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待ちぼうけと不機嫌
──もう一人、虚ろな表情で夜明けを迎えた挙句、朝の支度をしにやってきた侍女たちに八つ当たりしている者がいた。
ガウシェーン大公の妹、エミリア姫である。
煽情的な夜着を纏い、寝室に忍んでくるはずの『殿方』を延々と待ちわびて夜を明かした。
兄のバカげた『花嫁選び』に付き合わされた王子や各国の貴人がその不幸を嘆き、一人寝の寂しさを慰めてほしいとやってくる予定だった。
だからこそ女たちに提供された翼にある自室で休むのではなく、男性たちに決められた翼の上階──かつて母が愛人を呼び寄せて睦みあうために造った仮初の寝室を整えさせ、理性を鈍くする媚薬混じりの香を焚かせて待っていてやったというのに──
「夜中に変な物音はするし!誰も来ないし!お風呂は温いし!ああもう!今朝からこんな果物とか甘いクリームとかいらないのよ!」
エミリアの勝手な妄想では、自分を求めてやってくるのは一人や二人ではなく、おそらくは兄に穢された男たちが全員悲しみに暮れ、もしくは怒りに任せて乱暴に──そうして激しく翻弄されての乱交饗宴は朝まで続き、裸のまま男たちに傅かれたり膝の上に乗せられ、ひとりひとりにこう「あ~ん」とかされながらいちゃいちゃと果物を食べさせ合ったりクリームを舐め合ったり。
「なのに!何で誰も来ないの?!」
同じ言葉が二度も叫ばれ、思わず侍女のひとりがクッと声を堪えた。
それが誰かと尋ねるより声がした方に枕を投げ飛ばし、エミリアはさらに近くでお盆を持っていた侍女に別の枕を叩きつける。
バシッ、バシッと連続で叩きつけられてガシャンとお盆が落ちるのと同時に侍女が床に倒れ込むと、正気を失った姫が追い打ちをかけるように何度も枕を振り下ろした。
招待二日目の朝、そこに機嫌の良い者など誰もいない。
招待主であるはずのマレク・デミアン・ガウシェーンは不機嫌さと好色な目付きを隠しもせず、招待客の男性側は皆警戒する目付きで大公を睨み、女性たちは皆軽蔑と怖気を混ぜた表情で誰も上座に付きたがらなかった。
仕方ないと溜息をついてロメリアが進み出たが、席に着く前にホムラが椅子を横にずらしてガウシェーン大公からわずかに開きをつける。
その横に堂々と侍女であるホムラが着席すると、ようやく令嬢令夫人、そして男性たちも席に着いた。
ロメリアが座るのと正反対の側にはロメリアにすっかり心酔したリリアン公女が、ホムラを見習って自分の侍女に指示を出して同じように離して座る。
そうやって次々と女主人が側付きを伴って着席したが、空席も目立った。
「……他の招待客はどうした?」
「はっ……そ、そのぅ……」
さすがに令夫人は皆揃っているが、特に若く王族に連ならない令嬢は宛がわれた部屋から出ようとしない──とはさすがに言えず、問いかけられた家令は何故か救いの手を求めるようにロメリアに目を向けた。
「ロメリア姫?何かご存じかな?」
「ああ……あなたと席を共にしたくないと言われたので、特に広いお部屋をお借りしてそちらに食事を運んでもらいました。それだけですわ」
「なっ……」
「何故かわたくしの頼み事は叶えるように言いつけられていると言われました。ですので使わせていただきました……何か、問題でも?」
人形の如き無垢な瞳を向け人形のように表情の変わらぬ顔をコテンと傾げて見せれば、一瞬だけ大公の顔がデロリと崩れたが、気を取り直したように咳ばらいをしてロメリアの言葉を肯定した。
「ウッ、ンンッ……そ、そうか。ご婦人方には気持ち良く過ごしていただきたいと申し付けたが、さっそく役に立って何よりだ」
「ええ、ありがとうございます」
そんなに素直に礼を言われるとは思わなかったのか、好色そうな顔つきだったはずの大公はポカンとわずかに下げられた金色の頭を注視した。
ガウシェーン大公の妹、エミリア姫である。
煽情的な夜着を纏い、寝室に忍んでくるはずの『殿方』を延々と待ちわびて夜を明かした。
兄のバカげた『花嫁選び』に付き合わされた王子や各国の貴人がその不幸を嘆き、一人寝の寂しさを慰めてほしいとやってくる予定だった。
だからこそ女たちに提供された翼にある自室で休むのではなく、男性たちに決められた翼の上階──かつて母が愛人を呼び寄せて睦みあうために造った仮初の寝室を整えさせ、理性を鈍くする媚薬混じりの香を焚かせて待っていてやったというのに──
「夜中に変な物音はするし!誰も来ないし!お風呂は温いし!ああもう!今朝からこんな果物とか甘いクリームとかいらないのよ!」
エミリアの勝手な妄想では、自分を求めてやってくるのは一人や二人ではなく、おそらくは兄に穢された男たちが全員悲しみに暮れ、もしくは怒りに任せて乱暴に──そうして激しく翻弄されての乱交饗宴は朝まで続き、裸のまま男たちに傅かれたり膝の上に乗せられ、ひとりひとりにこう「あ~ん」とかされながらいちゃいちゃと果物を食べさせ合ったりクリームを舐め合ったり。
「なのに!何で誰も来ないの?!」
同じ言葉が二度も叫ばれ、思わず侍女のひとりがクッと声を堪えた。
それが誰かと尋ねるより声がした方に枕を投げ飛ばし、エミリアはさらに近くでお盆を持っていた侍女に別の枕を叩きつける。
バシッ、バシッと連続で叩きつけられてガシャンとお盆が落ちるのと同時に侍女が床に倒れ込むと、正気を失った姫が追い打ちをかけるように何度も枕を振り下ろした。
招待二日目の朝、そこに機嫌の良い者など誰もいない。
招待主であるはずのマレク・デミアン・ガウシェーンは不機嫌さと好色な目付きを隠しもせず、招待客の男性側は皆警戒する目付きで大公を睨み、女性たちは皆軽蔑と怖気を混ぜた表情で誰も上座に付きたがらなかった。
仕方ないと溜息をついてロメリアが進み出たが、席に着く前にホムラが椅子を横にずらしてガウシェーン大公からわずかに開きをつける。
その横に堂々と侍女であるホムラが着席すると、ようやく令嬢令夫人、そして男性たちも席に着いた。
ロメリアが座るのと正反対の側にはロメリアにすっかり心酔したリリアン公女が、ホムラを見習って自分の侍女に指示を出して同じように離して座る。
そうやって次々と女主人が側付きを伴って着席したが、空席も目立った。
「……他の招待客はどうした?」
「はっ……そ、そのぅ……」
さすがに令夫人は皆揃っているが、特に若く王族に連ならない令嬢は宛がわれた部屋から出ようとしない──とはさすがに言えず、問いかけられた家令は何故か救いの手を求めるようにロメリアに目を向けた。
「ロメリア姫?何かご存じかな?」
「ああ……あなたと席を共にしたくないと言われたので、特に広いお部屋をお借りしてそちらに食事を運んでもらいました。それだけですわ」
「なっ……」
「何故かわたくしの頼み事は叶えるように言いつけられていると言われました。ですので使わせていただきました……何か、問題でも?」
人形の如き無垢な瞳を向け人形のように表情の変わらぬ顔をコテンと傾げて見せれば、一瞬だけ大公の顔がデロリと崩れたが、気を取り直したように咳ばらいをしてロメリアの言葉を肯定した。
「ウッ、ンンッ……そ、そうか。ご婦人方には気持ち良く過ごしていただきたいと申し付けたが、さっそく役に立って何よりだ」
「ええ、ありがとうございます」
そんなに素直に礼を言われるとは思わなかったのか、好色そうな顔つきだったはずの大公はポカンとわずかに下げられた金色の頭を注視した。
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