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恋心

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そう言うシーナとアルベールは互いの顔を見、同時に頷く。
そのタイミングの良さは単なる『仲良し』ではなく、阿吽の呼吸で一緒にいるのが当たり前の存在──
「……どうしたの?」
「あ、いえ……」
ふとイストフには別の存在が頭をよぎり、シーナに抱いていた幻想的な恋慕の感情が薄れているのを見て取ったのか、シーナが訝し気にこちらに視線を寄こした。
いつもならこんなふうにチラリと見られただけで歓喜のあまり、『仲間』であるはずの学園内側近たちをすべて押しのけてシーナの横に立とうとしたかもしれないが、この数分の間で何かが徹底的に変わってしまったのである。
「いや……あれ……?何だろう……?おか、しい……」
激しい劣情も、燃え盛る庇護欲も、彼女のためなら命を捨てても構わずたとえ公爵家であっても打倒すべしという思考さえも鎮火し、ストンと気持ちが落ち着いていた。
心なしか自分の周りの空気すら、今までどんよりしていたのがくっきりと澄み渡っている気がする。
「……いえ、おふたりを見て……『幼馴染み』だと言われて……自分にも、そんな存在がいたな…と……」
「ふぅ~ん……それって、可愛い女の子でしょう?」
「なっ……!」
ニヨニヨとシーナが笑うと、イストフは一気に顔を赤くした。
今までそんなふうに考えたことはない。
あの子は常に可愛い妹で──いずれは義姉になり──
「あ…アルベール……殿……様っ……」
「いや、別に今さら改まれなくてもいいが……」
「あの!お、俺をっ!リオン王太子殿下の護衛側近として、推薦してもらうことは可能でしょうかっ?!」
「ん?」
「え?」
「もし……仮に、いや本当に……ルエナ…嬢が、リオン殿下とご成婚なさるならば、我が兄の配偶者にという話はなくなります。しかしそれでは、十二歳も年の離れた幼い婚約者を手放すという話も有耶無耶に終わるでしょう。いや、俺だって彼女とは七つも違うから、あっちがどう思っているかわからないけど……たった今、思い出した……どうして忘れていたのかわからないけれど……俺、あの子が好きだったんです」
晴れ晴れとしたその表情に嘘はなく、代わりに何やら強い使命感を見出したその表情で、イストフは黙ったままのアルベールに訴えかける。
「今の彼女は十一歳です。五年後の十六になれば、兄との婚姻式が行われてしまう。だったらその五年後までに俺は王太子護衛側近頭として名を上げ、彼女を攫います!」
「ええええ……」
攫うのは確定なのかと、シーナがやや引き攣った顔で呻いた。


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