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机上

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その素敵な馬車の中──御者側のベンチには王太子と左右にクールファニー男爵兄弟、向かい側にはルエナとシーナが少し間を置きながらも行儀良く座った。
「な……何で、こっちはヤロウ専用席になってるのかな?シーナ嬢?」
「ほほほ。大切なルエナお嬢様に悪評判が付くような真似、させるわけがないでしょー?麗しい乙女の花のかんばせを眺める幸運を感謝なさい!」
「あ…あの……ぼ、僕たちも同乗して……よかったの…ですか……?」
目の前で高笑いする子爵令嬢を若干怯えている様子で横目にチラチラ見ながら、リュシアンがリオンに確認するが、シーナに対するじとっとした半目から、にっこりと完璧王子な顔に戻して頷く。
「うん、もちろん!いつもならアルベールは王宮で勤務だし、イストフは園外で行動を共にすることはない。それは『学園内側近』ではあっても同輩の者たちと一線を画するような扱いはなるべくしないように…といっても、それはもう無理なんだけどね。なんせ僕の卒業までに彼らがちゃんと『能力有り』と認められれば、アルベールを筆頭として王太子側近として召し上げられるのは決定筋だからね」
「え…は……じゃ、じゃあ、今一緒にいるイストフ先輩は……」
「う~ん……学園内側近の中ではやや武力寄りだけど、実はけっこう数字に強くてね?腕の立つ護衛兼文官としてアルベールの下につけたいな~って……さっき思いついたんだけど」
「んで、そのままエビフェールクス辺境侯爵に婚約者変更のゴリ押し?そんなに上手くいく?」
「いかせないとねぇ……イストフの初恋の君を無残な血塗れ花にするわけにいかないでしょーが。だって……12歳?13歳?時間がないんだ……もうあちらには使いをやっている。王太子婚約者が、ぜひ次期辺境侯婚約者と面会したいと希望してる…ってね」
「呆れた……」
「あ、あのっ……わ、わたくしはその……次期エビフェールクス辺境侯様との面識すらないのですが……?」
いったいなぜここで自分の名前が出てくるのか理解できず、ルエナ嬢は戸惑いの色を隠せない。
だが理由としては至極簡単──例え幼馴染みのような間柄とはいえ、七歳差の兄許嫁の令嬢をイストフにエスコートさせて王都まで連れて来いというのはおかしいし、オイン子爵はシーナの養父ではあるが領地がないため王宮での職を得ているためエビフェールクス辺境侯爵との繋がりがない。
おまけに未婚であるためたとえ社交界シーズンで貴族たちが王都に集まる季節であってもひとつ爵位が上の伯爵夫人を呼ぶためのお茶会を開くこともできない。
そしてリオン王太子が辺境侯爵の義理の娘になるはずの令嬢に対し、必要以上の興味を持っていると思われるような行動もできかねる。

それならばディーファン公爵令嬢であるルエナの名であれば?

王太子婚約者の令嬢が次期当主となる者たちの婚約者と親交を深めようというのは、まあこじつけ感があったとしても、顔を繋いでおくために幼い令嬢を寄こす可能性は高い。
だが時期としては領地が繁忙期であるため、辺境侯爵と次期当主は当然こちらに来ることは叶わず、かわりに王太子学園側近の役をもらうイストフにその小さな手を託すだろう。
何せ過不足なく王太子婚約者に次期辺境侯爵婚約者をエスコートできるところを見せれば、未確定の王太子側近の席が確実になると思うはずだ。
父であるエビフェールクス辺境伯にしてみれば、辺境を任される長男に続いて王都で太い繋がりを作る次男のことを見直すかもしれない。
『かもしれ』ばかりの机上論ではあるが、他に思いつく方法がなかった。


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