愛され令嬢は白金毛猫

栗原さとみ

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番外編1(ジェイドversion)

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親友のクラウスが結婚して3年が過ぎ、俺ジェイドは29歳になった。相変わらず独身なのだが、以前と変わった事がいくつかある。すべてクラウスとその奥さんのユーリア、もうすぐ2歳の愛息子のセルウスの影響だ。

─────

「セル(セルウス)?、ジェイ(ジェイド)はこれからお仕事なのよ?お土産を持ってちょっと寄ってくれただけで、とっても忙しいの。聞き分けて?」

「ジェイと、一緒、遊ぶ。ジェイ~」

「もう…。セルったら。ジェイド様ごめんなさい。」
ユーリアは、ジェイドからセルウスを引きはがし、抱き上げた。

「いや、いいんだ。時間はあまりないけどセルに会いたかったからね。またすぐに遊びに来るよ。」
くしゃっと笑顔になり、セルウスの頭をよしよしと撫でる様子に、ユーリアは花のように微笑んだ。

(ジェイド様、かつては絶えず女性の香りを漂わせていた名うての女たらしだったけど、今ではすっかり女の影もなくセルのいいお兄さんになっちゃったわ…。)

「ジェイ、すぐ、来てね。」

「おう、いい子にしてるんだぞ?」

「うん、僕いい子だよ。ジェイ、バイバイ」
年のわりにしっかりした口調で約束を取りつけて、機嫌よくバイバイをするセルウス。

手をふって出て行ったジェイドの後ろ姿を見ながら、ユーリアは考え事をしていた。
セルの面倒を見て一緒に遊ぶ姿は、すぐにでもパパになれそうな程さまになっている。しかも、以前はクラウスと比べるとチャラい分結婚には向かないと思われた性格も、今ではすっかりナリを潜め、欠点の見つからない、面倒見の良く格好の良い独身の騎士様だ。

後はジェイドがその気になって、相手さえ見つかれば、すぐにも自分の家庭を持って家族と幸せになれるのではないか。ユーリアは、クラウスの親友ジェイドにも、そんな日が近々訪れるような予感がしてならなかった。


・・・

ある日の休日、ジェイドはとある店に来ていた。
王室や貴族の御用達のこの店は、なぜか町から離れた場所にあり、その店主の女性は、異世界から来たという。黒髪黒目のこの店主が取り扱う商品は、とても珍しく便利という事もあり、辺鄙な場所にあるのだが、開店した2年前からジェイドは何度も足を運んでいる。
ちょうどユーリアに赤ちゃんが生まれるタイミングと重なり、おくるみ、スタイ、スリング、授乳ケープ…と、様々な贈り物を買う事ができ、とても便利だったと夫婦に喜ばれた。

「いつもお買い上げありがとうございます。今日はどんなものをお探しですか。いつも男の子用の贈答品をお求めですよね。」

「覚えていてくれたんだね。実は親友の子に贈っているんだ。もうすぐ2歳だから、今日はその誕生日プレゼントをね。」

「まあ。甥っ子さんへの贈り物かと思っていました。お友達思いなんですね。」

「それがすごく可愛くてさ。ハハ、何か喜びそうな玩具とかないかな。」

「そうですねぇ。2歳だと…。これとか、これとか…。」

手作り感のあるものを数品出して、瞳を輝かせながら説明し始める店主。おくるみなどもそうなのだが、店の商品はどうやらこの店主が製作して販売しているらしい。若そうに見えるが子どもがいるのだろうか…と、ジェイドは店内をキョロキョロと見渡し想像した。

「では、これとこれを包んでくれ。」

「はい、ありがとうございます。少々お待ち下さい。」

店主はそう言って店内のテーブル席にジェイドを案内し、飲み物を置いてから商品を包装し始めた。
不思議な女性だな…と、ジェイドは包装する店主を眺めていた。ここ2年位、女と全く遊んでいない。以前は途切れることなく(下手をするとかぶって)いた彼女候補の女性とは全員お別れをしたばかりか、告白されても全て断っている状態だ。

「質問してもいいかな。」
ジェイドは店主の女性に声をかけた。

「はい、どのようなご質問ですか。」

「店内の商品はあなたの考えた手作りのものなのかな。」

店主の女性は、少しはにかんだ様子で答えた。
「考えたというか…。実は私は異世界から来たのです。」

そう切り出して始まった話は、想像を超えていた。

「私がいた世界では、色々な便利な道具や機械や品物が大量に生産できたんです。
2年程前、隣の国で聖女を召喚する儀があったのですが、私は巻き込まれ召喚されてしまい、この世界にやって来まして…。」

「巻き込まれ召喚だって?そりゃビックリしただろう。」

「ええ、それはもう…!色々な事情があり、隣国のこの国で店を出す事になり、私に負い目がある隣国の役人達は、店や必要な道具一式を揃えて送り出してくれました。

元の世界では、私には年の離れた姉がいて、甥と姪の面倒をよく見ていたので、あると便利だろうなと思うものを作って売る事にしたんです。」

「そうだったのか…。うん、色々と納得したよ。ここで買って贈ったおくるみや授乳ケープ、とても便利だって喜ばれたんだよね。そうか、お姉さんがいたのか…。」

「だからお客様も甥っ子さんがいらっしゃるのかなって…。」

「ジェイド。」

「え?」

「ジェイドって呼んでくれないかな。」

「でも、大事なお客様にそんな…」

「こんなに色々話したんだから、もう友達だろう?あなたの名前も教えて欲しい。」

イケメンスマイルで迫られ、店主は恥ずかしそうに頬を染めて答えた。

「ではジェイド様、私はリコです。」

「リコさん、また来るから。今日は話せてよかったよ。」

スマートに手を握り、よろしくと爽やかに笑うジェイドに、(この人絶対モテる)とリコは確信していた。

「ジェイド様、お待ちしています。」

「あはは、リコさん、敬語もなしだよ。次に来る時までに直しておいてね。」

赤くなる顔を隠したい気持ちを抑えながら、リコはジェイドを見送った。
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