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反抗

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そのままルエナの部屋のカーテンが開かれることはなく、晩餐になっても現れるつもりはないという伝言がサラからスチュアートに告げられた。
「……皆様、ひどいです。ルエナ様のお気持ちも考えられず……少しでもルエナ様に寄りそわれる気持ちがあるのならば、あのような王太子殿下にも次期様にも良い顔をされるような軽薄な女を隣室に置かれるようなことは、絶対されるべきではありません!早くお考え直していただければ……」
「で、君をまた元の部屋に戻せ、と?」
クッと悔しそうな顔をしてみせるサラは、いかにもルエナ嬢に忠実な専属侍女であるような態度だが、その心の底にあるものをスチュアートは正しく把握し指摘した。
そしてその言葉にサラはサァッと顔を青褪めさせたが、他の公爵令嬢から推薦されてルエナの側に侍ることができたのに、未熟であることを家令が嘆いていることに気付かず、引き攣った声での返事しかできない。
「……はっ…ヒッ……」
「決定はすべてご当主であられるディーファン公爵閣下が下されること。お嬢様のお気持ちも考慮されることはあろうが、この度の移動及び子爵令嬢をお嬢様のお側に置かれるというのは、王太子殿下からのたっての願いと共にご主人様も奥様もそして次期様も、ルエナ様のご偏見を矯正したいとのお考えを持っていらっしゃる。そこに我々使用人の私見が介在する余地はない。余計なことはたとえ使用人同士であっても漏らさないように……年季が明けるまでこのお屋敷にいたければ」
てっきり上級使用人同士、優しく宥めてもらえると思ったのに、家令は新人であるサラに対してきつく冷たい口調で釘を刺し、とりあえず『お嬢様からの伝言』だけを家族と子爵令嬢の下に運んだ。


子供っぽい我儘や駄々を捏ねているだけだというのは理解している。
だが五歳から十二歳まで、厳しい礼儀作法やダンス、淑女として厳しい勉強や躾を叩き込む女家庭教師を付けられ、彼女の言うことすべてを理解し学び、『王家に嫁ぐ公爵令嬢としてあり得ない考え』として『付き合ってはいけない低位貴族は寄せ付けない』という態度もきちんと身につけてきたはずだ。
父も母も、そして兄までも、低位貴族どころか爵位を持たない人間にまで心を配らねばならないのだと言っていたが、家庭教師の意見は違い、それは男性的な付き合いや仕事のための心得で、女性は自分より身分が低すぎる者を近付けるのは自分自身の価値を貶めるのだと言っていた。
そして両親も『先生の言うことは絶対だから、きちんと言うことを聞くように』と言っていたではないか。
だからその通りにしていたのに──

ルエナは悶々としながら寝室にあるティーテーブルに用意させた間食をつまみつつ、矛盾したことを言い続ける両親や兄に腹を立て、絶対子爵令嬢と顔を合わせるものかと休暇中は自分の寝室に籠城することを決意した。
食べているのはサラが用意させた先ほどのひと口サンドイッチではなく、もう少し豪華なアフタヌーンティーセットである。
テーブルの上に用意された食べ物を見たサラの顔が歪むが、ルエナにしてみればそれを気に掛ける必要はないので、何の感慨もなく無視をした。
ルエナ自身に悪気はない──だが使用人といえど他家の令嬢に微かな憎悪を抱かせるきっかけを作ったことに気が付かないのは、家政を預かる女主人になるかもしれない令嬢としては、まさしく『敵』に足元を掬われかねない失態と捉えられてもおかしくない。
ここで一言謝意を示していればいいものを、ルエナは公爵令嬢として正しい態度・・・・・・・・・・・・を取ったのだと思っていた。


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