出し、重ねられるのを待っている。
薄く微笑んだ顔は嫌味な所など少しもなく、初めて……王宮のお茶会で初めて出会った時のように、まっすぐ、臆さず、私を見つめてくれる。
恐る恐る手を重ねた。白い絹の長手袋は、夕陽に煌めきながらオレンジ色に染まっている。
「ユーリカ嬢、いえ、ユーリカ。私は貴女を愛しています。どうか、この気持ちを受け止めてください」
手を取る以上の事はしない。真っ直ぐ青い瞳を煌めかせて、私を見てくる。同じくらい真っ直ぐな言葉に、私は胸を詰まらせた。
一緒の気持ちだった。嬉しい。でも、いつから? 私はバルティ様とこうして交流を重ね、花束を貰うまであの日の男の子と重ねることすらできなかったのに。
「ずっと……最初のお茶会から、会うたびに貴女に目が釘付けでした。学園で成績を競うときも、生徒会で仕事をしたときも……契約などと言って貴女の時間を独占しようとした。守りたかった。……上手に守れなかったけれど、次からは間違えません。貴女を守ります、ユーリカ」
「バルティ様……」
「私の愛と誓いを受け止めてもらえますか?」
私は借りたハンカチで涙を拭うと、嬉し泣きを堪えて笑った。これからは、彼に可愛いと言ってもらえるような……凛々しい私ではなく、可愛い私になれるように努力したい。
「もちろんです。私も、貴方を愛しています」
バルティ様の唇が私の手の甲に落ちる。
「一生離してあげませんよ。……ユーリカ、貴女はとても美しく可憐です」
「ふふ、……バルティ様は、いつも真っ直ぐですね」
子供の時から変わらない。
でも、同じくらいだった背丈も肩幅も今ではずっとバルティ様の方が大きい。
私は椅子に座ったまま、目を細めて頰を撫で、こちらに覆い被さる彼を見つめていた。
顔が近づいてくる。夕陽が沈む間際の一際眩しい光の中で私は目を伏せ、彼の唇が自分の唇に重なるのを、受け入れた。
……ずいぶん長く待たせてしまったようだから、この位はね。
苦楽を共にした生徒会室で、初めてのキスをして、私とバルティ様は手を重ねて、階下から微かに聴こえてくる音楽に身を委ねてゆっくりと踊った。
……のちに、夕暮れの生徒会室で告白をすると永遠に幸せに暮らせる、なんて噂が流れたらしいけれど、さて、それは……自分たち次第かな。
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14話 ディーノの最後の方の大言壮厳ですが大言壮語の間違いではないでしょうか。
ありがとうございます!
修正しました!
完結おめでとうございます!
ありがとうございます!
甘酸っぱくて、それだけでもなくて、大人の階段を登る段階の青春に乾杯♪的な感覚で読んじゃいました(*´ω`*)