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瑕疵
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だがそんな現状に一石どころか三石か四石ぐらいはまとめて投げつけられる立場にあるのが、転生したリオンだ。
この『フォーチュン・ワールド~運命の人を探して~』という乙女ゲームがほぼリアルになったこの世界において、異質であるリオンとシーナにとってディーファン公爵令嬢のルエナは最上の推しであり、ひとつやふたつやみっつやよっつ…十個の瑕疵があったとしても論破したり修正して擦り傷程度に修復する自信がある。
こういった世界の悪役令嬢の例に漏れずヒロインを陥れようとするルエナは、脇が甘すぎる部分や感情的というよりもまるっきり頭の使い方を間違っているため、他の常識的な令嬢たちから冷笑されたり足元をすくわれるきっかけを与えたりするのだがおそらく本人は気が付いていない。
その部分に関しては何度プレイしても小説を読んでもイライラしっぱなしだったというのに、凛音は悶え叫んでうるさかったっけ。
「ああ~~!もう!!ヤバい!美女のメンヘラ!詩音もコレ系なの!ヤバし!」
「うるせぇわ!メンヘラでも美女でもないわ!」
「いや、イケるって!衣装は俺が用意するし!」
「コスプレかよ!!」
二次制作イラスト満載のサイトを覗きながらジタバタする凛音と笑えるようになったのは、十七歳の誕生日も超えた頃だったか──次兄が再び目の前に現れる半年前だったか。
ああ──せっかく凛音が用意しようとしてくれていた衣装、どうなったんだろうな。
シルバーロングヘアのかつらももうすぐ届くはずだった。
ひょっとしたらあの日だったのかも。
「……王家とて白い手袋を変えずに続いているわけではない。だが、王妃の手はいつまでも美しいままで。そんな矛盾に妹が耐えられただろうか」
思考の海に落ちかけたシーナの手を握るアルベールがポツリと零した。
「そうね」
ゲームや小説の中のルエナは公爵家の莫大な財産を使って自分を高めることも、たかが子爵令嬢を黙らせることもできずに破滅していった。
何と愚かなことか──そう思わずにはいられなかったが、所詮は他人の手で作られたものであり、単なるプレイヤーであり読者である詩音にはどうにもできないもどかしさをもたらした。
「純粋だわ……愚かなほど。ルエナ様は幼い頃から『思考する』ことを止められてしまってものね……十七歳ではなく、七歳の少女のように悪意の純粋培養だけされて」
「悪意の……」
「そう……アタシを陥れることで、必ず王太子妃候補から脱落するはずの、悪役令嬢に成長させるために」
「そんな……他にも、転生者…が……?」
「かもしれない」
ヒロインや悪役令嬢だけじゃなく、モブ令嬢に転生するという話も最近は流行りだ。
とはいえ。
「さすがに同じ作品に三人も……同時代に……って、考えにくいわ。むしろ……陥れるというのはアタシを目的としたわけじゃなく、ルエナ様の自滅を願って……」
王家を除けば最高位である公爵家の令嬢が、侯爵家はともかく、伯爵家以下の令嬢を蔑み、貧民を含む全国民に対して見下した言動を行う──そんな令嬢を次期国王の伴侶である王妃陛下を一体誰が望むだろうか。
そしてそんな令嬢をかたくなに望む次期国王と決まっている王太子を、将来の主人として貴族全体が支持するだろうか。
この『フォーチュン・ワールド~運命の人を探して~』という乙女ゲームがほぼリアルになったこの世界において、異質であるリオンとシーナにとってディーファン公爵令嬢のルエナは最上の推しであり、ひとつやふたつやみっつやよっつ…十個の瑕疵があったとしても論破したり修正して擦り傷程度に修復する自信がある。
こういった世界の悪役令嬢の例に漏れずヒロインを陥れようとするルエナは、脇が甘すぎる部分や感情的というよりもまるっきり頭の使い方を間違っているため、他の常識的な令嬢たちから冷笑されたり足元をすくわれるきっかけを与えたりするのだがおそらく本人は気が付いていない。
その部分に関しては何度プレイしても小説を読んでもイライラしっぱなしだったというのに、凛音は悶え叫んでうるさかったっけ。
「ああ~~!もう!!ヤバい!美女のメンヘラ!詩音もコレ系なの!ヤバし!」
「うるせぇわ!メンヘラでも美女でもないわ!」
「いや、イケるって!衣装は俺が用意するし!」
「コスプレかよ!!」
二次制作イラスト満載のサイトを覗きながらジタバタする凛音と笑えるようになったのは、十七歳の誕生日も超えた頃だったか──次兄が再び目の前に現れる半年前だったか。
ああ──せっかく凛音が用意しようとしてくれていた衣装、どうなったんだろうな。
シルバーロングヘアのかつらももうすぐ届くはずだった。
ひょっとしたらあの日だったのかも。
「……王家とて白い手袋を変えずに続いているわけではない。だが、王妃の手はいつまでも美しいままで。そんな矛盾に妹が耐えられただろうか」
思考の海に落ちかけたシーナの手を握るアルベールがポツリと零した。
「そうね」
ゲームや小説の中のルエナは公爵家の莫大な財産を使って自分を高めることも、たかが子爵令嬢を黙らせることもできずに破滅していった。
何と愚かなことか──そう思わずにはいられなかったが、所詮は他人の手で作られたものであり、単なるプレイヤーであり読者である詩音にはどうにもできないもどかしさをもたらした。
「純粋だわ……愚かなほど。ルエナ様は幼い頃から『思考する』ことを止められてしまってものね……十七歳ではなく、七歳の少女のように悪意の純粋培養だけされて」
「悪意の……」
「そう……アタシを陥れることで、必ず王太子妃候補から脱落するはずの、悪役令嬢に成長させるために」
「そんな……他にも、転生者…が……?」
「かもしれない」
ヒロインや悪役令嬢だけじゃなく、モブ令嬢に転生するという話も最近は流行りだ。
とはいえ。
「さすがに同じ作品に三人も……同時代に……って、考えにくいわ。むしろ……陥れるというのはアタシを目的としたわけじゃなく、ルエナ様の自滅を願って……」
王家を除けば最高位である公爵家の令嬢が、侯爵家はともかく、伯爵家以下の令嬢を蔑み、貧民を含む全国民に対して見下した言動を行う──そんな令嬢を次期国王の伴侶である王妃陛下を一体誰が望むだろうか。
そしてそんな令嬢をかたくなに望む次期国王と決まっている王太子を、将来の主人として貴族全体が支持するだろうか。
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