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覚悟

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だがその想いは無理やり強制されたものかもしれない──シーナはそう思ったが、アルベールは違う。
いや、ひょっとしたらそういう現象が起きうるかもとあらかじめ、リオンと三人で話し合ってはいたものの、やはり現実にシーナを狙っていたと聞いて穏やかではいられない。
しかもそれは単にリオンへの忠誠心でも、逆に対抗心でもなく、純粋にシーナへの恋慕が軸であればなおさらである。
だが──
「どういう手段であれ、アタシがイストフ……あなたの気持ちに答えることはないわ。あなたに気持ちが無いっていうだけじゃなく……アタシは誰にも嫁ぐ気はないから。できればこのまま、本当にルエナ様の話し相手コンパニオンとして、ディーファン家に仕えてもいいと思ってるぐらい。それが叶わないのならば……別に実家に籠って絵を描いて生きていければいいわ」
「絵……?」
「他言無用だ。彼女は今貴族たちの間で有名な『名のない画家』だ」
ギュッと拳を握り、アルベールが押さえた声でイストフの問いに答える。
アルベールはディーファン公爵家のたったひとりの嫡男──亡くなれば継承権はルエナが入り婿を取ってその男が暫定的に受け継ぐが、リオン王太子が妹を手放さないと決めている現在、よほどのことがない限りアルベールが血を繋ぐための婚姻を選ばなければならない。
その相手と決めているシーナが首を縦に振らない限り、嫡男として他家の令嬢を政略結婚で迎えて偽りの家庭を築くか、生涯独身を貫き近い縁者を養子に迎えることになるだろうが、アルベール自身は答えをもう決めている。
「名の……ない……あの、素晴らしい絵の……?」
脳筋系キャラクターといえばたいていは芸術に興味も見る目もないものと相場が決まっているが、この国では爵位のある家であれば芸術に対して理解があるようにと、幼少期から徹底して叩き込まれたりその才能がないかと家庭教師をつけられる。
そのため興味があろうとなかろうと観劇や音楽鑑賞、そして美術展覧会などに参加するのは必須で、シーナの描いた絵画を手に入れた貴族が自慢のために開く自邸展覧会でイストフも見たことがあるらしかった。
「俺は彼女の生きたいと思う人生を、生涯をかけて守り抜く。彼女自身が男性に触れられたくないというのならばそれを尊重し、彼女が苦しい思いをしないように見守る……お前には、その覚悟があるのか?」
「……は?いや、でも……そんな……」
貴族の家に嫁ぐということは、例え子をさなくとも夫の無聊を慰めるために肌を合わせないということはなく、むしろ年頃の青少年として自分のモノとなった女に指一本触れずにいられるなど──
「己の欲望を遂げるためだけににシーナ嬢を囲おうとしていない……そう言い切れるか?一生涯、彼女を手元に閉じ込めながら、その間その姿を守ることだけに徹し、絶対に無体を働かないと誓えるのか?」
「そっ……それ、はっ……」


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