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故意
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ルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢が休暇中に体調を崩した為に新学期になっても登園しないという事実は、シーナ・ティア・オイン子爵令嬢が危険にさらされることがなくなったということであるが、同時にリオン・シュタイン・ダンガフ王太子殿下と行動を共にすることを阻止できないということでもある。
学園に上がる前の年少のきょうだいならばともかく、リオンとシーナは時折り婚約者でも人前では見せないような近付き方をした。
そこに恋愛感情はなくとも、見る者が見れば邪推されること間違いなしの行動だが、それはもちろんふたりとも承知の上である。
「……そういう言えば、日本でもかなり昔って『男女七つにして机並べず』だっけ?」
「『席を同じうせず』じゃなかった?とにかく一緒の部屋にいちゃいけないとか、隣あって座っちゃいけないとか……まあかなりどころじゃない昔は御簾越しでしか対面できなかったとか、代弁するお付きがいたとか」
「ああ!源氏物語の挿絵とかね。平安ファンタジー……そっちに転生してたら、それはそれで楽しそう」
「いや、女の自由度半端なく無いから!今のお前だったら、お転婆どころじゃなく幽閉案件じゃね?てか、姫転生限定かよ!」
訳の分からない単語がズラズラ早口で出てきているから、後ろから数歩離れて付いてくる五人の学園側近たちには聞こえても意味がわからないとは思うが、それでもやはり少し小声にならざるを得ない。
そのためふたりの肩が触れそうな雰囲気だが、それに比例するように後ろからの視線もトゲトゲしくなってきているのを感じ、リオンはサッと後ろを振り返る。
その動きに合わせてすぐに表情を和らげる者、覆い隠す者、王太子の動きを予測しなかったのか固まる者様々だが、ジェラウス・クーラン・クリシュアだけは自分の目が隠れているのをいいことに、王太子への視線を逸らすだけで表情を変えた様子はない。
「……アルベール」
「御前失礼いたします」
すでに卒業して学園内にいないはずのアルベール・ラダ・ディーファン公爵令息が彼らのさらに後ろから歩み寄ってきたのを振り返って見た学園側近たちは、その突然の現れ方にビクッとしてさすがに固まった。
「王太子殿下がお飲みになったスープですが、我が屋敷の庭で摘まれた滋養強壮の薬草、野菜、鳥の骨を煮込み、少量の塩と胡椒……他の成分は検出されませんでした。ちなみに薬草は我が母が王妃様にお納めしている物を少しシーナ嬢に融通したとのことです」
「だろうね」
ジロッと学園側近たちを睨みつけながらアルベールが報告すると、リオンは肩を竦める。
政略結婚とはいえ幼い頃から仲を育み、激しくはないが優しい愛情を互いに持つ国王夫妻は今だ仲睦まじく、ディーファン公爵夫人が庭で育てる薬草園から摘まれた滋養強壮の薬草のおかげで、五年前には弟が産まれ、実は第三子が王妃の胎にいるほどだ。
そんな国王夫妻の体調管理に役立っている薬草を使ったシーナ特製のスープが、王太子の身体に害を為すはずもなく、しかもそのスープでルエナが生気を取り戻してきている。
「やっぱり婚約者としてはルエナ嬢がどんな物を食しているか、僕が知ることも必要だろう?」
全然必要ではないのだが、王太子は自らあのスープを所望したという体を装う──実際はシーナの不意打ちで勝手に飲ませたのだが。
「まあ、あんなに薄味だとは思わなかったから、思わず噎せてしまったけれど……今までの『病人食』と言われているものよりずっと美味しかったからね。あれを一般に普及させることができないかなと思ってね」
確かに糊状粥に比べれば塩などで調整してる分、病人やけが人の回復食としてシーナのスープの方がずっと美味しいはずだった。
学園に上がる前の年少のきょうだいならばともかく、リオンとシーナは時折り婚約者でも人前では見せないような近付き方をした。
そこに恋愛感情はなくとも、見る者が見れば邪推されること間違いなしの行動だが、それはもちろんふたりとも承知の上である。
「……そういう言えば、日本でもかなり昔って『男女七つにして机並べず』だっけ?」
「『席を同じうせず』じゃなかった?とにかく一緒の部屋にいちゃいけないとか、隣あって座っちゃいけないとか……まあかなりどころじゃない昔は御簾越しでしか対面できなかったとか、代弁するお付きがいたとか」
「ああ!源氏物語の挿絵とかね。平安ファンタジー……そっちに転生してたら、それはそれで楽しそう」
「いや、女の自由度半端なく無いから!今のお前だったら、お転婆どころじゃなく幽閉案件じゃね?てか、姫転生限定かよ!」
訳の分からない単語がズラズラ早口で出てきているから、後ろから数歩離れて付いてくる五人の学園側近たちには聞こえても意味がわからないとは思うが、それでもやはり少し小声にならざるを得ない。
そのためふたりの肩が触れそうな雰囲気だが、それに比例するように後ろからの視線もトゲトゲしくなってきているのを感じ、リオンはサッと後ろを振り返る。
その動きに合わせてすぐに表情を和らげる者、覆い隠す者、王太子の動きを予測しなかったのか固まる者様々だが、ジェラウス・クーラン・クリシュアだけは自分の目が隠れているのをいいことに、王太子への視線を逸らすだけで表情を変えた様子はない。
「……アルベール」
「御前失礼いたします」
すでに卒業して学園内にいないはずのアルベール・ラダ・ディーファン公爵令息が彼らのさらに後ろから歩み寄ってきたのを振り返って見た学園側近たちは、その突然の現れ方にビクッとしてさすがに固まった。
「王太子殿下がお飲みになったスープですが、我が屋敷の庭で摘まれた滋養強壮の薬草、野菜、鳥の骨を煮込み、少量の塩と胡椒……他の成分は検出されませんでした。ちなみに薬草は我が母が王妃様にお納めしている物を少しシーナ嬢に融通したとのことです」
「だろうね」
ジロッと学園側近たちを睨みつけながらアルベールが報告すると、リオンは肩を竦める。
政略結婚とはいえ幼い頃から仲を育み、激しくはないが優しい愛情を互いに持つ国王夫妻は今だ仲睦まじく、ディーファン公爵夫人が庭で育てる薬草園から摘まれた滋養強壮の薬草のおかげで、五年前には弟が産まれ、実は第三子が王妃の胎にいるほどだ。
そんな国王夫妻の体調管理に役立っている薬草を使ったシーナ特製のスープが、王太子の身体に害を為すはずもなく、しかもそのスープでルエナが生気を取り戻してきている。
「やっぱり婚約者としてはルエナ嬢がどんな物を食しているか、僕が知ることも必要だろう?」
全然必要ではないのだが、王太子は自らあのスープを所望したという体を装う──実際はシーナの不意打ちで勝手に飲ませたのだが。
「まあ、あんなに薄味だとは思わなかったから、思わず噎せてしまったけれど……今までの『病人食』と言われているものよりずっと美味しかったからね。あれを一般に普及させることができないかなと思ってね」
確かに糊状粥に比べれば塩などで調整してる分、病人やけが人の回復食としてシーナのスープの方がずっと美味しいはずだった。
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