その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は馬車の中でも学ぶことを知る ③

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ターランド伯爵家当主の馬車は夫人の馬車よりも一回りは大きく、普通の大人で六人は乗れる物であるため、主人であるロフェナの他、カラとアーウェン、そしてロフェナが一緒に乗ってもまだ余裕があった。
特に体の細いアーウェンは手に持った枝と変わらないように思え、憐れみと愛おしさという色の違う感情が湧き上がってくる。
よほどその枝が気に入ったのか何故かずっと握っているが、もうそろそろ違うものを持たせたい。
「では馬車の中は揺れますから、ここでは昨日書いた文字の読み方を覚えましょう」
「よみ……かた……」
アーウェンがキョトンとした顔でクレファーが取り出すカードを見ている。
昨日教えた『カードに書かれているのは物とその名前の綴りと数字』ということが、すっぽりとその頭から抜けているのは、単純に文字を『くねくねとした線の組み合わせ』と思っているからかもしれない。
「昨日、アーウェン様はエレノア様と一緒にご本を読んでもらいましたね?」
「はい」
「その時、ラリティスさんがどうやってあの本を読んでいたと思いますか?」
「どう……?」
アーウェンは本の絵とラリティスの話していたことが結びついていたことに気が付いていないのか、絵本を選んだ時のことからゆっくり思い出しているらしい。
「絵本にも『文字』が書いてあったのは、覚えていますか?」
あったろうか──アーウェンがやはり一生懸命考えこんでいるのは、『文字』をまだ絵の一種だと思っているからかもしれなかった。
「絵本にはこのカードと同じように文字が書いてあります。ひとつひとつは意味がありませんが、組み合わせることによって『物の名前』や意味が繋がる『文章』となります。そしてそれを覚えると、アーウェン様がエレノア様に絵本を読んであげることができます」
「ノアに……?ぼくが……?」
クレファーの言うことを黙って聞いていたアーウェンは、最後の一言にハッとしたようにしっかりとクレファーを見、カラを見、笑顔で頷かれるとそれが本当だということを理解した。
「ぼく……読んで、あげたい……」
はにかみながらアーウェンの顔に『学びたい』という意思が浮かぶのを見て、クレファーはもとより、その指導をじっと見守っていたラウドも満足そうに頷いた。


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