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授業・2

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その後もシーナが選択した授業は主に女性が手に職をつけ、専門職として働けるものばかりだった。
というよりも跡取りになりようのない令息令嬢は、自ら収入を得る術を持たねば先がない。
もっともすでにシーナは『名前のない画家』としてその作品はかなり高値で取引される『美術品』を生み出す仮想資産家である。
今は子供の頃に父親が行っていたような乱暴なやり方ではないが、やはり変装して肖像画を描きに貴族たちに呼ばれているが、それがこのように可愛らしい女性であると知っている貴族といえば王族を始め、高位貴族の中でもさらに少ないのだ。
しかもディーファン公爵家はリオン王太子付きの最側近の座を約束されているアルベールが縁で、シーナの正体を明かしてもらえ、その身柄をも預けるというある意味『栄誉』を与えられたのである。
だからこそ、こんなにもシーナが侍女としてだけでなく、女中として雇われることも可能な技術を身につけようとしているのか、アルベールには今いちわからない。
「……どちらかといえば、君が雇う方になるだろう?」
おそらくだがシーナが本気で描いた絵画を売りに出したとしたら、とてもではないが下位貴族以下では絶対に手が出ない価値が付く。
それはアルベール個人が王宮勤めの貴族としてもらえる報酬の何分の一かもしれないが、たった一枚の絵ではなく例えば同じ場所を描いた風景画で季節ごとの連作だとすれば、それはその家の家宝となるぐらいの価値となるのだ。
実際にディーファン公爵家で預かっているシーナの絵をすべて売ってしまったとしたら、公爵家の現在の総資産に迫るかもしれないこの令嬢は、例えオイン子爵家で一生独身を貫こうとも構わないほどの財産を得て、義父となった伯父と実父を養いつつ大きい屋敷を購入し、使用人を見栄えよく雇うこともできる。

そう考えて、ふとアルベールは寂しくなった。

もし万が一にもシーナがオイン子爵家存続を望むのならば、アルベールが望む未来はその時点で絶たれてしまうことを意味している。
「別に誰かを雇いたいなんて思わないわ。でもこういう家政ができるようになれば、父たちに何かあってもアタシが対処できるでしょ?それに……アルが言ったことだって、いいかげんにするつもりはないんだから」
手を動かして装飾のためではなく、丈夫さを補完するための刺繍をひと針ずつ縫っているシーナの耳が赤い。
攻略だのなんだの、『ゲーム』とか『小説』とか余計なことを考えなければ、今のシーナが誰を選ぼうが関係ないのだ。

だが──それをするのは、今じゃない。


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