執着系男子の6つの物語

栗原さとみ

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story.6 「眠り姫~こう見えて私まだ眠っていないんです!」

「受付の新垣さんの話、聞きましたか?」
「あぁ、びっくりだよな。彼女ずっと眠ったままなんだって?」
「いえ、私が聞いた話だと、ずっとではないみたいですよ。目が覚めてる時もあるとか……。」
「そうなのか?でも、あの受付の新垣さんが眠ったままになったなんて話、衝撃だよな。おっと、神崎課長がこっちのエレベーターに向かって来るぞ。紺野、扉が閉まってしまうじゃないか、早く『開』ボタンを押して。」

 上司が近づいてきた為、エレベーターの『閉』のボタンに手をかけた後輩にドアを開けるように慌てて促した。

「おはようございます」
「おはようございます」

「おはよう」

 相変わらずの完璧なルックスの神崎だが、何が原因なのか、人々を魅了するその瞳に陰りがあるような、セクシーな口元に憂いがあるような、男女を問わず誰の目から見てさえも慰めてあげたくなるほど寂しげな表情が見てとれ、切なく思われた。





 ついさっき眠りについた娘妃芽の枕元の椅子に腰掛けて、母親の直美は呟いた。

「妃芽、今日は12時間起きていられたわね。12時間だけでもお母さんは嬉しかったわ。でも、起きている時はあんなに普通なのに、一体どうしてなのかしら。こう見ていても、普段の睡眠と全く変わらないのに。」

 一週間前、会社から帰ってきた妃芽は、「ただいま。すごく身体が重くて眠いの、今日はお風呂入ったらすぐに眠るね。」と言って、結局そのときは14時間も眠ったまま起きなかった。当然会社に遅刻し、お昼過ぎに謝罪の電話をしたが、社会人として酷い失態を犯してしまったと落ち込んでいた。
しかし、やってしまった事はもうどうにもできない。土日の二日間を休んで来週から頑張ろうとした決意もむなしく、あの日から妃芽は、10~12時間起きていると、またすぐに眠くなってしまう体になってしまったようだ。週明けも出勤はできないと判断して、しばらくの間、妃芽は貯まった有給休暇をとる事になったのだった。





 最初に眠くなるという異変が起きた日の会社帰りに、妃芽はダイエットの為の耳ツボ押しに行った。耳ツボの施術は3回目だったので、これが原因とは考えにくい。その後は帰って夕食をとり、サプリメントを飲んだ。これも服用し始めてから2週間位は経過しているはずだったので、直接の原因ではないだろう。

 けれど、重い身体を堪えながら入浴を済ませベッドに横たわったものの、意識はそのままでなかなか睡眠の状態にならなかった。そのくせ、身体は重く、瞼ひとつ動かすことはできないのだ。そのまま3~4時間してようやく深い眠りについた。

 約14時間後に目覚めた時には心身ともにスッキリしていた妃芽は、またそのたった8時間後に、昨夜と同じ状態になるとは想像もしていなかった。

 急に眠気が来てしまう為、出勤することはできない。

 寝ている時間が長い為、起きた時に軽いストレッチをしたり、食事をしたり入浴したり、貯まった着信履歴に返信したりしているうちに、あっという間にまた眠気が襲ってくる。そのくせ、ベッドに入っても3、4時間は意識はあるのに身体が全然動かせないので、無駄な時間を過ごしている気がしてならない。 
 寝つくまでの長い時間に、しばらくの間会えていない恋人の神崎のことを想い続けていた。

(神崎さんと会いたいな……。)





───神崎と初めて会ったのは4年前。

 妃芽はちょっとぽっちゃり体型だが、愛嬌のある顔立ちと性格で、一部の人達には受付の癒し姫などと言われていた。
 受付カウンターからエントランスに目をやると、警備と揉めている長身の男性が見えた。A4サイズほどの白い封筒を手にしているが、Tシャツにチノパンという服装では、さすがに警備は止めても仕方ないかもしれない。ただ、白い封筒がとても気になってしまい、妃芽はエントランスに小走りに向かった。
「内村さん、お疲れさまです。」
「新垣さん、危ないので下がってください。この男の身体検査がまだですから。」
「おい、急ぎだって言ってるだろう。今連絡入れるから……」

「あ、おい、何を出す気だ!」
 チノパンのポケットに入れようとしていた男の手を、警備の内村がガシッと押さえる。

「内村さん、やめてください!この人の持ってる封筒、急ぎで届けられる予定だった物かもしれません。連絡させてあげてください!」

 持ってくる人の服装は意外だったが、急ぎの書類がある事は聞いていたので、連絡してもらう必要はあると思った。

 警備の手が緩んだ瞬間、スマホを取り出して電話をかけてすぐに相手に繋がったようだった。
「申し訳ない、Tシャツという軽装でエントランスにいる。警備の人に代わるから説明してくれないか。」
 
 男は警備の内村にスマホを手渡す。

『警備の内村さんだね?営業部の田所だ。申し訳ない、そのTシャツの男は今度赴任してくる新しい部長の神崎君だ。頼んであった封筒を届けてもらうように頼んでおいたんだが、まさか不審者に間違われるような格好で来るとは思っていなくてね。だが話を通しておかなかった私の責任だ。本当に申し訳ない。』

「こちらの方は神崎新部長でしたか。大変失礼致しました。」

「いや、内村さんの行動に落ち度はないよ。内村さんと受付の新垣さんのおかげで私のミスも大事にならずに済んだよ。」

 警備の内村は、恐縮しながら「神崎新部長に代わります」と言ってスマホを返した。妃芽は、「お疲れ様でした」と言って受付へと戻って行った。

(新しい部長は神崎さんっていうのね。ラフな格好をしていてもかなりの美形だったな。)

 神崎部長との出会いから約一ヶ月後、神崎は、スーツ姿で紙袋を持って妃芽のいる受付を訪れた。

「明日1日付けでこちらに異動になった神崎です。明日の朝は慌ただしくなるからと思ってね。先日は迷惑をかけて申し訳なかったね。これはお詫びのチョコレート。口に合うといいんだけど、良かったら皆さんで食べて。」

「わあ、いいんですか?ありがとうございます。」

 先にそう言ったのは、受け取った妃芽ではなく、妃芽の隣にいた同じ受付の有村佳苗だったが、妃芽も慌てて「ありがとうございます」とお礼を口にした。

「明日からはAI受付になるので、私達二人が受付で対応するのは今日が最終日なんです。当面の間は、私達は総務のフロアにいる事が多くなると思います。営業部へも研修でいずれ伺う事になるかもしれません。改めまして明日からもよろしくお願いします。」



《このページはまだ続きます》R8.1.24更新中





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