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証拠
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「と…とりあえず。うん。僕の立てた作戦は失敗した。というより、本当に最初は見もせずに追い返されるところだった。一度は目を通してくれたってことだから、何かしら影響があることを祈りたい……けど、あまり時間がない」
「そうね。アタシも新学期が始まってからもいろいろ絡まれるのは、はっきり言って遠慮したい。リオンと一緒にいるとルエナ様が…とか言って、さもルエナ様が遠回しに嫌がらせをしているって思い込ませようとしているのも腹が立つ」
「……それについては、私はもう学園を卒業してしまって王宮にいる際の側近勤めだから、あいつがそんなことをしているはずがないと思っても、その証拠を集めてみせることができないしな……」
「それはまさしく『悪魔の証明』ね」
「ああ、『やっていないという証拠は、やっていないというのが事実である限り、証拠を提出することができない』ってやつだよね」
「……そんなものがあるのですね」
やはりリオン王太子とシーナ嬢のやり取りに付いていけず、アルベールはそういうこともあるのかと納得するしかない。
「うーん……例えばね?」
そう断ると、シーナ嬢はたとえ話を持ち出し、アルベールに説明した。
もし誰かがシーナ嬢への虐めに対して『ルエナ嬢が嫌っているからやれと命令された』という証言をした場合、伝言ゲームのように幾人もその虐めの命令を伝えれば、いつの間にか真犯人がうやむやになってしまうこともあるし、真犯人が判明しても『ルエナが自分と二人っきりの時にそうしろと言った』と言われてしまえば、ルエナがどんなに否定しようとしても「言わなかった」という証言を得ることはできない。
しかもルエナがシーナを見下し嫌っているという部分においては、まったくの嘘ではないのだ。
「なるほど……確かに、それは『悪魔の証明』と表現せざるを得ないものですね……」
妹がどう言おうと悪者にされてしまう。
ようやくそのことに思い当たったらしいアルベールは、顔を顰めた。
だからこそ婚約者であるリオン王太子も、実兄であるアルベールも、シーナ嬢に危害を加えようとしているのがルエナ嬢ではないと知っていると、文書に残し、さらにそれをルエナ嬢が理解せずとも目を通しているという事実を残しておくべきだと考えたのである。
「だいたい嫌っている相手を排除するって、アタシの方が身分が下なんだから、無視すりゃいい話なのよね?実際そうしてるし。ルエナ様から話しかけられたことってないわよ?少なくとも学園に入ってからは」
「え?ルエナがあなたに対してそんな……失礼なことを」
「え!?それは違うからね?アル、それは間違っちゃいけない。公爵令嬢が親しくもない子爵家の娘に、嫌がらせじゃないにしても、簡単に声を掛けたらだめよ。用事があるなら別。それだって、例えば学園内の仕事を一緒にやるための潤滑油として会話や交際が必要っていう時や、単に友達になったっていう場合は身分差があったっていいと思うの、仲良くするのは。でもアタシの養子先が公爵家なら、ルエナ様も嫌々ながらちゃんと挨拶をしたり、それなりに交流してくれたと思う。でも王太子妃と侍女っていう関係でもない限り、ルエナ様とアタシが交わることなんか、本来ないでしょう?さらに養女っていう立場がなかったら、直接どころかお付きの下の下の人から伝言で声を掛けられる立場だよ?平民なんだから」
「し、しかし……」
もっともシーナ自身も、学園の中では『身分差別を禁じる』という建前の規則があることはわかって言っている。
それを踏まえても、やっぱり嫌っているからといって虐めをしてはいけないと思うのだ、未来の王太子妃やどこかの高位貴族の嫁になるはずの令嬢が。
「そうね。アタシも新学期が始まってからもいろいろ絡まれるのは、はっきり言って遠慮したい。リオンと一緒にいるとルエナ様が…とか言って、さもルエナ様が遠回しに嫌がらせをしているって思い込ませようとしているのも腹が立つ」
「……それについては、私はもう学園を卒業してしまって王宮にいる際の側近勤めだから、あいつがそんなことをしているはずがないと思っても、その証拠を集めてみせることができないしな……」
「それはまさしく『悪魔の証明』ね」
「ああ、『やっていないという証拠は、やっていないというのが事実である限り、証拠を提出することができない』ってやつだよね」
「……そんなものがあるのですね」
やはりリオン王太子とシーナ嬢のやり取りに付いていけず、アルベールはそういうこともあるのかと納得するしかない。
「うーん……例えばね?」
そう断ると、シーナ嬢はたとえ話を持ち出し、アルベールに説明した。
もし誰かがシーナ嬢への虐めに対して『ルエナ嬢が嫌っているからやれと命令された』という証言をした場合、伝言ゲームのように幾人もその虐めの命令を伝えれば、いつの間にか真犯人がうやむやになってしまうこともあるし、真犯人が判明しても『ルエナが自分と二人っきりの時にそうしろと言った』と言われてしまえば、ルエナがどんなに否定しようとしても「言わなかった」という証言を得ることはできない。
しかもルエナがシーナを見下し嫌っているという部分においては、まったくの嘘ではないのだ。
「なるほど……確かに、それは『悪魔の証明』と表現せざるを得ないものですね……」
妹がどう言おうと悪者にされてしまう。
ようやくそのことに思い当たったらしいアルベールは、顔を顰めた。
だからこそ婚約者であるリオン王太子も、実兄であるアルベールも、シーナ嬢に危害を加えようとしているのがルエナ嬢ではないと知っていると、文書に残し、さらにそれをルエナ嬢が理解せずとも目を通しているという事実を残しておくべきだと考えたのである。
「だいたい嫌っている相手を排除するって、アタシの方が身分が下なんだから、無視すりゃいい話なのよね?実際そうしてるし。ルエナ様から話しかけられたことってないわよ?少なくとも学園に入ってからは」
「え?ルエナがあなたに対してそんな……失礼なことを」
「え!?それは違うからね?アル、それは間違っちゃいけない。公爵令嬢が親しくもない子爵家の娘に、嫌がらせじゃないにしても、簡単に声を掛けたらだめよ。用事があるなら別。それだって、例えば学園内の仕事を一緒にやるための潤滑油として会話や交際が必要っていう時や、単に友達になったっていう場合は身分差があったっていいと思うの、仲良くするのは。でもアタシの養子先が公爵家なら、ルエナ様も嫌々ながらちゃんと挨拶をしたり、それなりに交流してくれたと思う。でも王太子妃と侍女っていう関係でもない限り、ルエナ様とアタシが交わることなんか、本来ないでしょう?さらに養女っていう立場がなかったら、直接どころかお付きの下の下の人から伝言で声を掛けられる立場だよ?平民なんだから」
「し、しかし……」
もっともシーナ自身も、学園の中では『身分差別を禁じる』という建前の規則があることはわかって言っている。
それを踏まえても、やっぱり嫌っているからといって虐めをしてはいけないと思うのだ、未来の王太子妃やどこかの高位貴族の嫁になるはずの令嬢が。
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