187 / 436
第一章 アーウェン幼少期
少年は馬車の中でも学ぶことを知る ③
しおりを挟む
ターランド伯爵家当主の馬車は夫人の馬車よりも一回りは大きく、普通の大人で六人は乗れる物であるため、主人であるロフェナの他、カラとアーウェン、そしてロフェナが一緒に乗ってもまだ余裕があった。
特に体の細いアーウェンは手に持った枝と変わらないように思え、憐れみと愛おしさという色の違う感情が湧き上がってくる。
よほどその枝が気に入ったのか何故かずっと握っているが、もうそろそろ違うものを持たせたい。
「では馬車の中は揺れますから、ここでは昨日書いた文字の読み方を覚えましょう」
「よみ……かた……」
アーウェンがキョトンとした顔でクレファーが取り出すカードを見ている。
昨日教えた『カードに書かれているのは物とその名前の綴りと数字』ということが、すっぽりとその頭から抜けているのは、単純に文字を『くねくねとした線の組み合わせ』と思っているからかもしれない。
「昨日、アーウェン様はエレノア様と一緒にご本を読んでもらいましたね?」
「はい」
「その時、ラリティスさんがどうやってあの本を読んでいたと思いますか?」
「どう……?」
アーウェンは本の絵とラリティスの話していたことが結びついていたことに気が付いていないのか、絵本を選んだ時のことからゆっくり思い出しているらしい。
「絵本にも『文字』が書いてあったのは、覚えていますか?」
あったろうか──アーウェンがやはり一生懸命考えこんでいるのは、『文字』をまだ絵の一種だと思っているからかもしれなかった。
「絵本にはこのカードと同じように文字が書いてあります。ひとつひとつは意味がありませんが、組み合わせることによって『物の名前』や意味が繋がる『文章』となります。そしてそれを覚えると、アーウェン様がエレノア様に絵本を読んであげることができます」
「ノアに……?ぼくが……?」
クレファーの言うことを黙って聞いていたアーウェンは、最後の一言にハッとしたようにしっかりとクレファーを見、カラを見、笑顔で頷かれるとそれが本当だということを理解した。
「ぼく……読んで、あげたい……」
はにかみながらアーウェンの顔に『学びたい』という意思が浮かぶのを見て、クレファーはもとより、その指導をじっと見守っていたラウドも満足そうに頷いた。
特に体の細いアーウェンは手に持った枝と変わらないように思え、憐れみと愛おしさという色の違う感情が湧き上がってくる。
よほどその枝が気に入ったのか何故かずっと握っているが、もうそろそろ違うものを持たせたい。
「では馬車の中は揺れますから、ここでは昨日書いた文字の読み方を覚えましょう」
「よみ……かた……」
アーウェンがキョトンとした顔でクレファーが取り出すカードを見ている。
昨日教えた『カードに書かれているのは物とその名前の綴りと数字』ということが、すっぽりとその頭から抜けているのは、単純に文字を『くねくねとした線の組み合わせ』と思っているからかもしれない。
「昨日、アーウェン様はエレノア様と一緒にご本を読んでもらいましたね?」
「はい」
「その時、ラリティスさんがどうやってあの本を読んでいたと思いますか?」
「どう……?」
アーウェンは本の絵とラリティスの話していたことが結びついていたことに気が付いていないのか、絵本を選んだ時のことからゆっくり思い出しているらしい。
「絵本にも『文字』が書いてあったのは、覚えていますか?」
あったろうか──アーウェンがやはり一生懸命考えこんでいるのは、『文字』をまだ絵の一種だと思っているからかもしれなかった。
「絵本にはこのカードと同じように文字が書いてあります。ひとつひとつは意味がありませんが、組み合わせることによって『物の名前』や意味が繋がる『文章』となります。そしてそれを覚えると、アーウェン様がエレノア様に絵本を読んであげることができます」
「ノアに……?ぼくが……?」
クレファーの言うことを黙って聞いていたアーウェンは、最後の一言にハッとしたようにしっかりとクレファーを見、カラを見、笑顔で頷かれるとそれが本当だということを理解した。
「ぼく……読んで、あげたい……」
はにかみながらアーウェンの顔に『学びたい』という意思が浮かぶのを見て、クレファーはもとより、その指導をじっと見守っていたラウドも満足そうに頷いた。
27
あなたにおすすめの小説
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる