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近親

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『アプリゲーム』や『小説』ではあり得なかった『リオン王太子の弟妹』という存在。
考えてみれば王家の跡取り息子がひとりっきりなんて、国家として危ういことこの上ない事態だ。
『王太子のスペア』として多数の男兄弟を必要とするのは、人間的感情論としてはともかく、機械的な意味では国家を運営していくのに欠かせない存在なのだ。
「あー……その、アルベールには理解しづらい話にはなるんだが……」
「今さらです、殿下」
「う、うん……つまり……現国王はなかなか子宝に恵まれず」
「つまり不妊症」
「ああ……この世界ではまだその原因は女の方にあると決めつけられているし、原因特定検査ができるわけでもない」
「……そうね。アタシたちの世界でだって、男性側原因が認められたのはそんなに前のことじゃないし、今だって『俺の方が原因なわけはない!』って検査自体拒む男は多いじゃない」
「うん……で、まぁ……母上の身体はたぶん正常で、父上の方が無精子症か、それに近い状態だと思われるんだ」
「ふぅん……どうやって?」
「ん?あ、ああ……俺を妊娠できたのは、その頃やっと王太子として十年間の激務が何とかひと段落して、婚姻五年後にしてやっと三ヶ月ほど、海辺のプライベート別荘地に母上と閉じ籠ることができたおかげなんだ」
「海辺……海産物……粗食?」
「らしい。その時に王宮で食べられているような贅沢なものではなく、近隣を治める子沢山で健康的なルーファン伯爵家が推奨していたのが、まあ全粒粉のパンとか未精製の物と魚とか貝といった海産物料理だったんだよね」
「ルーファン伯爵家って」
「母上の実家ではないですか!」
シーナはピンとこなかったみたいだが、さすがにアルベールが反応するとリオンが肯定した。


婚姻前から執務室に閉じ籠り、王宮の謁見の間に閉じ込められ、陽に当たるのはたった数十分という不健康極まりない王太子激務生活から、朝日をしっかり浴びて夕日が海に落ちるまでと外にいても咎められず、生命の力強さをすべて取り除かれたような繊細な宮廷料理とは正反対の地の物を使った田舎料理を食べるという健康的な生活が、ようやく結晶を結んだのである。
「……要は不摂生による精子不活と」
「言いたくはないけど、やっぱり近親婚……だろうな」
医療科学の進んだ前世での知識があっても、この国で活かすことは難しい。
さすがに正妃から異常子の誕生や流産が続き、王家から遠い家格の低い令嬢を『王太子のスペア』を産ませる借り腹として召し上げた子ばかりが正常に育つことを寿ぐよりも、婚家が呪われていると言いがかりをつけて、三親等より離れた婚姻関係が新たに繋がれて王家が復活する──
「そうは言ってもやっぱり完全に血縁者を無視することはできない。母上は父上のいとこだから……」
「まぁ……異母妹じゃないって言うんなら」
「それはさすがに……現代っ子だった俺らにはキツいだろ……」
うげぇ…という顔をリオンはするが、やはりアルベールには半分ほどしか意味が解らない。
「……子ができないというのは、母親の……つまり、王妃殿下のご実家に問題があると言われていたのでは……?」
現王妃の実家はディーファンよりもずっと歴史の長いフェディアーナ公爵家で、十数代前の王の末弟が臣下降籍して興った家だが、たびたび余剰となった王家の姫が嫁ぐ一番家格の高い公爵家である。
現王妃の二代前には王家の姫がふたり、双子であった長男と次男にそれぞれ嫁ぎ、その孫娘が王家に嫁ぐという濃密すぎる近さだったが──また間の悪いことに、王と王妃は幼少から互いを好ましく思う恋愛結婚であり、そのため他の令嬢や令息に割り込まれる余地を徹底して王が作らなかったのだ。
だからこそ他の高位貴族たちが反対したのである。
「王家の血が偏ることを快く思わない神が、王家に新しい血を入れよと宣言されたのだ!」
そう言って側妃を薦める声が高まった成婚五年後──ようやく王太子がその身に宿った。


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