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配役

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当然のようにリオンは優し気な笑みを浮かべていても、特定の誰かには向けない。
視線も合わさず自分の横を守るイストフと、背中を守るように従うクールファニー男爵兄弟に話しかけはしても、何とか自分を見初めてもらおうとする令嬢たちには触れずにスタスタと歩き続ける。
「……ルエナ嬢がそばにいない時はシーナがいてくれたからな……まさかアイツがいなくて困ることがあるなんて……」
「あの……殿下……」
おずおずとリオネルが声を掛けてくるのに振り向き、足を止めずに目線だけで先を促す。
「ど、どうしてそんなにシーナ嬢と、その、親密というか……でもあのその……ルエナ嬢よりも親し気というか……」
「ん?あ、ああ……」
シーナは幼少期には実父によって男装させられ、王宮で画家として招かれていた時から顔を合わせていたのだが、その事実を知っているのはシーナ自身とその父、そしてシーナの描いたルエナのデッサンによって前世を呼び起こされたリオンと、将来はリオンの側近として仕えることが決まっていたアルベール・ラダ・ディーファンだけだ。
「何というか……まあ、ディーファン家繋がりでね」
「はぁ……」
しかしそれらをすべて明らかにすることはできないと考え、リオンは曖昧に言葉を濁したが、ディーファン公爵家に生まれついたルエナのおかげで、前世の妹と再会できたのは間違いない。
幼い頃に顔を合わせた瞬間、いまだ『ルエナ推し』の同志であると互いに認識した時のあの喜びよ。
思い出すだけで笑いが込み上げ、そしてストップモーションスチルしかなかったルエナ・リル・ディーファンという女性が実在したという幸福感に浸り、そしてゲームよりも酷い扱いを周囲から受けていたという衝撃に憤ったこと。

だが、転換された。

シーナはルエナを排除することなく、敵対ではなくそばにいることで彼女の運命を捻じ曲げ、リオンはルエナを断罪することなく、婚約者としての関係を維持したままでいる。
ルエナを追いつめるはずの側近たちは排除され、代わりにモブキャラとして描かれてもいなかった者たちがその空席を埋めた。
だが排除されずに残った者もおり、かつて持っていた恋心を取り戻して、シーナに執着することがなくなったのもまた、ゲームの流れから外れたとも言える。
「……でもなぁ……まさか悪役令嬢が悪役じゃなくなったら、他に配役が回るなんて聞いてないぞ……」
「はい?」
リオンの呟きを聞き取って返事をしたのは、自分のそばに控える誰だったろうか──


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