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童話

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もしもこの世界が『剣と魔法』という舞台であれば通じなかったかもしれないが、シーナが前世で読みまくった童話は大いに受けた。
『不思議の国のアリス』の次は『シンデレラ』、『白雪姫』、『眠れる森の美女』──本当は『かぐや姫』や『織姫』、『乙姫』、『瓜子姫』なども話してあげたかったが、さすがに世界観が合わず、今すぐ西洋風に脚色しようと思ってもどこかで齟齬が出そうで諦める。
「……とても、素敵だわ……」
聞いていないふりを続けていたルエナがポツリと零した。
一緒にいたくなければ出て行けばいいのに、ずっと同室にいるということは少しはシーナに対して歩み寄りの気持ちがあったり、幼い伯爵令嬢に対して心を開きたいと思ったのかもしれないし、何よりシーナが語る物語を楽しんでくれたのかもしれない。
そう思えば情感たっぷりに童話を話すのにも力が入る。

というか──

「ね?ルエナ様、エルネスティーヌ様?」
「何でしょうか、シーナ様?」
ルエナ嬢はピクリと身体を強張らせたが、エルネスティーヌ嬢はそれに気付かずに無邪気に問い返す。
「おふたりが知っている童話はございませんの?」
「どうわ……ですか?」
「えぇと……」
何故だか令嬢ふたりは困惑した顔でお互いを見る。
シーナはシーナで、赤ん坊や幼児期に聞かせられるはずの童話の類を自分が知らないのは、きっと生まれのせいだと思って尋ねたのだが、何だか様子がおかしいのに気付いた。
「どうわ、とは……先ほどのような楽しいお話しですか?」
「え~…うん、まあ……そうね……もう少しライトな……例えば『ウサギとカメの駆け比べ』だとか、『オオカミと七ひきの子ヤギ』とか、『犬のおまわりさんと迷子の子ねこ』とか……」
「え?う、ウサギとカメ?オオカミと子ヤギなど……すぐに食い殺されてしまうではないですか!」
「はい?」
理解できない顔を三人の令嬢はつき合わせたが、どうやらこの世界では子供向けのお話などないらしい。
「ゲームと現実の乖離とはいうけど……ここはそんなに子供に優しい世界ではないのね……」
「どういう……意味……?」
「ううん。何でもないわ。そうね……少し時間をいただける?きっとおふたりに楽しい物を見せてあげられるわ」
シーナはようやくルエナと距離が縮められそうな話題を見つけ、にっこりと笑った。


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