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衝突

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嫡男であるアルベールは幼い頃から文より武を得意とする男児だったため、その申し出に父であるランベール・ムント・ディーファン公爵は疑問に思ったが、贈る相手が画家の息子──本当は娘であるが、『王太子とも面識のある画家の子供』と聞いて、いったんは拒絶したその頼みを受け入れた。
王族からの覚えを良くしたいという下心がなかったわけではないが、その画家が描いたルエナの絵姿が王太子第一王子のための婚約者選定で残り、ついにはその座を射止めたのだから先見の明があったとも言える。
「今でも王太子様はその絵姿を大切に保管されていると、次期様がおっしゃっていましたねぇ……王族はなかなか平民のように色恋で婚姻相手を選べるわけではありませんから」
「そう……なの……」
だが、それならばなぜ学園では、王太子はルエナと距離を置くようになったのだろうか?

シーナ・ティナ・オインという下位である子爵貴族令嬢が現れる前もそれほど交流があったわけではないが、少なくとも彼女だけは特別に側に侍らせ、しかも学園内での王太子付き侍従役の高位貴族の子息たちにも馴れ馴れしくしていると、ルエナに教えてくれる者たちは後を絶たなかった。
でも何故──少なくともシーナ嬢以外の令嬢を側に侍らせたという噂は聞いたことがなく、逆にどうやったら王太子の目に留まるかと相談しあっている令嬢を何人も見たことはある。
むろんルエナにそのような相談を持ちかけるような鋼の精神を持つ者はいなかったが、鋼の棘を持って攻撃してくる者はいた。
「あぁら、ディーファン公爵令嬢……今日もおひとり・・・・ですの?」
「ごきげんよう、ティアム公爵令嬢。ええ、これから王宮へ参りますの」
ふたりは犬猿の仲というほど親しくもなかったが、何故かこのティアム公爵家の第二息女はいつも攻撃的な口調でルエナを家名で呼ぶため、ルエナもそれなりの対応として絶対に名前を呼ぶまいと決めていた。
「……先ほどリオン王太子殿下が、下品なオイン子爵令嬢を連れて歩いていらっしゃるのを見ましてよ?まだ学園に慣れていらっしゃらないのかしら?それとも……すでに次の婚約者候補として、顔見せをされていらっしゃるのかしら?ああ、それとも側妃として迎えられるためのお披露目かしら?それはこの国ではありませんわね?ひょっとすると、近々ルエナ様が自由の身になるということかしら?」
「……そのような戯言はどなたからの者でしょう?少なくとも王妃様よりそのようなお言葉はいただいておりませんわ。ティアム公爵家の第二令嬢より先触れをちょうだいしたと申し伝えますわ」
「……ック……ま、まぁ!王太子ご婚約者であらせられるルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢ともあろうお方が、『戯言』を王妃殿下にお伝えするのですか?何と狭量なこと!」
ホホホと高笑いをしてティアム公爵令嬢はごきげんようと言いながら消えてくれたが、筆頭公爵家であるティアム家の者にまで、王太子の愚行が伝わっているというのはあまり好ましくはない。

だから忠告を侍女に持たせたのに──

けっきょく王太子の行いは改まらず、こうしてルエナは追いつめられているのだ。


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