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失神

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シーナにとってはある意味見慣れた溺愛シスコンの微笑みだったが、どうやらここにいる他の令嬢たちには刺激が強すぎたようで、あちこちで隣席の令嬢にもたれかかるようにして気を失う者が次々と現れる。
(ひょっとして、アルベールに抱き起してほしいのかしら?)
シーナはそう意地悪く思ったが、本当に気絶している者がいる中で、ふらりとしながらもチラチラとアルベールに視線を投げている令嬢もいたので、それはあながち穿った見方でもないようだった。
「……ずいぶんとシーナ、嬢のご学友には病弱な令嬢が多いようだな。これでは将来由緒正しい家には呼ばれないな……学医で荷が重いようならば、宮廷医局部より誰かこの者たちの健康管理を行うよう、私から学長に進言しよう」
まさか自分が大量失神者の発生元とは思わなかったのか、いたって真面目な顔でアルベールがシーナに頷いた。
敬称を呼ぶ時につっかえたのは、きっとこの長期休暇中に『嬢』とつけずに呼ぶことに慣れてしまったからだと思おうと、シーナはあえてそこはスルーし、同意の頷きを返す。
「そうね。侍女のお仕事ってけっこう長時間にわたるもの。女主人の側に侍るお仕事でも起きてから寝るまでほぼつきっきりだし、サロンや食事の時の給仕、お客様をお迎えするだけの侍女でも、ご主人様から退出の許可がでなければずっと立ちっぱなしで待機だものね……体力いるって改めて知ったわ~」
「ああ、そうだな。母はそのような奉公に行く前に婚姻したから、あなたのような感想を持ったことはないと思うが。しかし私も祭典などでは、殿下の後ろに立ったままで長時間待機が当たり前だからな……あれを毎日行う使用人たちには感謝せねば……」
発言がもう『雇う側』であるのは、産まれた先が公爵家だから仕方ないのかもしれない。
しかしこの部屋にいる者の半分──いや、三分の一ぐらいはアルベールのように乳母などに傅かれて生活してきたのが当たり前の令嬢なので、『雇われる側』として見られることに、今さらながらショックを受けた顔をしている。
その中にはさっきまで気を失っていたはずの令嬢まで含まれているのには、思わず笑ってしまったが。
「それはともかく、女性同士で気を失っている者を運ぶのは無理だろう。仕方ない……」
アルベールが立ち上がろうと体を動かすと、そこここでキャーと小さな嬌声が上がったが、進んだ先はまだ気絶しているのかフリのままプルプルと支えている令嬢と共に震えている者の方ではなく、廊下に面した扉の方だった。
「救護者をここへ。担架を十台ほど。女騎士も同数を呼び、担架運びとして騎士を二十名寄こすように」
「王太子殿下より手配され、すでに待機済みです。速やかに救護し、編成済みの臨時救護医療班もこちらに向かっているとのことです」
「……こうなるの、わかっていたのかしら?」
ゲームや漫画のストーリーで確かにルエナがシーナに当てつけるようにふらりと倒れ、それに追従する令嬢たちも『シーナ嬢が身分を弁えないから』という言いがかりをつけるような場面があったが、それがここだったろうか?


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